第三十五話:世話係がいればこうなる運命
第三十五話
可愛い後輩と一緒に夏祭りにいけるなんて、素晴らしい限りだろう。
「楽しいですね」
「……ああ、そうね。超楽しいよ、あははは…」
後ろからビデオカメラとか持った集団が追いかけてこなければ、本当に楽しかっただろう。
「お嬢様が綿飴を食べさせてもらっているなんて…感激です」
「幸せそうでなによりです」
「鈴…幸せになるんだぞ」
独り言がさ、もう、俺にしか聞こえていないようだ。
「っと、危ないぞ」
「あ、すみません」
鈴を守るのも、俺の仕事だ…耐衝撃耐性が超低いからな。くしゃみで首が取れた時は焦ったぜ。
祭りという事もあって人も多い、ぶつかりそうになる事も当然多い。
腕を掴んで適当に避けさせるのも危ない。よって、住良木先生に教えられた抱きしめるような方法で助けている。
「……冬治、さん…」
「悪い、でも我慢してくれ」
「嬉しいです…」
「そ、そうか。そりゃよかった」
熱っぽい瞳で俺を見てくる鈴…後ろさえ、後ろさえいなければ…こんないい雰囲気を見逃したりは、しないさ。
「キス、キスですね…お嬢様…」
「あの幸せそうな顔…」
「私もあいつとこうやって…甘酸っぱい青春を過ごしたものだ」
「冬治、さん…」
周りに人がいる…それでも、鈴は目をつぶって唇を上へと向けている。いくら俺が鈍かろうが、それが一体何をしたいのかわかったつもりだ。勘違いではないだろう。
くそう、でも駄目なのだ。他人ならいざ知らず、後ろには厄介な人たちが控えているからな。
「さ、さぁ、また周ろうか」
「え…っと…はい」
後ろからへたれーという声が聞こえてきた。
変に喜ばせるのもまずい、そもそも、俺は…鈴の事をどう想っているのかわからないのだ。
「冬治さん」
「ん?」
「あ、あーん…」
たこ焼きをあーんされていた。
「あーん…」
父親から教わった。
「男子―たるものー女性のあーんにはー…全力をもって返すべし!」
色々と教育されているので、反射してしまう。
うそです。実際はこれを逃すともうあーんなんてされないかもと思ってます。
「えへへ…」
「……ほら、あーん」
「あ、あーん…」
返してやると食べてくれた。
「あ、間接…キスですね」
「ああ…」
またちょっといい雰囲気だ。
「見ました?お兄ちゃん」
「ああ、凄いですね。あーん返しですよ…初心者なのに」
「……私も昔はよくやったなぁ」
本当、あの人たち何してるんだろう。
他にもさまざまないい雰囲気を後ろの人たちがぶち壊してくれていた。
「今日の冬治さん、心ここにあらずでした」
「はは、悪い」
「……もしかして、他の女の子の事を考えてました?」
泣きそうな顔でそんなこと言われる。
「違う違う。住良木先生とか、鈴のお父さんの事だ」
後ろを振り返る。
姿を消していた…その道のプロかよ。
「すみません冬治さん!」
「いきなりどうした」
「だって、私…冬治さんがそんなに真面目に考えていたなんて…自分の事ばかりで、すみません!あ、あの、あらためて挨拶しに…来てくれるって事ですよね」
おいおい。
「今度、お母様が家に帰ってきますから」
「ああ、そういえば鈴のお母さんの方は見た事無いなぁ」
お父さんの方は良く見るのに。
しかも、夏祭りにまで使用人ひきつれて会いに来てるし。
「すごく、怖いですよ」
「マジで?」
着物を着たおばさんが頭に浮かぶ。
ま、まぁ…挨拶に行くわけではないし、会っても大丈夫だよ…ね。




