第三十七話 選択の時
胸が苦しい。
何も考えられない。
帰れない。
その言葉だけが。
頭の中で何度も繰り返されていた。
「なんで……。」
震える声が漏れる。
「じゃあ。」
「なんで私を。」
「この世界へ連れてきたの?」
拳を握り締める。
「私、帰りたい。」
「みんなに会いたい。」
言葉が止まらない。
「どうして私だったの?」
その先は。
涙で滲んだ。
ふわりと。
誰かの腕が私を包み込む。
カグツさんだった。
傷はまだ完全には癒えていない。
それでも。
何も言わず。
ただ静かに肩を抱いてくれていた。
アステルは。
責められることも。
言い訳をすることもなく。
まっすぐ私を見つめる。
「もうすぐ。」
「選択の時がやってくる。」
一歩だけ。
私へ近付く。
「選ぶのは。」
「君だから。」
「だから、君を。」
「この星へ降ろした。」
私は息を呑む。
「……選ぶ?」
アステルは静かに夜空を見上げる。
「全ての神具を揃えて、神聖樹へおいで。」
「そこが全ての始まりであり。」
「終わりでもある。」
静かな声だった。
けれど。
その一言一言には。
不思議と重みがあった。
沈黙を破ったのは。
カグツさんだった。
「聞いてもいいかい。」
アステルは穏やかに微笑む。
「もちろん。」
「君は、私たちを創った存在なのかい。」
アステルは首を横へ振る。
「ううん。」
「君たちは、この星の過去に生きた人々の末裔だよ。」
「僕は君たちへ力を託した。」
「この世界がより良くなるように。」
カグツさんは静かに頷いた。
「君は、私たちの味方かい。」
「それとも、敵なのかい。」
一瞬。
静寂が流れる。
アステルは困ったように笑った。
少しだけ考え。
静かに答える。
「少なくとも。」
「君たちの敵になるつもりはないよ。」
「僕は。」
「この世界がより良くあってほしい。」
「ただ、それだけなんだ。」
カグツさんは小さく頷く。
「神聖樹とは何なんだい。」
アステルは空を見上げた。
「あれは、世界に生きる全ての生命を。」
「星へ還す役目があるんだ。」
一拍。
「最近は魂がうまく還れなかったり。」
「色々な異変が起きてしまっているけどね。」
私は静かに息を呑む。
アステルは再び私たちを見る。
「神聖樹。」
「全てがそこで決まる。」
一拍。
「何が終わるのか。」
「それは、君たちの選択次第だ。」




