↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星と呼ばれた少女  作者: さかい
地の神国
PR
119/125

第六話 暮らしの音


 宿へ荷物を置くと、ヴァスキさんが静かに口を開いた。


「ヴェル、私たちは風の神国への報告を済ませておきましょう。」


「ああ。」


 ヴェル様も頷く。


「地の神国に滞在する以上、必要な対応は済ませておきたい。」


 どうやら二人は、この後しばらく別行動になるらしい。


「すまない、ヒカリ。」


 ヴェル様が少し申し訳なさそうに笑う。


「気にしないでください。」


「お仕事ですもんね。」


「よし!」


 その様子を見ていたカグツさんが、ぱんっと手を叩いた。


「それじゃあ、その間は私が案内してあげよう!」


「何度かこの街には来てるからね。」


「きっと楽しめると思うよ。」


「本当ですか?」


「もちろん!」


 カグツさんはにっと笑う。


「さぁ、行こうか。」


 こうして私は、カグツさんとレンと一緒に、地の神国の街を歩くことになった。


 ◇


 街を歩いているだけで、新しい発見が次々と目に飛び込んでくる。


 見慣れない道具。


 神力を使わずに動く仕掛け。


 店先では職人さんたちが慣れた手つきで道具を手入れしていた。


 けれど、誰もそれを特別なものとは思っていない。


 それが、この国では当たり前なのだ。


「それにしても……。」


 私は辺りを見回した。


「他の国より、多種族の人が多い気がします。」


「よく気付いたね。」


 カグツさんが嬉しそうに笑う。


「昔からいろんな種族が集まる土地だったからね。」


「神族も、人族も、それ以外の種族も。」


「この国じゃ、あんまり珍しいことじゃないんだ。」


 言われてみれば。


 背丈も肌や髪の色も、本当にさまざまだ。


 みんな自然に笑い合い、同じ街で暮らしている。


「おや。」


 露店のおばあさんが、私を見て目を丸くした。


「お嬢ちゃん。」


「綺麗な髪だねぇ。」


「癖のない黒髪なんて、この辺りでもなかなか見ないよ。」


「え?」


 思わず自分の髪に触れる。


「それに、その髪飾りもよく似合ってる。」


「良かったら、うちの商品も見ていきなよ。」


 露店には色とりどりの髪飾りが並んでいた。


 花を模したもの。


 小さな宝石があしらわれたもの。


 どれも繊細で、とても綺麗だ。


「ほぉ。」


 カグツさんが商品を覗き込みながら笑う。


「ヒカリちゃん、気に入ったものがあれば買ってあげるから言ってね。」


「う〜〜ん……。」


 どれも可愛い。


 少しだけ心が揺れる。


 でも。


 私はそっと今つけている髪飾りに触れた。


「いえ。」


「これ、気に入ってるんです。」


「可愛いものばかりですけど、遠慮しておきますね。」


 レンにもらった髪飾り。


 なんだかこれがしっくりきて、他のものを選ぶ気にはなれなかった。


「そうかぁ。」


 カグツさんは優しく微笑む。


「大事なものなんだね。」


 私は少し照れくさくなって、小さく頷いた。


 その時だった。


「きゃっ!」


 近くで女性の声が響く。


 籠が手から滑り落ち、中に入っていた野菜が石畳の上をころころと転がっていった。


「あっ!」


 私は慌てて駆け寄り、転がった野菜を拾い集める。


 すると、その隣へレンもしゃがみ込み、何も言わずに野菜を拾い始めた。


 二人で手分けをすると、あっという間に籠はいっぱいになる。


「ありがとうございます!」


 女性は何度も頭を下げた。


 その視線が、ふとレンへ向く。


「わぁ……かっこいい!」


 女性はぱっと顔を輝かせる。


「お兄さん、良かったらこのあと一緒にお茶でもいかがですか?」


「……。」


 レンは首を横にふるふると振る。


「せめて名前だけでも!」


「宿泊先でも!」


 女性は諦めない。


 困ったように立ち尽くすレン。


 ……なんだろう。


 胸の奥が少しだけもやもやした。


「……カグツさん。」


「ん?」


「出番ですよ。」


 私はカグツさんの背中をぐいっと押した。


「お姉さん!」


 カグツさんが二人の間へひょいっと割って入る。


「こちら、保護者付きなので失礼しますね!」


「えっ?」


 女性が目を丸くする。


 すると今度はカグツさんを見て頬を赤くした。


「わっ……こっちも素敵!」


「えぇ?」


 カグツさんは苦笑しながら頭をかく。


「ごめんね。」


「今日は家族で街を回ってるところなんだ。」


「またどこかで会ったら、その時はよろしく。」


 女性は名残惜しそうに手を振り、その場を後にした。


 しばらく歩く。


 すると隣から視線を感じた。


「……何か怒ってる?」


 レンが不思議そうに私の顔を覗き込む。


「……別に。」


 自分でも驚くくらい、ぶっきらぼうな返事になってしまった。


「ふぅん……。」


 レンは首を傾げる。


 カグツさんは何も言わず、小さく笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。