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星と呼ばれた少女  作者: さかい
火の神国
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第三十八話 哀れな存在


 しばらくの沈黙が流れた。


 その静けさを破ったのは、レンだった。


「アレは、一体何?」


 アステルは静かにレンを見る。


「……彼のことだね」


 少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「あの子はね、とても純粋だったんだ。」


「僕と同じように、生きとし生けるもの全てへ祝福を与えたいと願っていた」


 静かな声だった。


「過去を知り、過去から学び、より良い未来を作ろうとしていた。」


 一拍置く。


「でも、人々の争いは終わらなかった。」


「神族は少しずつ衰退し、神力も失われていった」


 アステルは目を伏せる。


「未来に絶望してしまった。」


「哀れな存在なんだ。」


「死んだ今も、理想だけを追い続けている」


 レンは首を傾げた。


「意味が分からない」


 思わず本音が漏れる。


 カグツさんは静かに考え込んだ。


「……ヴェル君の、前任者、かい」


 アステルは目を丸くした。


 そして、困ったように笑う。


「君は、本当にすごいね」


 ヴェル様は小さく息を吐く。


「先王……。」


「因縁が、切れないなんてな」


 アステルは静かに頷く。


「彼との結末も、きっと神聖樹のもとで決まる」


 一瞬、静寂が流れる。


 カグツさんが静かに尋ねた。


「彼に、力を貸しているのかい」


 アステルは首を横へ振る。


「ううん。」


「誰か一人へ力を貸すことはない」


 夜空を見上げる。


「僕の力は、全てこの星を巡っているから」


 ヴァスキさんが静かに口を開く。


「何にせよ、神聖樹まで行かなければならないのでしょうね。」


「カグツ様しか、近くまで辿り着いた者がいるとは聞いたことがありません」


 カグツさんは苦笑する。


「……そうなんだよねぇ。」


「正直、あそこには二度と行きたくなんてなかったんだけどなぁ」


 その言葉には、いつもの軽さはなかった。


 レンが静かに口を開く。


「……ヒカリは、行かないといけないの?」


 アステルは頷く。


「うん」


 レンは視線を落とした。


「そんな場所へ、行かせるのは嫌だ」


 アステルは優しく微笑む。


「神具を揃えるだけじゃ、扉を開くだけなんだ。」


「選択の鍵は、ヒカリだけだよ」


 カグツさんが静かに尋ねる。


「……何でだい。」


 アステルは少しだけ困ったように笑った。


「……うん。」


「そうだよね。」


 それだけを呟く。


「来ない。」


「それも、いいかもしれない。」


「それも一つの選択だからね」


 その紫色の瞳が、ゆっくりと私へ向く。


「ヒカリ。」


「君が、君の未来を選んで」


 それからも、何度か言葉を交わした。


 でも、私の心はまだ動けずにいた。


 ふと、右手首の腕輪が目に入る。


 姫巫女様。


 死を覚悟してまで、私を守ってくれた優しい人。


 色々なことを教えてくれて。


 どんな時も、私を否定しなかった。


 そして。


 新しい水の神王となったアズルさんから受け取った神具。


 私はそっと腕輪へ触れる。


 ……ちゃんと考えよう。


 私が、どうしたいのか。


 何を選ぶのか。


 ゆっくりと顔を上げる。


「アステル」


 白い髪の少年が、穏やかに微笑む。


「考えて、決めるから。」


「だから、待ってて」


 アステルは優しく頷いた。


「うん。」


「じゃあ、そろそろお別れだ」


 その身体が、少しずつ光へ溶け始める。


「ヒカリ。」


「君の未来に、光が差し込めるように」


 その言葉を最後に。


 柔らかな光が、夜空へ舞い上がる。


 レンは静かに、その光を見上げていた。


 私はその光が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。


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