第十一話 異世界菓子研究
お菓子作りは化学だ。
材料の重さ。
温度。
混ぜる順番。
焼き加減。
すべてが正しく組み合わさって、初めて完成する。
だから私はまず確認することにした。
材料。
そして調理器具。
砂糖、小麦粉、バター、卵……らしき物。
ここまでは良かった。
問題はその後だった。
「これが……砂糖ですか……?」
見た目は似ている。
けれど甘さも風味も微妙に違う。
調理器具も癖が強かった。
温度計はない。
オーブンらしきものはある。
けれど火力が安定しない。
さすが異世界である。
私は頭を抱えた。
それでも諦めるわけにはいかなかった。
何度も試した。
焼いて。
失敗して。
また焼く。
膨らまない。
焦げる。
硬い。
何かが違う。
一度や二度ではなかった。
何日も厨房へ通った。
そのたびに料理長の視線が刺さる。
けれど負けなかった。
そんなことを繰り返した。
そして。
ようやく納得できるものが出来上がる。
焼き菓子。
ふわりと甘い香りが広がった。
「……なるほど」
隣で見ていた料理長が腕を組む。
最初は露骨に疑われていた。
謎の少女が厨房で得体の知れない物を作る。
当然である。
けれど今は違った。
料理長は焼き上がった菓子を一口食べる。
もう一口。
さらにもう一口。
そして静かに頷いた。
「認めよう」
そう言って差し出された手を、私は握る。
固く大きな手だった。
「ありがとうございます!」
気付けば私たちは、すっかり同志になっていた。
……私は何をしているんだろう。
帰る方法を探していたはずなのに。
気付けば異世界の厨房で、料理長と握手を交わしていた。
帰る方法はまだ分からない。
けれど。
少しずつ。
この世界で出来ることが増えている気がした。
この時の私は知らない。
この出来事が、後に風の神国へお菓子革命をもたらすことになるなんて。




