12-2 動き
「王国への、大規模侵攻...!?」
「...キュアラルフェニックス様、そのお話詳しくお聞かせ願えますか?」
「と言うのも、今回私が警戒しているのはその侵攻に先駆けた先遣隊だ。転生騎士団と呼ばれる者たちが近いうちにこの森を抜けて開戦の狼煙を上げるということらしい。」
転生騎士団...!!
カワサキの率いる、転生者たちを集めた帝国の部隊だ。
「転生騎士団...晩餐会に来ていた者たちですね。」
「でもいくら転生...転生騎士団が強いからって、この森を抜けて通ることなんて出来るの?」
「ルカ様の疑問の通りかと。なので恐らく、南北に迂回しての侵攻ルートを辿るはずです。これまでの帝国と同じように。」
「そうであろうな。帝国から王国まで最短で抜けようと思えば、私、ドラ、そしてウサギの管理する縄張りを通ることになる。そのようなことをすれば我々も見過ごせないことくらい彼らも承知だろう。」
「じゃあ、南北から来るのは分かってるんだね...だったら、そこの防衛を固めればいい。」
「より危険の少ない北方の山脈沿いが一番戦力を投入しやすいでしょう。そこには私と、ルキウスを呼びつけて魔法師団で向かいます。」
「そしたら、南の海岸沿いは私が行くよ。王女が前線に立つな、なんて言わないでよ?北より危険度が低いからって油断はしないから。出来ればウサギも手助けしてほしいけど......」
ルカはそこまで言うと言葉を続けなかった。
彼女が何を言おうとしているか、私もわかる。
私は、この件に関して現段階では手助けをする事はできない。
「...我ら聖獣は、森の秩序を維持し、守る者...直接的に森が害されないとなれば聖獣であるウサギは手出しをすることは許されぬ...」
友好関係を結んでいるとはいえ、無関係の事態に肩入れをするわけにはいかなかった。
「...理解しています。ですから、ルカ様。今回あなた様を戦力として投入するわけにはいきません。護衛も無し、かと言って北方に連れて行くわけにも...」
「分かってるよ...!けど...!!」
「じゃあ、ルカといっしょに私が戦うよ。」
私達の背後から聞こえてきた少女の声。
ドラに抱えられたヘビ子が片手を上げて宣言していた。
「ドラ、寝床に連れて行ってたんじゃ無かったのか?」
「お前が来たときにはとっくに起きてたよ。ただ、状況が状況だったからな。【聴覚強化】で話だけ聞かせてもらってた。」
「私がルカと一緒に南で備える。私は聖獣じゃない。ニンゲン基準じゃ多分強い方だけど、ここではただの魔獣だから、ルカのために戦っても問題ないでしょ?お母さま。」
「...でもヘビ子、あなたは晩餐会で私の使者だと顔が相手に伝わってる。聖獣と無関係の魔獣というわけにはいかないんだよ...」
「良いじゃねえか。使者としてじゃない、ただのヘビ子の意思として、森の使命とか秩序とか関係なく、ただダチの為に戦うってだけだろ?それくらいなら、変な肩書はついてないと思うぜ。」
「ヘビ子...いいの?私達王国の問題に巻き込んじゃうんだよ?」
「王国とか帝国とかは私よく分からないけど。ルカが...友達が困ってるし。それに、王国が滅んじゃったらリョーリチョーにケーキ教われなくなっちゃう。」
「...屁理屈のような気もするが。タートル、本当に問題はないのか?」
「我々聖獣は森を守る者。しかしそのほかの魔獣には魔獣の意思があります。森で過ごすも離れるも、人と共に戦うも、全てはその魔獣の意思ですよ。」
「だとさ。」
「ううむ...ならば、ヘビ子が王女と共に戦うのは問題はないのか...」
キュアはどこか腑に落ちていないようだったが、タートルの決定だ。
それ以上は何も言わなかった。
「では、我々は一度王国に戻り、急ぎ部隊を編成します。ヘビ子様、くれぐれもルカ様のことをよろしくお願いいたします。」
「うん!」
「大丈夫だよミルザ。ヘビ子より私のほうが強いから、いざとなったらヘビ子を囮にして逃げるから!」
「はぁ!?私の方がルカより継戦能力あるんだけど!」
「持久力ってだけでしょー?実戦で役立つのかなーそれ。」
「わ、私だって!ルカが魔力切れ起こしたらその辺にほったらかすから!」
「そんなことありませんー!」
すっかり仲が良くなった、のか?
「聖獣様...」
二人の言い争いに紛れるようにミルザが私たち聖獣の前で膝をついた。
「ミルザさん、大丈夫。ヘビ子は本当に置いていったりとかはしないと思うから。」
「いえ、そちらではなく、逆でございます。」
「逆?」
「ルカ様こそ、おそらく有事の際はヘビ子様を見捨てて逃げる、などと言うことはできません。ですのでその際は、何卒......」
その顔は真剣そのものだった。
王国の人間として、魔法師団として、そしてルカ専属のメイドとして。
様々な葛藤のうえでのこの決断なのだろう。
「黙ってろミルザ・ラビオネア。その先を言われると俺たちも好きに動けなくなっちまうんだよ。」
ドラが爪の先で歯の間のゴミを取りながら適当に、しかしちゃんとミルザに向かって答えた。
「...?と言いますと?」
「いいから。お前はお前で対帝国での自分の立ち回りだけ考えてろ。お前は俺より弱いんだからよ。」
「...かしこまりました。ですが。」
ミルザは顔を上げると苦笑するようにドラを見た。
「【滅界魔法】を使っていない私に純粋な競り合いで勝ったからといって、私があなた様より弱いという証明にはならないかと。」
「あぁ!?何だとこの野郎!!」
「なんと...お前は人間相手に本気も出させてやれないのか...」
「キュアてめぇは黙ってろ!!!」
…ああ。
多分あれだ。
ルカの負けず嫌いってこの人の影響だ。
「こいつが『私の魔法は殺す為の魔法なので』とか言って本気出さなかっただけだっつの!!!」
「ですが純粋な競り合いには負けました。しかし果たしてそれは真なる意味で負けたと言えるのでしょうか。」
「いや、人間よ。ドラにも世界は広いことを教えてやったほうがいいかもしれんな。」
「キュア、お前じゃこいつの魔法全弾当たるっての。」
言い合いも出来るほどの雰囲気ではあるようだ。
だが、小さいながらも確実に、世界が動き出そうとしているのは確かだった。
次章 帝国侵攻編




