第三十六話 アステル
「僕、のことかい?」
白い髪の少年は、少し困ったように笑った。
「うーん……そうだね。」
「何から話そうかな。」
「はいはい!」
私は手を挙げる。
「じゃあ、まず名前!」
「私はヒカリ。」
「貴方は?」
少年はくすりと笑った。
「名前、か。」
少しだけ遠くを見るような目をする。
「果てしない昔に。」
「"アステル"と呼ばれていたよ。」
「果てしない昔?」
私は首を傾げる。
……まぁ。
姫巫女様みたいな例もある。
長く生きる人がいても、不思議じゃないのかもしれない。
「アステルは何歳なの?」
アステルは少し考えてから微笑んだ。
「この星と同い年だよ。」
「数えていないから。」
「何年と言われても。」
「答えられそうにないね。」
「え。」
思わず固まる。
「この星と?」
「うん。」
あまりにも自然に頷く。
私は何度か瞬きをした。
「……えっと。」
「アステルは神族なの?」
アステルは静かに首を横へ振る。
「違うよ。」
一拍置いて。
優しく微笑む。
「言うならば。」
「僕は、この星そのものかな。」
誰も言葉を発しなかった。
私も。
何を返せばいいのか分からない。
静寂だけが、その場を包んでいた。
「えっと……。」
私はゆっくりと口を開く。
「アステルは。」
「私を、この世界……。」
「この星へ連れてきたの?」
アステルは少し考えるように目を細める。
「……うん。」
「そうだね。」
「連れてきた、と言えば。」
「そうなるのかな。」
胸の奥で。
ずっと抱えていた願いが込み上げる。
「なら。」
「私は。」
「元の世界へ帰れる?」
アステルの表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
そして。
静かに首を横へ振った。
「……君は。」
「君が思っている世界には。」
「帰ることはできない。」
言葉が出ない。
帰りたい。
いつか帰れる。
そんな小さな希望だけを支えに。
ここまで歩いてきた。
その願いが。
音もなく崩れていく。
「……そう、なの。」
その声は、自分でも驚くほど弱かった。




