第三十一話 届かない声
ヴェル様の神力が。
黒い靄を押し留める。
ほんの僅か。
侵食が止まった。
男は目を細めた。
「なるほど。」
「神力そのものへ干渉するのか。」
「面白い。」
「そんな使い方ができるとは。」
ヴェル様は何も答えない。
ただ。
静かに神力を流し続ける。
「カグツ様。」
「長くは持たない。」
「十分だ。」
カグツさんは小さく頷いた。
そして。
レンへ向き直る。
「レン!」
「聞くんだ!」
「君の――」
その瞬間。
レンの身体がびくりと震えた。
届いた。
……そう思った。
けれど。
男は楽しそうに笑う。
「遅いよ。」
「その声は。」
「もう。」
「この子には届かない。」
カグツさんは叫ぶ。
「レン!」
それでも。
レンは必死に抗う。
男は肩を竦めた。
「ああ。」
「本当に魂が壊れちゃうよ?」
その瞬間だった。
レンの身体が動く。
「レン!」
剣が。
一直線に振り抜かれた。
カグツさんは避けない。
「カグツ様!」
ヴァスキさんの叫び。
鮮血が舞う。
剣は。
カグツさんの身体を深く貫いていた。
「……っ。」
レンの瞳が揺れる。
ほんの一瞬だけ。
自分を取り戻した。
「ち、ち、ぇ……。」
震える声。
血の付いた自分の手を見つめる。
その一言と共に。
レンの意識は。
さらに深い闇へ沈んでいく。
男は静かに笑う。
「惜しかったね。」
「あと少しだった。」
その時だった。
「ぴぃぃぃーーーーーっ!」
ピンクちゃんが。
鋭い鳴き声を上げた。
甲高く。
どこか胸の奥を震わせるような声。
男の表情が。
初めて曇る。
「……嫌な鳴き声だな。」
僅かに眉をひそめる。
じっとピンクちゃんを見つめ。
ゆっくりと口を開いた。
「なんだ、お前は。」
一拍。
「ただの鳥では……ないな。」
ピンクちゃんは翼を大きく広げる。
「ぴぃっ!」
柔らかな光が。
レンを包み込む。
その瞬間。
レンの身体から。
凄まじい神力が噴き上がった。
「まずい!」
ヴェル様が叫ぶ。
抑え込んでいた均衡が崩れる。
轟音と共に。
炎が天へ噴き上がった。
熱風が吹き荒れる。
地面が揺れる。
一瞬で。
辺り一面が。
紅蓮の炎に包まれた。
私は立ち尽くす。
炎の中心には。
苦しそうに立つレンの姿だけが見えていた。
誰も。
近付けなかった。




