第三十五話 話せること
私はカグツさんの傷へ手を添える。
柔らかな光があふれ、傷口が少しずつ塞がっていく。
「ふぅ……」
思わず息を吐いた。
完全には治せない。
それでも、命に関わる傷ではなくなった。
「ありがとう」
カグツさんが穏やかに笑う。
「ヒカリちゃんの神力は、本当に不思議だね」
私は照れくさそうに笑った。
「まだまだです」
その横では、ヴェル様が静かに壁へ身体を預けている。
目立った外傷はない。
だが。
魂へ直接神力を干渉させた反動なのだろう。
普段のヴェル様らしくない、疲弊した表情だった。
「しかし」
カグツさんが感心したように笑う。
「ヴェル君、すごいねぇ」
ヴェル様は首を傾げた。
「そうですか?」
「うん。神力への感応というか、干渉というか。そんな器用なことができるなんて。神王とはいえ、その若さでできることじゃないよ」
ヴェル様は少し考え込む。
「そういうものですか」
「そういうものだよ」
カグツさんは頷いた。
「神王だからって、姫巫女みたいに特殊な力を持つ人はそう多くないからね。」
「君の神具に、そういう力があるのかな?」
ヴェル様は静かに首を振る。
「私の神具は、神力を増幅する程度です。」
「干渉するような力はありません」
「そうなんだねぇ」
カグツさんは納得したように笑う。
「まぁ、それが普通だよね」
そう言って、視線を横へ向けた。
「……君は。」
「何でそうなっちゃったんだろうね」
ピンクちゃんは。
「ぴ」
と短く鳴く。
そして、とことこと歩き出した。
私の横を通り過ぎ。
レンの前も通り過ぎ。
白い髪の少年の前で立ち止まる。
少年がそっと指先を差し出す。
ピンクちゃんは嬉しそうに鳴きながら、その指へ身体を擦り寄せた。
ごろごろと。
甘えるように。
「……え?」
私は目を丸くした。
ピンクちゃんが、私とレン以外へ懐いている。
初めて見る光景だった。
少年は小さく笑い、そのままピンクちゃんの頭を優しく撫でる。
「ちょっと!」
私は思わず声を上げた。
「というか!」
「今までは。」
「話せない、話せないって。」
「全然教えてくれなかったよね!?」
「なんで今回は話すの!?」
少年は困ったように笑う。
「うーん。」
「まだ、ここでは全部は話せないよ。」
「でも。」
「ある程度なら。」
「話してもいいかな。」
その視線が、カグツさんへ向く。
「君は。」
「もう。」
「ほとんど正解に近い考えへ辿り着いているみたいだし。」
そして、私の腕輪を見る。
「今は三つの神具が揃った状態だからね。」
「こうして実体化して話すくらいなら、できるようになったんだ。」
私は目をぱちぱちさせた。
「つまり。」
「前までは。」
「本当に無理だったってこと?」
少年はこくりと頷く。
「うん。」
「僕にも色々制約があるんだよ。」
私は肩を落とした。
「結局。」
「全部は教えてくれなさそう……」
少年は苦笑する。
「聞いてみてもらわないと、何ともだね」
私は小さく息を吐く。
……うん。
聞きたいことは。
山ほどある。
「じゃあ。」
「まずは。」
「あなたのことから聞かせて」
白い髪の少年は、静かに微笑んだ。




