第三十四話:介入すべき√
第三十四話
ここの所、気になって仕方がない男子生徒が一人、いる。
こちらのほうが年上の為、なかなか仲良くすることはできない。
明日から夏休みが始まってしまう…そうなってしまえば会う事も無いだろう。
――――――
「白取君…また四季先生が熱視線を送ってるよ」
七色にそう言われてちらりと先生の方を見る。
「にこっ」
「ひっ」
何だかもう、獲物を狙う獅子のようだ。
群青先輩…俺なんだかやばそうなんですけど。我は未来を変える事が出来たのだって展開かと思ってましたが違いました?
男子生徒とか『そっち?』『はき違えた…』なんてわけのわからない事を言ってるし。
「センセー早く成績表配ってくださいよー」
学年三位だったらしいあほだと思っていたクラスメートがそう言っている。
「あ、はいはい。じゃあ出席番号順で呼ぶから取りにね」
ちなみに俺は一番最後だ。
それから約二十分後俺の出番が回ってきた。
「じゃあ白取冬治…君」
「おい、四季先生の視線が熱っぽいぞ」
「恋する乙女みたいだ」
勝手にはやし立てる男子連中は無視しなくてはいけない。
「はい、よく頑張ったね」
「……あ、ありがとう…ございます」
すばやく先生の手から成績表をかっさらう。
「やだ、そんなに警戒されると…萌子、傷つくなぁ」
三十路が自分の事萌子って呼んだぞ!と叫んだ男子生徒の頭にチョークが突き刺さった。住良木先生より四季先生はこれが得意だそうだ。
「ちょっとね、白取君の未来について話がしたいだけなの」
もじもじしながらそう言う先生に俺はどんな言葉をかければ逃げる事が出来るのか…考えてみた。
駄目だ、他の奴に考えてもらおう。
「……七色」
「なぁに?」
「四季先生の事を助けてやってくれ」
「しょうがないなぁ。照れ屋さんめ」
頼りになる僕っ娘、七色が立ちあがる。
「先生!冬治君はちょっと照れているだけです」
「そうですよ!」
「このまま押してください!いいや、押し倒してくださいっ」
あれ?話が変な方向へ進んでるぞ。
同調した男子生徒も意味深に親指立ててるし…一体こりゃあ…
「お、おい、俺は誰も四季先生側にたてといったわけじゃないぞ」
「え?違うの?教師側から無理やり誘ったと言う事実が欲しかったんじゃあ…ないの?」
きょとんとした七色…そして、俺の腕はしっかりと捕まえられている。
「ありがとう!放課後、絶対に宿直室に来てね?来なかったら萌子、白取君にもてあそばれたって学園長に言うから!乱れた下着姿で廊下を走り抜けるからね?」
「あんた、それでも教師ですかっ」
「聞こえないわ!はい、解散!待ってるから!」
普段はとろい癖に凄いスピードで宿直室へと向かってしまった。
事実無根だ…無視して、帰ろうか。そう思ったら成績表が渡されていない事に気付いた。
「………はぁ」
頼れる人はこの場所には、いない。
俺は携帯電話を取り出すとメールを打っておいた。
「来たわ」
「すみません、わざわざ」
当然、頼れる相手なんて群青先輩しかいない。
群青先輩が俺に対して雲行きの怪しい事を言ったら軽くパニックを起こしていただろう。でも、たのもしかった。
「安心して、何となく想像出来たから」
「群青先輩…」
それなら速くに言って欲しかったです、はい。
中に入るように群青先輩に言われたので、ノックをする。
「白取です…四季先生、いますか?」
「はぁい。入って」
扉を開けてびっくりした。
いぇすのぅ枕をいぇすにして布団に入っていた。そして、布団のところに服や、下着が…落ちていた。
「………」
「あ、あれ?群青さんまで居る」
「はい」
群青先輩は俺より前に出てかばってくれていた。戦車や赤壁よりも頼りになりそうな先輩だった。
「そう言う事ですから、四季先生」
別に群青先輩が何かを言ったわけではない。たったそれだけの言葉で通じあったのか、四季先生は布団に顔を突っ伏した。
「え?」
「ちょっと、静かにしてて」
「……はい」
「うう、そっかぁ…やっぱり、そうなんだぁ…はぁ、じゃあ、いいや。成績表取りに来て」
「は…い」
動こうとすると群青先輩に制される。
「わかりました」
布団の近くに置いてある成績表を群青先輩は手に取ると、四季先生を見下ろしていた。
「引きずり込みますか?」
「あはは、読まれてたかぁ…ううん、そっち路線は専門外」
苦笑いを浮かべている先生…どうやら、まだ何かを企んでいたらしい。
「では、わたし達はこれで。四季先生、多分お見合いは四季先生の望む通りの結果が出ます」
「え!本当?」
「はい」
しょげていた先生の表情も明るくなって手を振られる。
後日、先生に呼び出された俺達は今再び宿直室へと戻ってきていた。
「お見合い、失敗!」
失敗の割には嬉しそうだ。
「こっちが待ってる間にお母さんがねー『ちょっと老け過ぎじゃないかしら』って言ったのが向こうに聞こえちゃたみたいで、怒って帰っちゃった」
「良かったですね」
出された紅茶を飲みながら群青先輩も少しだけ笑っている。
「あのさあのさぁ、二人って、どこまでやったの?」
「はい?」
「最後まで、ですよ」
群青先輩がそう言うと四季先生は顔を真っ赤にしている。
「す、すごーい!」
「…?」
良くわからなかったが、二人が楽しそうだったのでよしとしよう。
宿直室を出て、群青先輩と歩いていると肩を叩かれる。
「はい?」
「…狼人間に、気をつけて」
「え?」
一人、頭の中に浮かんだ。
「その人ではないわ…いずれ、わかるから」
一体、何の事を言っているのだろう。




