第三十三話:赤井に勇気があるのなら
第三十三話
興奮すると、満月を見ると…狼になる人間なんてそうそういないだろう。
家族以外にばれていないのは日ごろの行いがいいからだって神様は言ってくれるはず。
最初は白取君にばれて焦ったけど、彼はあたしの思った通りの人で、ばらさずにいてくれてる優しい人なのだ。
あたしの友達は『白取君?うーん、微妙』という評価を出すけど、出会った時に柄にも無く惹かれてしまった。
「一目ぼれなんてありえないよ。ぷっ、ありえないねー」
ドラマの女の子にそんな事をテレビに向かって良く言った事がある。馬鹿にしながらも、一目ぼれしてしまう話は好きだ、同じものを何度も見ちゃう。
みんな一途で、行動力があるもん。
そんな時の男の子は浮気性って言うか、結構周りに女の子がいる。
最終的には主役の女の子に素敵な告白をしてくれている。だから、好きなのかもしれない。
「あたしだったらちゃんとすぐに好きだって伝えるね!」
「へー陽ちゃんすごいね」
「ふふんっ」
友達と話していた事を思い出す。
あたしが今一つ勇気が無いと言うのを知った。そして、白取君は察しが悪く、鈍い。
偶然を装ってお弁当を渡そうと作ってみた事もあった…でも、まずいものしかできない。本当にまずい、出会ったばかりであたしにさん付けしていた白取君ならうまいよとごまかしてくれていただろう…今なら遠慮なくまずいと文句を言ってきそうだ。それでも、きっと完食してくれる。
考えて行動すると、必ず空回りだ。運動会だって、誘うまでは良かった。説明不足がきっかけで、ちょっとだけすれ違った。
あたしからの一方通行、空回りして、間違いなくクラッシュした。
屋根に隠れたあたしを見つけ…呆れた白取君の顔は未だに忘れられない。
正直、男子生徒からそこまでされたら警察に駆け込むところだ。
「それでも許してくれたんだもん。あんなにいい人は他に居ないよ」
それから、あたしと白取君は間違いなく仲良くなった。
期末テストだって教えてくれて、励ましてくれた。生まれて初めて学年三位をとってお母さんも褒めてくれたし、お父さんなんて特別ボーナスだーって二カ月分のお小遣いをくれたんだ。
夏休みになっても、今日みたいに遊びに行った。
プールに誘った時は二つ返事だったし、水着姿も…褒めてくれた。誘うまで来てくれるか不安だったのに今では一緒にどこへ行こうかと悩んでいたりする。
トイレに連れ込まれた時は心臓がはじけそうで、苦しかった。自分の尻尾に視線が釘付けに成っていたのはちょっと寂しかったけど。
「白取君!迎えに来たよ」
「おー、浴衣か…似合ってるぜ。色のイメージがばっちりだ」
彼は廊下に出てあたしを見つけるなり、そう言ってくれた。
あたしが好きな、緋色の浴衣だ。
ありがとう、素直に言えたらどれだけいいか。
「そうだよねー、あたし、何を着ても似合うから!」
正直、『綺麗な浴衣だな』と浴衣を褒められたらどうしようかと思ってしまった。
「さ、行こう?ほらほら」
自然な様子で手をとって握りしめる事が出来た。
「はいはい、その前に落ちつこうな?尻尾と耳が出てるぞ」
「あう…」
最近じゃ、ちょっと褒められたりドキドキするとこのザマだ。自分では気づく事が出来ず、こうして指摘されてようやく引っ込める。
「ああ、でも今日は祭りだからコスプレって思うかもしれん」
「コスプレ…男の子って、本当、そういうの好きだよねー」
ちょっと呆れてしまう。
あたしの頭とお尻を確認して引っ込んだのを確認すると手を引かれる。離していた手をまた掴んでくれた事が嬉しかった。
「好きじゃないよ」
「なんだ、良かったぁ」
好きだったら毎日頼まれるんだろうかと考えて顔が赤くなりそうになってしまう。
「大好きだ」
「え…っと」
自分に向かって言われたのかと錯覚してしまった。
落ちついて、答える。
「ふ、ふーん、そうなんだ。アテは、あるの?」
「アテ?」
「うん、そういったコスプレしてくれる…女の子がいるのかなーって」
すぐにいないよと言ってほしかった。
「…うーん、いるかなぁ」
「え…」
「赤井ならしてくれそうだ」
真顔でそんな事を言われる。
「…困る、よ」
「はは、そうだよな。悪い、忘れてくれ」
受け答えがちゃんとできているようで、多分、二人の間には決定的な誤解があると思う。
もっと別の話をしながら来ればよかったのに、もう夏祭りの会場についてしまった。
花火大会もまた別の日にあるからその時も誘おうかな。
「どこから周る?」
「こういうときは、男の子が決めちゃっていい…」
よ、そう言おうとしてお腹の虫がなった。
恥ずかしくってお腹押さえてそっぽを向くと腕を引かれる。
「腹が減っては戦が出来ぬか。吸血鬼とかフランケンとかと闘うのか?ま、いいや。腹減っているのなら何か食おうぜ」
「う、うん」
喧騒で聞こえなかったのか?多分、聞いたけど無視してくれたんだろう。
手を引かれて、色々な屋台を楽しんだ。
当たらない射的や、しょぼいくじ屋、インチキっぽい占い…隣にいるのが白取君だから楽しいのだ。
途中、クラスメートを見つけたり、あたしが一方的に警戒してる七色さんを見つけたりもした。
前者はともかく、後者は一人だったのでお節介焼きの白取君なら多分、一緒に周ろうとか言うはずだ。それは嫌だ。
「そろそろ帰るか」
「えー」
「でも三時間近く経ってるぜ?」
「え!?」
時計を確認する。
白取君の言った通りだ。楽しい時間なんてあっという間に経ってしまう。
「そ、そうだね。帰ろうか」
「ああ、んじゃ帰るか」
まだ手をつないでいた事に今更気付く。楽しい時間なんて、あっという間だ。
貴方の事が好きです、不意打ちで言おうとして、言えなかった。
「おい、ついたぞ」
「え…あ、うん」
白取君は未だに手を離さない。このまま、ずっと繋いで居たらどうなるんだろう。
でも、それすら出来ない。
「じゃ、じゃあね。夜道は気をつけないと、駄目だよ?襲われちゃうから」
努めていつも通りのあたしだ。
告白なんて、出来っこない。
「はは、大丈夫だよ。ほら、さっさと家に入ったほうがいいぜ?家に入るまで油断しないようにしろよ、お前こそ襲われるぞ」
「大丈夫、あたしは強いから」
心は、弱いけど。
ダメなあたしは、その日告白出来ずに扉を閉めてしまった。
メールで楽しかったと送るぐらいが精いっぱいだ。
『俺もだよ。またな』
「いよっしゃーっ」
たった、それだけのメールで…さっきまでの不安な気持ちが吹き飛ぶくらい、あたしはどうしようもなくなっている。
もう少ししたら赤も終わりを迎えます…たぶん。前作の春に比べればこっちの方が王道っぽいかもしれませんね。次作も考えて文章に起こしていたりしていますがどうもしっくりこない。四季編も考えてはいますが、なかなかうまくいきません。




