第三話 広がる大地
翌朝。
朝食を終えた私たちは、再び馬車へ乗り込んだ。
御者台ではカグツさんが手綱を握る。
「もう少しで地の神国だよ」
振り返って笑う。
「地の神国ならではの美味しいもの、楽しみにしててくれ」
「はい」
私は頷き、窓の外へ目を向けた。
街道はゆるやかな丘を越えていく。
風が吹くたび、草がさらさらと揺れる。
景色は、どこか穏やかだった。
ヴェル様も窓の外へ視線を向ける。
「ヒカリ」
「はい?」
「見てみるか?」
「え?」
「上からの方が、よく見える」
そう言って微笑みながら手を差し出した。
私は少しだけ迷ってから、その手を取る。
ふわり、と身体が浮いた。
「わっ」
思わずヴェル様の服を掴む。
「あちらだな」
穏やかな声が耳元で響く。
ゆっくりと高度が上がっていく。
「わぁ……」
思わず声が漏れた。
どこまでも続く草原。
風が吹くたび、草は波のように揺れている。
その中に、小さな家がぽつり、ぽつりと見えた。
畑を耕す人。
煙を上げる家。
のんびりと草を食む家畜。
穏やかな時間が流れていた。
「すごい……」
ただ、その一言しか出てこない。
ヴェル様は景色を見つめながら、小さく微笑む。
「風の神国とは違った、美しい景色だな」
「……はい」
私は何度も頷いた。
綺麗というより、落ち着く景色だった。
胸の奥が、ふっと軽くなる。
しばらく。
二人でその景色を眺めた。
「ヒカリちゃ〜ん!」
下からカグツさんの声が聞こえる。
見下ろすと、大きく手を振っていた。
「そろそろ行くよ〜!」
「はい!」
ヴェル様はゆっくりと降りていく。
足が地面につくと、カグツさんがにっと笑った。
「どうだった?」
「すごく……素敵でした」
「だろ?」
まるで自分のことのように嬉しそうだった。
馬車は再び街道を進み始める。
私はもう一度、窓の外を見る。
どこまでも続く草原。
その先には。
まだ見ぬ景色が待っている。




