第三十二話 ホムラ
炎が唸る。
まるで。
生き物が苦しみにのたうつように。
赤く。
熱く。
激しく揺れていた。
その中心で。
レンの瞳が揺れる。
赤茶色の瞳に。
ほんの一瞬だけ。
光が戻った。
「あぁ……」
カグツさんが小さく笑う。
「戦ってるんだね。」
レンの身体は震えていた。
必死に。
何かを抑え込むように。
カグツさんが私を見る。
「ヒカリちゃん。」
その声は。
ひどく静かだった。
私は思わず息を呑む。
次の瞬間。
カグツさんは。
私にだけ聞こえる声で何かを囁いた。
――。
言葉は。
私の耳の奥へ。
静かに落ちた。
私は目を見開いた。
「……え?」
思わず聞き返す。
「なんで。」
「なんで、私にそれを?」
カグツさんは苦笑した。
「僕。」
「今、重傷だよ?」
肩を竦める。
「それに。」
「君なら。」
「君の声なら。」
「届くと思ってね。」
私はすぐに頷いた。
炎が唸る。
熱風が頬を叩く。
それでも。
もう迷わない。
炎の中へ飛び込む。
熱い。
苦しい。
肌が焼けるように痛い。
それでも。
足は止まらない。
だって。
レンが。
そこにいるから。
レンは私を見つけた。
次の瞬間。
振り下ろされるはずだった短刀が止まる。
レン自身が。
刃を握り締めていた。
血が滴る。
「……なに、してるの。」
震える声だった。
「逃げなよ。」
その一言で分かった。
レンは。
まだ、ここにいる。
私は一歩近付く。
「ねぇ。」
「レン。」
ぶっきらぼうで。
自分勝手で。
いつも言葉が足りなくて。
本気なのか。
冗談なのか分からなくて。
イライラさせられることも。
たくさんある。
でも。
私の。
大切な人。
私はそっと。
レンを抱きしめた。
レンの身体が震える。
「レン。」
私は耳元で静かに囁く。
「あなたの名前――」
一拍。
「ホムラ、だよ。」
その瞬間。
レンの瞳が。
わずかに揺れた。




