2-4 聖獣との出会い
「あんた、何でそんなに死にそうなの?」
彼に追加の魚を取ってくる際に自分の分も追加で取ってきた。
多少生臭さはあるが、問題なく食べられる。
この世界のネザーランドウサギは雑食寄りなのか、それとも中身が人間だからなのかは分からない。
味覚の仕組みが違うのか、人間のときほど味はしないけど。
「...その前に、聞きたい。お前は...ウサギは本当に俺のことを知らないのか?」
食料を食べてほんの少し楽になったのか、横たわったままではあるがファントムタイガーが訪ねてきた。
「知らないよ。」
「この森に生きているのにか?」
「それどういうこと...?」
この森だと彼は有名だったりするのか?
確かにこれだけ大きくて強そうだったらありえなくはないけど。
「...俺は、聖獣だ。」
「聖獣?」
「この森を守護する四種の魔獣、そのうち一種が俺だ。」
「えっと…それは強いの?」
「…まさか、獣と魔獣の区別もつかんなどと言うのではあるまいな?」
「…つかないです。」
「………」
ファントムタイガーが大きくため息をついたが、きっと傷が痛むだけだ。そうに違いない。
彼は魔獣と獣の違いを教えてくれた。
「…端的に言えば、空気中にある魔素を魔力へ変換、体内に貯蔵できるのが魔獣だ。魔獣は体内の魔力を使って魔法を扱う。しかし獣はそれが出来ん。」
「じゃああんたも魔法が使えるの?」
「それが分からんということは、お前は本当にただ俺と会話ができるだけの獣なんだろうな。」
「どういう意味だよ。」
「お前のおかげでほんの少し体力も戻ってきたのでな。先ほどからずっと【治癒魔法】を使い続けている。」
「全然分かんない…魔法って詠唱がどうとか必要だったりしないの?」
「もちろん詠唱もある。が、それらは基本的に魔力の流れに意識を向けて出力を上げるためのものだ。相応に魔力も消費するしな。だがまあ、今なら使えるか。」
彼は深く呼吸をすると、瞳を閉じた。
「…魔力よ巡れ 母なる命の源となりて 魔力よ巡れ 我が肉体に癒しを与えよ…」
彼が唱えると、彼の体の小さな傷たちがたちどころに塞がっていく。
だがよくファンタジーアニメとかで見てた綺麗に光って傷が消えていくとかではない。
状況的には、傷の治癒が加速しているような、そこだけ早送りで傷が治っていくかのような感じだ。
血が固まり、瘡蓋になって、それが落ちて皮膚がつながる。
傷が治るまでの時間が加速している様だった。
「…ッハァ…ハァ……と、これが詠唱だ。今の体力ではこの長さが限界だがな。これ以上は体力と魔力がもたん。」
「ほえ~…本当に魔法だ。火とか水とか、雷とかも出せるの?」
「魔力を体外に放出するのは相性が関わってくるからな。攻撃魔法は、俺は雷属性のスキルしか扱えん。」
良いことを聞いた。
魔法は習得に相性が関係あるみたいだが、それがスキルなら恐らくどの魔法も習得可能。
それよりも問題なのは。
「さっき魔法を使って傷を治した時、私には何も見えなかったんだけど、魔法って視認できないの?」
「魔力を使用する際には魔力が魔素と反応して僅かに煌めく。だが、その輝きは体内に魔力を循環させていないと認識できない。攻撃の魔法も魔力を認識できなければ何もない空間から突然炎や雷が出てきたように見えるのだろうな。」
つまり私の体内には魔力が巡っていないと。
「それは、成長でどうにかできるものだったりする?」
「いや、魔力を持っていなかった獣が魔獣になったとは聞いたことがないな。」
困った。
非常に困った。
2週間の人間としての記憶と半年のウサギの記憶から推測するに、この世界、物理法則や生物の構造なんかのベースは前の地球と同じだ。
この体の寿命は私の推測で5年、それを補うには魔法の類が必須と言っても過言じゃない。
だがこの身体は魔力が認識できず魔法を扱えないときた。
つまり寿命を伸ばす前にまず魔法を扱うためのスキルが必須だ。
寿命問題のゴールが一気に遠のいてしまう...
「......ちなみに、魔獣ってあんたの他にはどんなのがいるの?」
逆に考えろ。
魔獣のスキルを獲得できれば魔法とそれに伴うスキルの両方を獲得できる可能性が高いじゃないか。
「この森の獣のほとんどは魔獣だ。魔獣でないのは、お前たちのように草木を食す種類等だな。草木には魔力が宿りにくい。魔獣かどうかの区別は正確ではないが、体の大きさでおおよそ判別できるぞ。魔力によって体が大きくなる個体がほとんどだからな。」
つまり草食動物や小さい虫、小さい爬虫類は魔獣の可能性は低いと。
…私じゃ勝てないじゃん。
元々四足歩行だが気持ち的には膝をついて崩れる。
寿命問題解決のためにまずは魔法を試したい。
でも魚や虫ばっかり殺してるんじゃ一生魔法は使えない。
さらに魔法を使えるようになるには生物的に格上の魔獣を倒さなきゃいけない。
私はウサギ。
無理過ぎる...
「...時にウサギよ。先ほどからお前の考えは妙にウサギとは思えん。」
「会話できてる時点で異常なんでしょ〜...」
「それもあるが、どうにもニンゲンの様な言動だと思ってな。」
「き、気のせいじゃない...!?」
「...つかぬことを聞くが...」
人間ほどの汗が出るような汗腺なんて持っていないのに冷や汗が落ちる感覚。
何を怪しんでいる...?
まさか、こいつ......
「お前は、少し前の異変を感じ取れたか?」
「...異変?」
「そうだ。ざっと半年ほど前、この森だけではない、世界中で強大な力が一斉に現れたのだ。」
「…半年前……」
私や他の転生者が転生したタイミングだ。
「その一件で森全体が殺気立っていた。聖獣の皆も各縄張りの守護をより一層強めていたのだ。」
「……その強大な力の正体って、見当はついてるの…?」
「さあな…タートルであれば分かるのかも知れんが、俺には皆目見当もつかん…」
その声色や考え方から推察するに、彼は転生者ではないだろう。
そもそも転生のルールに転生した種族の幼体からという共通ルールがあるらしいから、肉食獣とは言え、半年でこの成長はまず無理だろう。
「…すまないな、期待に沿えず。」
「大丈夫だよ。体力使っちゃうから、あんまり難しいこと考えないほうがいいって。」
「面目ない。あと二日もすれば傷も癒え、体力も戻るだろう。それまではお前の住処に邪魔させてもらう。」
「バリケードはあるからここなら他の場所よりは安全だと思うよ、ファントムタイガー…」
…どうにも変な感じだ。
種族名で呼ぶのが慣れないし、何より長い。呼びにくい。
「…トラ!」
「ん?」
「あんたの名前。呼びにくいから私はトラって呼ぶね!」
「…最近のウサギは個体に名前をつけるのか?言っておくが、私は個体名を持つ気は…」
「じゃあいいよ、私だけがそう呼ぶから。良い名前でしょ、トラって。」
「………そうだな。」
「何だよその変な間は…っていうか、最初に聞けばよかったんだけど、なんでトラはそんな傷だらけなの?」
これほど大きく、そして恐らく強いであろう彼が瀕死になるほどの重症。
何があったのか聞いておかないと、私の生存に関わってくるかもしれない。
「…俺は、群れを追われたのだ。」




