12-1 動き
「ねーヘビ子ー。もういいじゃん、休憩しよー?」
ヘビ子の動きに合わせて魔法を撃つルカ。普段の彼女と違ってその魔法は明らかに精彩を欠いている。
「ダメ!出来るようになったことはその日のうちにもう一回反復しないとまた出来なくなっちゃう!」
対してヘビ子はずっと変わらない動きだ。でも所々に疲れも見て取れる。
モツナベとの最初の手合わせから日が暮れてからも挑み続けているんだ。当然だろう。
「どっちも正しいが、今回は王女様寄りだな。ヘビ子ちゃん、オーバーワークも体に良くねえ。」
「おーばー…?」
「やり過ぎはだめって意味だ。」
ヘビ子の攻撃を受け流したモツナベはそのままヘビ子の攻撃の勢いを利用して一本背負いで地面に倒した。
少し離れたところで魔法を撃っていたルカもそれに合わせるようにその場で天を仰いで寝転んだ。
「重ねたもんはちゃんと身についてる。焦るな。」
「……分かった。」
「どっちかって言うと王女様だぞー。さっきから感覚ばっかりで魔法撃ちやがって、全然安定してねえじゃねえかー。」
「うるさいなー、疲れてたのー!」
ばたばたと両の手足を動かして暴れるルカ。
彼女は確かに才能もあるし努力もする。だがそれは全部自分が楽しいということ前提。
そうではない組み手などは退屈かも知れない。
「ヘビ子ちゃんを見習えー。ずっと反復の動作確認ばっかりだ。でもそれのおかげでどんどん精度が上がってきてる。」
「私だってヘビ子に合わせてどんどん魔法の精度良くなってきてたもん!途中まで!」
「だからそれを維持できるようにって言ってんだろうが。」
「疲れるものはしょうが無いじゃん!だから今日はもう休憩!」
「はぁ……だそうだ。ヘビ子ちゃん、つーわけで今日はもう休憩…」
モツナベがヘビ子の方を振り返るとヘビ子が動かなかった。
私はヘビ子の方に駆け寄ると。
「…寝てる。」
「寝てるな。」
この一瞬で寝てしまうとは。どれだけずっと緊張状態にいたんだ。
ドラがヘビ子を抱えて寝床に向かっていく背中を私とモツナベ、そしてルカの三人で見ていた。
「…努力をする才能があの子にはちゃんとある。だが無茶をするのは元教師として看過は出来ねえな。」
「…分かってる。」
ヘビ子はきっと強くなる。
でも今はまだその強さを焦る必要は無い。
私がまだあの子を守れるうちは。
「…!なんだ、また強いヤツが来たな。」
「…?」
モツナベは暗くなっていく空を眺める。
その彼方から、金色に輝く翼を羽ばたかせてキュアが戻ってきた。
「ずいぶんと賑やかだな。」
「ちょっとお客さんが来てて。」
「…西の王女か。それにその男は…冒険者か?」
「おう。モツナベだ。」
「モツナベか。私は聖獣キュアラルフェニックス。すまないが、少し席を外して貰えるだろうか。ウサギに東の帝国で起こっていること、そしてこれから起こり得ることを話したい。」
いつも真面目なキュアの声色がいつも以上に真剣だった。
「ふーん?まあ、面倒なことに巻き込まれねえなら俺は聞かねえ方が良いかもな。」
「ねえ。その件、私も一緒に聞かせて。帝国のことならロム王国も無関係って訳にはいかない。」
「私もルカ様と同じでございます。キュアラルフェニックス様、何卒…」
ミルザがやって来て話に参加するのと同時に「向こうで寝てるから終わったら呼んでくれ」とモツナベが離れていった。
「…いいだろう。恐らくだが帝国の動きの主な目的はロム王国だ。」
「キュア、詳しく話して。」
「うむ。順を追って話そう。」
キュアが羽をたたみ、地面に座った。
「ドラからはなんと聞いている?」
「ファディオス帝国絡みで胸騒ぎがするってだけ。」
「そうだ。あくまで勘でしかなかったが、すこし妙な違和感を感じてな。」
「違和感?」
「帝国はほぼ毎日、森への監視を行っている。今の皇帝のその更に前から。監視とは名ばかりの侵攻にも近い攻撃ではあるがな。」
「それは前から把握はしていたけど、それがどうしたの?」
「ここ数日、帝国からの監視が全く無いのだ。」
それは、情報だけ聞くと良い方向ではあるが確かに異常だ。
先代の皇帝から続いていることなのだとしたらなおさら。
「私は眷属を送り込んだ。内部までは侵入できずとも、国境周辺であれば兵士や国民から何か聞けるかもしれんとな。結果として、すぐに眷属は見つかってしまい殺されてしまったが、気になる情報を仕入れることが出来た。」
「気になる情報?」
「帝国が、久しく行っていなかった王国への大規模侵攻を目論んでいるらしい…」




