第三十九話 不死鳥
柔らかな光は。
夜空へ溶けていった。
誰も。
しばらく言葉を発せなかった。
「ぴぃ……。」
小さな鳴き声が響く。
ピンクちゃんは。
アステルが消えた空を見上げたまま。
寂しそうに羽を震わせていた。
レンがそっと近付く。
小鳥は自然とレンの肩へ飛び乗った。
「……僕だけ。」
「マナを知ったままじゃ、ダメだよね。」
「ぴ?」
レンは少しだけ考える。
そして。
静かに口を開いた。
「アスタ。」
小鳥が首を傾げる。
「ぴ?」
「キミの名前。」
「アスタ。」
私は不思議そうにレンを見る。
「これからも一緒だから。」
「あったほうがいいでしょ。」
一瞬。
意味が分からなかった。
でも。
その言葉が。
どこかレンらしくて。
私は思わず笑ってしまう。
「ぴぃーーーー!!」
アスタちゃんは嬉しそうに大きく羽ばたいた。
私はそっと笑う。
「よかったね。」
「アスタちゃん。」
その瞬間だった。
アスタちゃんの身体が。
淡い炎に包まれる。
「え?」
炎は優しく揺れ。
その小さな身体はみるみる大きくなっていく。
丸かった身体はすらりと伸び。
長く美しい尾羽が風を受けて揺れる。
淡い桃色の羽は。
炎を映したような鮮やかな紅を帯び。
気高く。
どこか神々しい鳥が。
私たちの前へ姿を現した。
誰も言葉を失う。
最初に口を開いたのは。
カグツさんだった。
「……まさか。」
「不死鳥かい?」
私は思わず聞き返す。
「不死鳥?」
カグツさんは頷いた。
「実際には。」
「火の鳥、と呼ばれているかな。」
「火の神国の創世神話に登場する。」
「神の力を人々へ伝えし。」
「火の鳥。」
アスタちゃんは。
大きく翼を広げる。
誰もが。
その姿に見入っていた。
カグツさんは腕を組み。
首を傾げる。
「マナを得て、成長したのかねぇ。」
「そもそも。」
「神具にマナなんて必要なのか……。」
一拍。
「……うん。」
「まぁ。」
「いっか。」
私は複雑な表情でアスタちゃんを見上げる。
ヴァスキさんが小さく首を傾げた。
「ヒカリさん。」
「何ですか、その微妙そうな顔は。」
私は苦笑する。
「いえ。」
「ずんぐりむっくりで。」
「もふもふだった。」
「アスタちゃんがいないのは。」
「少し寂しいなぁって。」
「ぴ?」
その瞬間。
アスタちゃんが目を丸くした。
「わわわ!」
再び身体が炎へ包まれる。
眩い光が弾け。
炎が静かに消えると。
そこには。
見慣れた桃色の小鳥が。
ちょこんと立っていた。
「あ。」
「戻った。」
「ぴぃ!」
得意そうに胸を張るアスタちゃんに。
思わずみんなが笑う。
火の神国に。
久しぶりの穏やかな笑い声が響いた。
◇◇◇
――その頃。
闇の中。
一人の男が静かに目を閉じていた。
「神具を。」
「彼らから奪いに行きますか?」
傍らの声に。
男はゆっくりと首を横へ振る。
「うーん……。」
「いや。」
「難しいかな。」
静かに笑う。
「神王が死ねば。」
「また次の神王が生まれる。」
「それも。」
「面倒だからね。」
問い掛けた者は黙り込む。
「では。」
「どうされるおつもりですか。」
男はゆっくりと瞳を開いた。
その瞳には。
揺るぎない確信が宿っていた。
「目的地は。」
「同じだろう?」
小さく笑う。
「待っていればいい。」
「神聖樹で。」
一拍。
男は静かに呟いた。
「最後に選ぶのは。」
「私なんだから。」
「……ね。」
――火の神国編・完
ここまで火の神国編を読んでくださり、本当にありがとうございました。
火の神国編、これにて完結です。
ここから物語はいよいよ後半へ。
次章「地の神国編」、そして最終章「神聖樹編」で物語は完結となります。
また次章でも、ヒカリたちの旅を見届けていただけたら嬉しいです。
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これからも『星と呼ばれた少女』をよろしくお願いいたします。




