11-3 ライバル
「私がルカに稽古をつけるの?」
王族から魔獣へのお願いに私は一瞬困惑した。
「この前の件、私がウサギの足を引っ張った。もうそんなことは起こしたくないの。」
「とは言っても...」
教えることは別に問題ではない。問題なのは。
「...私の戦闘スタイルとルカの戦闘スタイルじゃ根本の戦略が違う。私は器用じゃないから私の戦い方しか教えられない。合ってない戦い方をするのは、あんまり得策とは言えない、かな?」
「そっか...そうだよね...」
そしてここで私の中で点と点が繋がった。
いるじゃないかここに。指導者が。
「だから、提案。ルカがモツナベに教えてもらうのはどうかな?」
「モツナベに?」
彼女は横に立っているモツナベを見上げた。
案の定彼は首を横に振る。
「だから、俺は意味のない戦いはしねえって―――」
「意味ならあるよ。一国の王族が自衛の為の戦い方を学ぶ為の指南役。王国にとってもプラスに働くし、その実績があれば傭兵や報酬の高い護衛任務の依頼もきっと受けられる。」
「......なるほど、たしかにそれは将来性があるな。」
食いついてる食いついてる。
覚えてたもんね。
授業前にほかの生徒とゴリナベが積み立て貯金や投資の話をしてたの。
この男はそういう将来設計はちゃんとするタイプ。
「とは言え今のままだと、森の聖獣としての一意見に過ぎない。だから判断はミルザさんとルカに任せるよ。」
「ミルザ!!!」
「...はぁ。分かりました。元々ウサギ様に師事する予定で想定しておりましたので、冒険者になった分手続きは容易く済みそうです。」
「とは言え、悪いが俺と王女様じゃ手合わせするには相性差がありすぎると思うぜ?」
「うっ...それは否めない...」
「確か前世で子供たちを教えていたという設定でしたよね?」
「設定じゃねえ。本当に教師って仕事をしてたんだよ。」
「でしたら、門下生が一人増えても問題はないですね。」
「......おいまさか。」
「ヘビ子とルカ、二人を同時に教えてください。」
「いや、ちょっと待て!」
甘いなゴリナベ。
こちらは転生者という情報を開示していない、つまりどれだけ二人同時に教えるのが難しいと知っていてもすっとぼけることが出来るのだよ。
ええ、知ってるとも。
でも二人くらい教えられるでしょ?教師なんだし。
「二人同時って...!!戦い方が似通ったやつ二人ならまだしも、王女様とヘビ子ちゃんじゃ真逆も真逆...」
「キョーシというお仕事はそのようなことも日常だったのでは?たくさんの子供を教えていたのならなおさら。」
「ぐっ...!」
モツナベは反論を続けようとしたが、ウサギ相手に仕事の苦労を語っても仕方ないと思ったのか、そもそももう反論が面倒になったのか、それ以上何も言わなかった。
「......言っとくが、俺の戦い方を教えるつもりはねえ。まずもって二人に合わねえからな。手合わせはしてやるから学びたきゃ勝手に学べ。」
「ありがとう!!!」
「......ヘビ子もそれでいいよね?」
私は木陰に向かって話しかける。
彼女の体をすっぽり隠してしまうほどの幹の影から、ヘビ子が顔を覗かせた。
「いいの?私も参加して...」
「お?ようヘビ子ちゃん、久しぶりだな!」
モツナベは片手をヘビ子の方に振るとにっこり笑った。
そのモツナベの挨拶を受けて、ヘビ子はおずおずと木陰から出てくる。
「と言っても、1週間ぶりくらいだけどな。元気にしてたか?」
「...うん。」
「...?どうした、随分しおらしくなっちまったな?」
「そんなこと...ないよ。」
ヘビ子は顔を上げず俯いたままだ。
モツナベが不思議そうに見ている。
ドラはため息をつくと、ミルザを指さす。
「...おいニンゲン。お前、ちょっと俺と手合わせしろや。」
「私、ですか...?」
「ああ。お前、その王女の前で全力で戦ったことねえだろ?」
「......どうしてそう思うのですか?」
「勘だよ。どうだ?俺を相手にして、そこの王女に本物を見せてやるってのは。」
「しかし...」
「見たい。」
断ろうとしていただろうミルザの言葉を遮るようにルカが答えた。
「見たい。ミルザの全力。お願い。」
「......その間、誰が姫様をお守りするのですか?」
「問題ありませんよ。」
声と共に、湖の浮島の下から滝のような水を滴らせて巨大な首が持ち上がる。
「私の背中に乗っていただければ。恐らくこの森で一番安全な場所ですから。」
「ターさん。いつから聞いてたの?」
「全部です。」
「だったら最初から起きてこいよな...」
「キャッスルタートル...!?」
「ほぉ...こいつがあの...なるほど、こりゃ勝てねえな。」
「...キャッスルタートル様のお背中であれば、私の護衛など霞んでしまいますね。」
ミルザはそう言ってドラに向き直る。
「お相手、お願いできますか?」
「当然。」
「...1点だけ。私は本来の戦い方をあなたにすることは出来ません。私の魔法は『殺す為の魔法』なので。ですから、私の全力の魔力をもって戦わせていただきます。」
「殺すための魔法を持った、生かすための護衛か...ニンゲン、名前は?」
私達はタートルの首を伝って背中に移動する。
障壁を張っているのか、魔素の流れがかなり緩やかだ。
ドラは翼を大きく広げて構え、ミルザも魔法陣を展開して応える。
その瞳は護衛のものではない。
最前線で戦い続けた魔道士の瞳だ。
「...滅界、ミルザ・ラビオネアです。」
「滅界...いいねぇ。聖獣インフェルノドラゴン、初手から最速で行く。」
短いやりとりの後、ドラが動いた。
その速度に、彼の放つ音さえもかすかに遅れて届いてくる。
魔法の構築、展開、発動という手順を踏む魔道士にとってドラの速度は天敵にも等しいはず。
しかし、ドラの初速の攻撃をミルザは魔法による補助を身体に付与して回避していた。
「へえ!?これ避けるかよ!!」
「あなたの速さは先程お見受けしました。ですので...」
ミルザはドラを振り返り、魔法陣を展開する。
…初めてあの人の魔力を感知したときから感じていた。
圧倒的な魔力量を持ちながら、それを緻密な魔力のコントロールで制御している。
それらは全てルカを守るために。
では今。
その守るための力がすべて攻撃に転じていたとしたら。
「...おい、おいおいおい...!!!すげえな滅界ッ!!!」
ドラの高揚した声が響く。
展開されたのは様々な属性魔法の魔法陣。
基本的な魔法ではあるが、その数が千や万などというレベルではない。
ミルザの背面、上空、ドラの背後まで、視界全てが彼女の展開する無数の魔法陣で覆い尽くされる。
「『ニンゲン』らしく、数でお相手しましょう。」




