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ウサギが異世界デスゲームをクリアする方法  作者: 山田野オロチ
聖獣マルルウサギ奉迎記念大晩餐会

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ヘビ子の形

一番古い記憶は、木の虚の中で腐った果実を齧る記憶。

皆の持つ目を持っていなかった私は、皆と同じであることを拒絶された。

寂しくて、寒くて、苦しくて、お腹が空いて。

最後の力を振り絞った先でゆっくりと眠っていく私を起こしてくれたのがお母様だった。

強くて、温かくて、優しくて、たまに厳しくて。

お母様が私に与えてくれたものは、どれも私にとって宝物で。

私がお母様に憧れるのを止めることなんて出来なかった。

とても、とても、とっても遠い背中。

その背中に追いつきたくて、横に並びたくて、いっぱいいっぱい頑張った。

何度も何度もドラおじさまに負けて、何度も何度もキュアおじさまに教えられて、何度も何度もターおばさまに助けてもらった。

それでもまだ届かない。

ドラおじさまは言ってた。

「ウサギは強い。だがそれだけじゃねえ。」

キュアおじさまも言ってた。

「あの者には覚悟がある。」

強くて、遠くて、憧れのお母様。

私はただお母様に認めてもらいたかった。

「…認めましょう、ロム王国第一王女ルカ・ロム。聖獣の試練を越えた証として我が力の一端を授けます。」

そのニンゲンはたった1日でお母様に認められた。

ニンゲンなのにお母様みたいに強くて、ニンゲンなのにお母様に認められて、ニンゲンなのにお母様と一緒に戦って。

嫌な奴なら嫌いになれた。

でもそのニンゲンは、ルカはお母様みたいに優しかった。

…と言うか、何かお母様みたいだった。

嫌いになれなかった。

もっと仲良くなりたいとも思った。

そしたら、二人に少しでも近づけるかもって。

そんなことを考えてるうちは、まだ弱いままだって分かってるけど。


「おう。待たせたなヘビ子ちゃん。」


低く唸るような、なのにどこか軽い男の声。

冒険者モツナベ。

私が今から戦う相手だ。


「約束、守ってくれてありがとう。」

「約束?んなもんした覚えはねえな。俺はただ賞金が欲しいだけだ。」


この男は強い。

理由は分からないけど、お母様も知らなかった私の弱さを一目で見抜いた。

それに多分、悔しいけど今の私よりずっと強い。

さっき見たあの一戦で確信したんだ。


「...賞金は多分、モツナベのものだよ。今の私じゃモツナベには......」


言いかけた所で彼の大きな手が私の頭をワシャワシャと撫でた。


「ちょ、なにすんの!?」

「何ビビってんだよ。さっきまでのあの強引さはどうした?」

「だって...あの時私は、あなたがこんなに強いなんて知らなくて。」


ただ私の弱さを見抜いた理由を知りたかった。

この興味が街じゃなくて森で湧いてたら、私は間違いなく死んでいる。


「ほー?まだ俺と戦ってもないのに、負けるって分かるのか?」

「...自分との実力差くらいわかるよ。そこまで愚かじゃない。」

「そうだな、お前は愚かじゃない。だから勝負がいろんな要素で決まることも分かってるだろ?」

「...うん。」

「俺がお前を殴ろうとした瞬間に落雷が俺に落ちるかもしれない、カウンターしようとして滑って転んで頭を思いっきりぶつけるかも知れない。」

「...そんなこと、めったに起きないよ。」

「だがゼロじゃない。勝ち目のない相手との戦いでも、勝ち目を探す。実際見たことはねえが、あのウサちゃんもそうなんじゃねえか?」


お母様は元々森の中では弱い種族だ。

そこから聖獣になった。

聖獣になってからも、単純な種族や戦闘力で見ればお母様より強い魔獣は森に何種類かいる。

それでも私は、お母様が負ける姿を見たことがなかった。


「...当たりか。だったら、娘のお前が格上相手に最初から諦めちゃダメだろ?この俺から勝ちの目を拾ってみせろ。」

「......うん!」


モツナベとフィールドに通じる通路を歩き、観衆のもとへ。

この時点で試合は始まっている。

でも...


「...へえ?」


私は両手を身体の前で揃え、腰から体を倒してモツナベに頭を下げる。

やっぱり戦いとしてはこれで始めるのは違和感なのだろう。

観客からはざわめきの声が聞こえてくる。

それでいい。

私は私で、森で教わったことに倣う。


「『オジギ』か...ってことは...いや、今はいいか。」


顔を上げると、モツナベも崩した形ではあるが私に頭を下げている。


「聖獣式の挨拶を知ってるの?」

「いいや?俺が知ってる作法がたまたまあんたの故郷と似てたってだけだよ。」

「そうなんだ。」

「いつでも来な。一発目は全員サービスしてやることにしてるんだよ。」


油断でも何でもない。

彼は本気で一発受けた上で勝とうとしてる。

だったら。

私は体を一度大きく落として跳躍する。

【跳躍強化】の乗った体はモツナベの頭上遙か先まで跳ね上がる。

そのまま落下する勢いと【身体強化】を乗せた踵を彼の脳天へ。

あの巨体を私の力で壁に吹き飛ばすなんて無理だ。

だったら頭に一撃、気絶させる。

岩石にでも衝突したかのような衝撃。しかし、確実に当たった、ガードされた感触もない。


「驚いたぜ。」


衝撃とともに立ち上がった土煙から姿を現した彼は、脳天でしっかりと私の足を受け止めている。


「ラミアがこんな重い一撃を撃つなんてな...あの種族は【石化眼】や魔法による搦手が定石なんだが、これも適応か。」

「無傷...!?」

「いや?いい線いってたぜ。手は抜いてなかったみたいだしな。俺じゃなきゃ今ので決まりだった。」


そう言って彼は拳を握る。


「そんじゃあ次は俺の番。」


魔法も乗せていない、ただの拳。

スキルを乗せているのかもしれないが見た目にはわからない。

それでも、私の生き物としての、魔獣としての直感が告げた。

「守らないと死ぬ」


「ヌゥンッ!!!!!!」

「...ッ!!!?」


何が起こった?

とっさに防御はした、内臓まではダメージを受けていない。

なのに、今私の体は大きく弾き飛ばされて地面と平行に吹き飛んでいる。

…まずい!!

このままじゃ壁に当たって私の負けだ!

私は火炎魔法を天に向かって放ち、その反動で自分の体を地面に打ち付け無理やり停止する。

危なかった。

あとほんの少し判断が遅ければ壁に触れて負けていた。


「なるほどな、魔法が使えないって訳じゃねえのか。羨ましいな。俺はどうにも魔法は苦手でよ。魔力がねえわけじゃ無いんだが、発動できた試しがねえ。」


さっきまで至近距離にいたはずのモツナベとの距離があんなに遠い。

防御に使った両腕が鈍く痛む。

【治癒魔法】ですぐに治せるレベルだけど、骨にヒビくらいは入ってそうだ。

…どうしよう。

これだけモツナベとの距離も離れているのに、彼がもう先ほどみたいな攻撃じゃ当たりもしないほど準備しているのがわかる。

拳も上げていない、腰も落としていない。

ぬるい風の吹くこのフィールドをふらっと散歩でもしに来たような。

そんな本気じゃない彼にも、もう私は一撃も入れられないかもしれない。

…どうして。

どうして私はいつも。

ふと観客席に目をやると、他より一段高い場所でお母様とルカが見ている。

どうして私はルカみたいになれないの?

いきなり現れて、お母様に認められて。

私にもっと魔法の才能があったら良かったのかな?私が【石化眼】を持ってたら良かったのかな?

私が欲しかった才能《もの》をルカは全部持ってる。

私だって、私だってお母様に...


「.........ちくしょう。」


天を仰ぎ、瞳から溢れる嫉妬の思いを無理やり乾かす。

大きく息を吸って、吐いて。また吸って、吐いて。

体を伸ばし、縮め、また戻す。

今手元に無いものを羨んで何になる。

私には才能はない。ルカみたいな特別な力もない。

今の私にあるのは、努力した私という結果だけだ。


「...!」


【人間化《ヒューマライズ》】を解き、ニンゲンの足を蛇の身体に戻す。

私が私として戦うためのもの。

尻尾と胴体を収縮し、上半身をしっかり落とす。

顎を引き、片手を相手にかざし距離を測り、もう片方の手で拳を握り、脇を閉じる。

目線は離さず、真っすぐと相手を見る。

この目で、どんな動きも見逃さない。

これが私の、努力の形。

【聖獣式格闘術】その基礎の構え。


「………」


今の私に出来る全力をこの男にぶつける。

モツナベが一気に距離を詰めて前進してくる。

右正面からの拳。


「…!」


そのまま体をひねって左の裏拳。


「…おいおい!」


体を回した勢いでもう一度右。

その後は、人と似通った骨格の獣人である以上数拍反撃に転じることは出来ない。

構えた右の一撃をモツナベの右脇腹に撃ち込む。

少し後ろに下がる程度で全くもって有効打にはほど遠い。

それでも、これでいい。

ここから見つけ出す。お母さんみたいに、この状況から勝ちをたぐり寄せる。


「…はっ!!いい目になったじゃねえか…!!」


そう言うとモツナベは両手を軽く握り、腕を顔の前あたりまで上げた。

小刻みに体を左右に揺らしているのは、私に攻撃のテンポを握らせないためとすぐに動けるようにかな…?

「モツナベが構えたぞ…!?」「この大会じゃ初めてじゃ無いか!?」「何だあの動き!」

観客達のざわめきが聞こえる。


「…構えてくれるんだ?」

「当たり前だ。俺にとってお前は、本気を出す必要がある相手って事が今ので分かった…」


こぶしの向こうに見える彼の目は楽しんでいる。

だが、今までのような子供に向ける目じゃない。

同じ土俵に立って、私との戦闘を楽しんでくれている目だ。


「…勝負だ、聖獣の使者ヘビ子殿。」

「…!………勝負です、冒険者モツナベ様!」


短い言葉を交わし、彼が動き出す。

先ほどまでよりも数段早い。

あの独特のステップが初速をあげているのか。

突進の威力を乗せた右。

速いが避けられない速さじゃ無い…!

彼の体をなぞるように回転して避け、そのまま尻尾で顔面を叩く。

それで止まるような相手ではない。

叩いた尻尾を掴まれ一瞬体勢が崩れるが、腕に巻き付き締め上げ、無理矢理手を開かせて距離を取る。

それに合わせて再びモツナベが距離を詰めてきた。

振りかぶってない、歩数を計算しているようにも見える、今度は蹴りだ…!

彼は飛び上がってその体重を乗せた蹴りを放つ。

体を小さくかがめて、収縮した尻尾を伸ばし背後に回り背中に一撃入れて連撃を潰してまた距離を取る。


「…隙がねえな。」


モツナベは笑っている。


「どんな攻撃にも見てから対応できる動体視力…それに反射速度…やるじゃねえか。」

「普段からものすっごい速い相手と稽古してるからね。」

「稽古…そうか、なるほどな。分かってても対応できない、限界まで研ぎ澄まされた圧倒的な基礎力…教科書の完成形か…」

「きょう、かしょ…?何なのそれ?」

「お手本って事だよ。あんたにとってのウサちゃんやそのものすっごい速い相手ってやつだ。」


彼もステップを崩さない。


「ほんじゃあ…いっちょ中間試験って所か?」


再び彼が距離を詰める。

その速度はさっき見ている…同じように反撃できる隙を探して…


「…っ!」


先ほどと同じ軌道、同じ構えだ。

だが躱せはするもののほんの僅かに速度が速い。

その僅かな速度のブレが反撃の選択肢を減らす。

しかたない…自分も距離を取れなくなるが、浮いたモツナベの脚に尻尾を巻き付け大きく振る。

バランスを崩した隙に改めて攻撃を試みるが、先ほどよりも入りが浅い…!


「さぁて、そろそろギア上がってきたぜ…!!」


再び突進。

これもさっきと全く同じ行動だ…

全く同じ行動なのに同じ回避で肩にかすった…!?

攻撃の速度が上がってきている…?

いや、速度だけじゃ無い。

威力、反応、その他全ての質が上がっている…

先ほどの肩にかすった攻撃。

まともに喰らった最初の一撃よりも鈍い痛みが治まらない。

おまけに攻撃間の隙まで短くなってきている。

さっきまで距離を取れた隙がだんだんと無くなってきた。

猛攻の速度を上げながら、モツナベは楽しそうに語っている。


「どうやらこっちの俺もスロースターターらしくてな。アップに時間が掛かるんだよ。」


何を言っているのか全く分からない。

それでもアイツの攻撃が繰り返される度に私の選択肢が減っていってる…

長引かせちゃいけない。長くなればなるほどこの戦いは不利になる…!!

この連続した攻めの間にも、何発か避けきれなくなってきている…!!!

何が来るのかはまだ認識できる、予測できる。

でもそれも予測から行動までの時間が短くなってる。

このままじゃ予測も出来ない…今の私じゃお母様みたいに対応しきれない…!!

私は【聖獣式格闘術】の構えを解き、全身の力を収束させて右手に込める。

次の攻撃を避けきって、その勢いを利用して壁にモツナベを衝突させる…!


「……それじゃあダメだ。」

「…!?」


しかし、彼は既に私の予測よりも速かった。

防御の出来ない、完全な背後。

【聖獣式格闘術】を解いたことで、速度を上げたモツナベの動きに追いつけなくなっていた。


「最後まで、自分の武器としっかり向き合え。」


試合の最後に彼はそう言った。

私は、背中に強烈な一撃を受けたことで受け身も取ることが出来ずにフィールドの壁に衝突するまで、モツナベの顔を見ることが出来なかった。


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