10-3 寝坊
思えば今日は昨日や一昨日と比べて街に人が少なかった。
その理由の答え合わせを今、私たちは王国所有の大闘技場で目の当たりにしていた。
円形のスタジアム。前世の知識だとコロッセオとかが近いのか。
巨大なその会場に人々が所狭しと集まっている。
「凄いね...」
「この国はどちらかと言うと世界から見れば平和寄りだから。だからこういう戦闘娯楽は一定の需要があるし、ここで得られる興行収入もこの国の財源の一つなんだ。」
確かに観客は冒険者や商人と様々。
中には賭け事の声も聞こえてくる。
王国の魔法師団というほぼ自治組織に近い人たちの目が届く場所でそういうことが黙認されているということは、これも含めての盛り上がりなのだろう。
「さーて、私はモツナベにお小遣いを...!」
「ルカ様。今日は御前試合の意味も含まれています。陛下の代わりに出席されていることをお忘れなく。」
「...はい。」
ミルザに釘を差されるルカ。
あなた自分が8歳だってこと忘れてない?それともこの国は8歳で賭博が許されるの...?
私たちはいかにも王族専用です、みたいな特別席からフィールドを見下ろすかたちで観戦できるみたいだ。
ヘビ子は最終戦を勝ち残った人と戦うため今は私たちと同じ場所で観戦している。
そして、スタジアムからの割れんばかりの声援とともに一番最初の組み合わせがフィールドに現れる。
「おー、最初からモツナベだ。」
モツナベの装備は先ほどとほとんど変わらない。
強いて言えばパンツだけじゃなくズボンも履いているくらいだが、上裸だ。
対して相手は完全武装の剣士。
「相手も西側で有名な冒険者ですね。」
「ルキウス知ってるの?」
「ええ。クメイジン峡谷の防衛戦をラキオン大樹と合同で確認した時に護衛として参加していた記憶があります。」
国交に関わる重要な任務に呼ばれるような人だ。
モツナベも1回戦から一筋縄じゃいかなそうだな...
試合開始のゴングなどはない。
両者がフィールドに立てばその時点で試合は開始。
降参の宣言、側面の壁に触れるか戦闘継続が不可能になれば敗北。
冒険者の多い大会らしいルールだ。
剣士は足早に踏み込んで斬撃を繰り出す。
洗練された綺麗な型だ。
モツナベはそれを両の手を叩き合うようにして受け止める。
「おおっ!白刃取り!!」
「武器を持っていない時点で予想はついてましたが、彼は素手での戦闘スタイルのようですね。」
剣士も負けじと押し込むがモツナベの両手に挟まれた剣はびくともしない。
そして、モツナベは挟んだ剣を放るように弾くと、一気に剣士の懐に潜り込む。
モツナベは獣人の中でも大柄な熊の獣人とはいえ、相手は装甲に身を包んだ剣士だ。
一度押し返して仕切り直しか、そう見ていると。
「ウラァァァァッ!!!!!!」
「ッ!!?」
その剛腕から放たれた一撃。
先ほどラビオネアで地面に大穴を空けた一撃は剣士の装甲を焼き菓子のごとく容易く砕き、そして剣士もろとも吹き飛ばす。
打ち上げられた剣士は一直線で私たちの観戦している席へ飛ばされ、衝突直前で私、ルカ、ミルザ、ルキウスが同時に発動した防御魔法にぶつかって止まった。
「...っぶなぁ!?」
「あの男、わざとこちらに飛ばしてきましたね。」
「俺達がいたとはいえ、姫様に何かあったらどうするつもりだ...」
見下ろすとモツナベはこちらを、いや...私の隣のヘビ子を指差してる。
「ウォームアップをしておけ」
そう言っているかのようにも見えた。
「...!!」
ヘビ子は彼のその視線に体を震わせている。
前世の時から彼は生徒にやる気を出させるのが上手かった。
時にやる気になれる飴を用意し、時に一歩踏ん張るムチを与え、そして時には自らが率先して手本を見せた。
彼はヘビ子に「自分はこういう戦い方をする、対策をしてみろ」と告げているのだ。
「.........お母様。私身体を動かしてくる。」
ヘビ子は視線をモツナベから一切離さずに呟いた。
その目は先ほどよりもずっと輝いている。
「そう。見なくても大丈夫?」
「.........踏み込みの後、身体のひねり。」
「よろしい。始まるまでには戻ってきなね。」
ヘビ子は黙って頷くと観覧席から通路にでた。
「...?ヘビ子ちゃん、モツナベの対策しなくて大丈夫なの?多分だけど、あいつ勝ち上がってくるよ?」
「大丈夫みたい。想像以上にしっかり見てた。」
「今の一撃で何か分かったの!?」
「さあ?ただ、あの娘にとってもいい勉強になるから。」




