第一話 失われた目的
地の神国への旅路は、馬車になった。
長時間、馬に乗れない私への配慮なのかもしれない。
窓の外では、レンたちが馬を並べて進んでいる。
時折聞こえる話し声も、今はどこか遠く感じた。
私は、疲れてしまった。
元の世界へ帰る。
その目的は、もう失われてしまった。
この世界へ来て、二年以上が経つ。
ここまで、本当によく頑張ったと思う。
だからだろうか。
張り詰めていた糸が、ぷつりと切れてしまったみたいだった。
そもそも。
私は、本当にヒカリなのだろうか。
この世界へ来た時から、ずっと違和感はあった。
星。
神託。
神聖樹。
そして、アステル。
まるで最初から、この世界と繋がっていたかのように。
私は何者なんだろう。
何のために、この世界へ来たのだろう。
もう、これから先のことを考える気力すら湧かなかった。
◇◇◇
「ヒカリさん、大丈夫ですかね」
馬車へ視線を向けながら、ヴァスキがぽつりと漏らす。
「……時間が必要じゃないかな」
カグツは穏やかに微笑んだ。
「立ち上がるのはヒカリちゃんだから。」
「私たちは見守ることしかできない、ね」
「そうですね……」
ヴァスキは静かに頷いた。
しばらく沈黙が流れる。
その空気を変えるように、カグツが口を開いた。
「馬車は用意してよかったよ」
「そうですね。ヒカリさん、休めていればいいのですが」
「ん?あ、そうだよね」
「……何ですか、その反応は」
「ほら。君のところの眩し――おっと、煌びやかな方がさ。やっぱり目立ち過ぎちゃうからね」
「あぁ、そういうことですか」
「別に、フードを被れば目立たないと思うが……」
ヴェルが不思議そうに首を傾げる。
「うーん、それはちょっと無理かな」
「何故?」
「だって、フードを被ってても『あの人、絶対かっこいい』って分かる人っているじゃない?」
「……?」
ヴェルは本気で意味が分からないという顔をした。
「つまり、そういうこと」
カグツが肩をすくめる。
小さな笑い声が、穏やかな街道に響いた。
その後。
ずっと黙っていたレンが口を開く。
「地の神国は安全なの?」
「ん?」
カグツがレンを見る。
少しだけ間が空く。
「ヒカリを、少し休ませたい」
その一言だけだった。
カグツは馬車へ視線を向け、小さく頷く。
「……うん、そうだね」
「地の神国は農業大国だからね。大都市は少ないし、人口もそこまで多くない」
「基本的には治安の良い国だと思っていいよ」
「しばらくは、ゆっくり過ごせるはずさ」
レンは静かに頷き、それ以上は何も言わなかった。
◇◇◇
馬車は、静かに街道を進んでいく。
窓から差し込む風が、そっと髪を揺らした。
外では、またみんなの話し声が聞こえる。
何を話しているのかは分からない。
でも。
その声を聞いているだけでよかった。
今は。
何も考えたくない。
何も決めたくない。
少しだけ。
少しだけ、このまま休んでいたかった。
私は、その揺れに身を任せるように、ゆっくりと目を閉じた。




