11-1 ライバル
王国での私の歓迎会から1週間。
私たちはそれぞれの日常に戻り、ルカは王国、私やヘビ子は大森林での生活を送っていた。
複数人の転生者との遭遇、各国大使とのつながり、そして初めての転生者殺し。
色々あったが、この一件で何より変わったのはヘビ子だ。
「はぁ...はぁ...!!...もう一回!!」
ヘビ子は得物に見立てた木の棒を持ち、膝に手をついて荒い呼吸をしている。
「待て待てヘビ子...!さすがに今日は終わりだ、もう日が暮れちまう...」
そんなヘビ子の手合わせの相手を今日一日しているのがドラ。
彼女は起きるなりいつものタートルの湖に赴き、ドラが来た瞬間に稽古をお願いしていた。
「飯休憩くらい取ろうぜ?な?ほら、お前がニンゲンに教わってきた料理ってやつ見せてくれよ。」
「...料理なんていつでも出来る。リョーリチョーから教わったことは難しい内容じゃなかったから。あとは火の加減やタイミングで普通のニンゲンくらいには料理ができるようになるって。」
「だろ?だから、その料理を俺にも...」
「でも強くならなきゃ。強くならないと料理を楽しむ時間もなくなる...守れる強さがないと、私は...」
「とは言ってもな...」
「......いい。一人で打ち込みしてくる。」
「あ、おいヘビ子!!」
ヘビ子は一人木々の向こうに消えていった。
ドラが頭を抱えながら私の横に倒れ込んだ。
「あーーー、疲れた、腹減った...おいウサギ、何とかしろよアイツ...ロム王国から戻ってきてからずっとあんな調子だぞ...?」
「......キュアは?」
「話逸らすって事は何か王国であったんだな...キュアなら東にいる。何かファディオス帝国絡みで胸騒ぎがするんだとさ。」
「そう...」
「......ヘビ子、マジにやべぇぞ。」
ドラは翼から衝撃波を放ち、手近にあった木から器用に実を取った。
あんまり美味しくない実のはずだけど、よっぽど空腹だったのだろう。
「王国で何があった?」
「...負けることを覚えたってところかな。」
「あー、それだけ聞きゃ何となく分かるわ。」
「分かるんだ?」
「...俺も昔は、負け続けてたからな。」
そうか。
確かドラはタートルに挑み続けて、負け続けて、そして認められた側だ。
「自分で言うのもあれだが、今にして思えば俺には最初から才能やセンスに通じるものがあった。だからがむしゃらにぶつかりまくって、無理やり壁を越えられたが、ヘビ子は違う。」
実の種を握り潰す。
かなり硬い実だ。種ならなおさら。
ドラはそれすら片手で容易く潰してしまう。
「...あいつは、生まれてこの方持たざる者だ。」
「...それを私たちみんなで育てようって決めたじゃん。」
「拾ってきたのはお前だ。俺は最初は反対した。弱いやつはこの森じゃ生きていけない。その当然の定めに逆らうってな。」
「......反対してた子育てに誰よりも親身になってくれてありがと。」
「...あいつとキュアをからかうのが楽しいだけだ。」
ドラは素直じゃない。
素直じゃないけど、的を外したこともいわない。
今ドラが言ったことは最もなことだ。
今回の滞在はヘビ子の成長につながった。でもその結果、彼女は自分一人じゃ越えられない壁にぶつかってしまった。
「どうすれば、あの子はもっと成長できる?どうすれば壁を越えられる?」
「...俺もそうだが、お前も一人で強くなっちまったからな...そういう奴の教えは今の段階じゃ逆効果かもしれねえ。」
「んー、キュアとかターさんにもっと稽古をつけてもらう?」
「キュアは強さのベクトルがヘビ子の求める方向と違う。タートルに至っては俺たちと次元が違いすぎて稽古にならねえ。」
「うーん......」
「今のあいつに必要なのは『客観的な意見』と『もっと身近な壁』そこを解決できるやつじゃねえと......」
ドラの言葉が止まった。
たぶん、私もそれとほぼ同時に何かの気配に気づく。
私もドラも言葉を交わさずに臨戦態勢にはいる。
「......強いな。」
「ニ...いや三体...?魔獣じゃないよね。」
「一匹は魔獣みたいな雰囲気だが違うな...もう二匹は...ニンゲンか...?二匹とも魔力が高いが、一匹はニンゲンの魔力とは思えねえレベルだ...」
翼を広げて姿勢を低くするドラ。
私もパサランに魔力を流し【身体強化】を全身に発動する。
私達の視線の先で、私の背丈の数倍ある草がかき分けられる。
「あ!ほらいた!」
「マジで居るじゃねえか。しかも聖獣がもう一匹。」
「あれが、インフェルノドラゴン...」
そこから現れたのは、金髪にパニエを外した動きやすいドレスの王女と、そのメイドの魔道士、そして熊の獣人の冒険者。
「ルカ!?ミルザさんも...それに、モツナベさん...!?」
「久しぶり、ってほどでもないか。1週間ぶり!」




