11-4 ライバル
「素晴らしい魔力制御ですね。」
タートルが賞賛する。
「魔力保有量もさることながら、目を見張るほどの繊細な魔力制御。私でもあそこまでの制御は出来ないでしょう。」
タートルにここまで言わせるとは、やはりミルザは強かった。
ドラとミルザを囲むように展開された魔法陣からは無数の魔法が発動し、ドラを襲う。
圧倒的な物量による制圧を掻い潜ってドラも反撃の隙を窺うが、その先の手をミルザが魔法で潰している。
消費した魔法陣が消えきる前に新たに魔法陣を展開させ、あのドラが回避することしか出来ていない。
「ハッハッハッ!!!いいぜ!いいなぁ!ニンゲン、いや、ミルザ・ラビオネア!!!こんなに攻撃に移れないのは久しぶりだッ!!!」
「まだ話す余裕があるようですが...!?」
「心配すんな、こっからだ...!!!」
ドラは回避を続けながら翼を大きく広げる。
「【加速の支配者】!!!」
ドラのスキル【加速の支配者】が全開で発動する。
周囲に抜け落ちた鱗が飛び散り、周囲に突き刺さる。
地面に刺さったそれらは地中内の砂鉄を吸着させている。
ドラの魔力で強力な磁場を帯びているのだ。
それらが互いを、そしてドラを引き寄せ、反発させることで、超加速を生み出す。
(あの動きと鱗...リニアってこと?)
そういうこと。
つまり、ドラ自身が自在に進路を変えるリニアモーターカー。
地面や周囲に飛ばした鱗、そしてドラ自身。
それらの磁力が影響し合って戦場を自分のレールにする。
それが【加速の支配者】の基本構造だ。
もちろんこの世界にリニアの概念は無いから、ミルザにとっては理解不明の超加速になっちゃうよね。
それでも...
「......鱗ですか...!」
「...!!」
ミルザは攻撃の一部をドラ自身ではなく周囲の鱗に向け始めた。
しかも氷結の魔法で固め、岩石の魔法で脆くなった鱗を砕いている。
「マジか...マジかマジか!!!お前!どうやってそれに気づいた!!?」
「理屈は分かりません...聖獣様の不思議な御力でしょうか。ですが、あたりに鱗がある範囲でしか、あなたの速度が加速していない。」
この速度で戦況が動くなかでそれを見切ったというのか...!
結果として攻撃の密度が薄くなった。
速度は落ちているものの十分高速なドラから反撃を許しているが、それらも見てからの対処で回避と迎撃を使い分けている。
これが、本当に転生者でもない人間なのか...?
人間として、魔導師として行き着く先の果てに近い、聖獣とも張り合えるほどの力。
一国の戦力としてはかなりのバランスブレイカーだ。
「ハハハッ!!!そうかよ!!!」
ドラは大量の鱗を周囲にまき散らし、それらを反射させ合うことで周囲の魔法陣を乱して消した。
そのまま翼を広げ、大きくミルザから距離を取る。
しかしこれは彼にとって撤退のための距離では無い。
「…本気でいくぞ、ミルザ・ラビオネア。」
「…お相手いたします!!」
ドラは羽ばたき、上空へと向かう。
そして見えなくなるギリギリの高度まで上昇したところで大きく旋回してミルザに向かう。
ミルザも何かを悟ったのか全ての魔方陣を集約し、天空のドラに向ける。
「【加重加速】!!!」
「【エレメント・ブラスト】!!!」
多数の属性を複合した超高威力の魔法発動と、ドラの重力による加速も込めた超突進が衝突した。
両者の激しい衝突の衝撃はタートルに守られている私たちの所にも届いてくる。
「凄いね…ドラの本気の一撃に張り合えるなんて…」
ルカの方を見ると二人の衝突をじっと見つめたまま拳を握っている。
その横のヘビ子も、二人とも同じような表情をしていた。
「………私との稽古で、ミルザはあんな技使わなかった…」
「ドラも、あんなに重い一撃を私に撃ってきたことなんて……」
王国最強メイド魔道士の一撃でも、聖獣最強クラスの破壊力を誇るドラの本気の一撃には徐々に押されてしまう。
やがてミルザの魔法が押し切られ。
「………参りました。」
ドラの爪が彼女の首もと寸前で止まる。
「やはりまだ私では聖獣様には敵いませんね…」
「何言ってやがる。」
ドラが顔を上げると、その顔面の半分は鱗が吹き飛び、黒く焦げた表皮が所々見えている。
「本当に久しぶりだぜ。俺がここまでダメージを負ったのは。」
彼は治癒魔法で顔を治療しながら笑っていた。
「ドラ、お疲れ。」
彼の治癒魔法に上掛けするように私のパサランで治癒魔法を掛ける。
彼はあまり魔法の類いが上手では無い。
治癒魔法という上位の回復魔法は持っているが、この怪我を治癒しきるのには彼だと数日かかるだろう。
「おー。すげえなこいつ、いてて…」
「ドラおじさま…」
ヘビ子がドラの傷を心配そうに見ている。
「おう、見てたかヘビ子。ニンゲンにもたまにこういう強いヤツがいるんだよ。」
「うん…」
「ルカ様、申し訳ありません。挑戦を受けておきながら、あなた様の前で負けてしまいました。」
「いいよ、ミルザ……」
二人にとってあまりに身近であまりに遠い次元の戦い。
やっていることはシンプルだったが、そこにはドラとミルザの幾重にも張り巡らされた読み合いの上で行われていたもの。
その光景を目の当たりにして、かなり自信をなくしてしまったようだ。
「スゲえ戦い見ちまった後の考えは二種類だ。自信を無くすか、自分もそうなりたいと思うか。」
後ろから獣人の太くたくましい声が聞こえてくる。
モツナベがストレッチをしながらルカとヘビ子に用意を促している。
「それじゃあ今度はあんたらが保護者達に見せてやる番だ、生徒共。」
彼は地面を割らんばかりの勢いで踏み込んで、二人を見た。
「授業参観の時間だ。」




