第四話 高見の妄想
巨大な棍棒を振り回す、体長が三メートルはありそうな、ひとつ目のモンスターと中島は戦っていた。
棍棒のリーチは長く、運動神経のいい中島でもモンスターの懐へ、なかなか入れずにいた。
全身は汗で濡れており、苦しそうな息が口から吐き出されている。
モンスターは中島に休む暇もあたえず攻撃をしかけていた。
時間を追うごとに体力は削られていく。
振りおろされた棍棒が中島の足下の地面を叩いた。土砂が舞いあがる。中島は足をもつれさせ、よろめいた。攻撃を避ける体力は、もう僅かしか残っていないようだった。
覚悟を決め、モンスターの懐へ入り、致命の一撃をあたえなければやられてしまう。
中島は意を決した顔つきになると、モンスターへ突っ込んでいった。
「であぁぁぁぁぁぁ!」
普段のおとなしそうな雰囲気からは想像できない、勇ましい声をあげながら走っていく。
頭上から落ちてきた棍棒を地面を蹴ってかわす。ショートソードの間合いまであと数歩のところまできたときだった。モンスターの前蹴りが、中島の腹部をとらえた。肉を叩く鈍い音が辺りに重く響く。中島はもといた位置まで蹴り飛ばされた。
モンスターがとどめを刺しに近づいてくる。体力が底をついていた中島は、立ちあがることもできず、剣先をモンスターへ向けるだけで精一杯になっていた。
月光をさえぎり、巨大な影がかぶさる。モンスターは天高く棍棒を振りあげた。死を覚悟した中島は、硬く目を閉じた。振りおろされた棍棒の風を切る音が、体にたどりつく前にやんだ。
「中島さんが居眠りをするなんてめずらしいですね」
何者かの声がすぐ傍から聞こえてきた。中島が目を開けると、そこにはツーハンドソードでモンスターの棍棒を受けとめた高見がいた。
「た、高見くん………」
「まだ戦いは終わっていませんよ、中島さん」
高見は棍棒を軽々と跳ねあげた。モンスターは後ろへよろめいていく。
「逃げて高見くん、こいつすごく強いわ」
こんなときまで人の心配をするなんて、なんていい人なんだ中島さんは。
高見は首を横に振った。
「中島さんを傷つけるやつを見逃すわけにはいけません、あなたはそこで体を休めていてください、あとは僕がやります」
「高見くん………ポッ………」
中島の頬が紅色に染まる。
モンスターは攻撃を返されてプライドを傷つけられたのか、鬼の形相で高見を見ていた。
「こいモンスター、中島さんが受けた痛みを100倍にして返してやる」
高見はツーハンドソードを構えた。モンスターが唸り声をあげながら突進してくる。
棍棒が一文字に振られる。高見は体を屈めてかわした。渦を巻いた風が髪を揺らす。すぐに二撃目が上空から落ちてくる。バク転でそれをやりすごす。
数歩先にはモンスターの胴体がある。引導を渡すため高見は足を前に出した。
「そいつの前蹴りにきをつけて!」
悲鳴にも似た中島の声を背中で聞く。モンスターの左足があがった。高見は外側へ移動した。モンスターの蹴りは空を切る。
あのまま攻撃を仕掛けていれば前蹴りの餌食になっていただろう。
ありがとう中島さん。高見は心のなかで礼をいった。
開けた場所で高見はモンスターとぶつかり、駆け抜けた。数秒の静寂の後、モンスターの脇腹から肺の辺りにかけて赤い線が引かれた。足を地面につけたまま上半身が横にずれていく。勝負は決し、高見は構えを解いた。モンスターは謎の爆発を起こし塵となった。
高見が振り返ると中島はすでに立ちあがっていた。潤んだ瞳で高見を見ている。
「………キス………シテ………」
中島は胸の前で手を組み目を閉じた。
高見は鼻を擦って恥ずかしさをまぎらわせた。
女の子を待たせちゃいけないな。中島のもとへ急いでいき肩を掴む。
「いくよ中島さん、いや、ミキ」
唇が早くきてとせがんでいる。高見は意を決してその小さなつぼみに自分の口を近づけて………。
「ケンイチごはんよ~」
母親の声で妄想の世界は崩れ、高見は現実へ引き戻された。夕飯の匂いが部屋のなかを漂っている。
今日はカレーか。
高見は深く息を吐き、体を起こした。
ノボルと異世界ゲームの話なんかをしたせいで、アホな妄想をしてしまったようだ。
高見は部屋から出て一階へおりていった。食卓へは向かわず玄関へ行き靴を履く。
「あんた、こんな時間にどこへいくの」台所から顔を出した母親のミサコがいった。
「ちょっと散歩」
それだけいうと高見は、妄想の余韻が残った頭を冷やすため外へ出た。




