ルカの思い
ヘビ子ちゃんはモツナベに負けた。
ラミア本来の姿になってからの彼女は、大会中それまで一度も構えを取らなかったモツナベにファイティングポーズを取らせ、そして途中までは彼の動きを見切っていた。
体格差や能力差、いろんな要素もあって決定打には至らなかったものの、反撃までしてた。
それでもモツナベの方が上手だった。
【極限身体超強化】
時間経過とともに身体能力が上昇する。
1分毎に倍率は上がっていき、最大値は60倍。
【天啓眼】で見た彼のスキルは馬鹿げたほどにシンプルで強力なスキルだった。
戦闘開始直後、つまりスキルの効果が発揮され始めるよりも前に、参加者たちを全て一撃で沈めていたモツナベ。
ヘビ子ちゃんはそんな彼と約十分も戦い続けてた。
それだけで既にかなり強い部類だ。
多分私じゃ、距離をとって消耗戦に持ち込んでも一瞬の隙で詰め切られる。
そもそもそんな戦い方をしたら、いずれ距離も取れないほどにモツナベは強化されていく。
見た感じ、持っているスキルはほとんど魔獣が持っているようなスキルだった。
それに酒場で見たあの感じだと【強欲な殺戮】の事は知らなそうではある。
それでも魔獣討伐だけであそこまで強くなれる。
その強くなる過程はウサギと似通ったものがあるだろう。
私とウサギはヘビ子ちゃんを迎えに会場の裏動線の通路に向かう。
私たちが着いた時には、ヘビ子ちゃんを抱えてモツナベが歩いて来ていた。
「よう、お母様に、王女殿下。」
ラミアの姿のまま彼女の尻尾を引きずらないように肩に担ぎ、体はちゃんと前に抱えている。
見るとヘビ子ちゃんは既に目を覚ましていた。
「死なない程度に加減はしたが、かなりの威力を打ち込んだ。あんたら魔法は使えるか?悪いが俺はそっちの方はからっきしでな。」
私は治癒魔法をヘビ子ちゃんにかける。
ヘビ子ちゃんは少しして【人間化】を発動してモツナベの手を離れた。
ふらついてはいるが、意識はしっかりしている。
「ヘビ子。」
「...お母様、ごめんなさい。」
彼女の第一声は謝罪だった。
「私、勝てなかった...」
「どうして勝てなくて謝るの?」
「だって......!!」
その瞳は涙で潤み、声が上ずっている。
「...モツナベさんは強かった?」
「......うん。」
「それが分かれば十分。連れてきて良かった。」
その言葉でヘビ子ちゃんは泣き崩れ、小さなウサギにすがるようにして感情をこぼす。
「悔しい...!!!悔しいよお母さん!!!私、もっと...もっと強くなりたい...!!!」
「うん。」
「お母さんと一緒に...横に立って戦えるようになりたい...!!!」
「うん。」
彼女の言葉を、ただウサギは聞いていた。
格上の相手と戦って、負けて、それでもそこから悔しいという感情を持ち帰った。
今の私にそんなことができるだろうか?
自分がウサギを助ければいいと思い上がり、そして罠に引っかかって、結局はウサギに助けられて。
私なんかより、ヘビ子ちゃんの方がよっぽど...
「途中のあんたはいい目をしてたぜ。」
モツナベが壁に寄りかかって笑う。
「だが、最後の最後、あんたは自分の積み重ねたもんを信じきれなかった。」
「...ヘビ子ちゃんの積み重ねたものって?」
それは純粋な興味から出た疑問だった。
モツナベは私に向き直ると続けた。
「...王女様、あんたの噂は聞いてる。自在な移動魔法、それに加えて魔法のセンスも抜群らしいな。」
「あ、ありがとう...?」
「この子は、そんな才能とセンスに恵まれた王女様とは対極の存在だよ。生まれながらにして欠けてた、持たざる者だ。」
「持たざる者...」
「ラミア固有の能力を持ってなかった、だからそれを補うために死ぬ気で努力したんだろうな。もちろん、王女様だって魔法やスキルを上達させる努力はしてるとは思うぜ。だが、ヘビ子ちゃんの努力は、ある種執念にも近い。」
執念。
ウサギの横に立ちたいという気持ち。
それは親子の愛情を超えた、恩人への恩返しにも見える。
「その執念こそがヘビ子ちゃんが積み重ねたもんだ。健全で勇ましい、その執念をヘビ子ちゃん自身が信じられるようになれば、この子はもっと強くなる。」
あれだけの試合をした男に、転生者にここまで言わせる程の努力。
それはもはや、努力の才能なのではないだろうか。
私みたいに、異世界が楽しいから、魔法が楽しいから努力をしているわけじゃない。
命に直結する、生存率を上げるための努力の才能。
私にそんなことができるのだろうか。
戦い抜いた結果に悔し涙を流す友達の姿を、私はただ見ることしかできなかった。




