9-7 感触
「ふぅ…【記憶改変】か…厄介なスキルだね…」
「ルカ、助かったよ…」
私とルカは先ほどの通りの先にある物陰に身を隠した。ここが恐らくルカの視界に入った中で一番安全な場所だったのだろう。
護衛のルキウスの向かった方向とは別方向だが、それでもあの場に居続けるよりは百倍良い。
「…ごめん。完全私の油断だった。」
「大丈夫だよ。ウサギの経験から来る対策があいつには相性が悪かったってだけでしょ?」
「それでも、ルカがいなかったら今頃私は…」
完全に彼のスキルに捕えられていただろう。
「……接触条件とは言え、洗脳に近いスキル…あまりにも強いスキルだ…」
「うん。だからこそ、今の段階であいつをどうにかしないといけない。」
「防御のスキルや逃走系のスキルを使わせないように街中で戦うのは不可能だ…このまま街を離れるのを待った方が…」
「いや、今あいつの仲間にとってウサギはあいつを傷つけた魔獣だ。この街以外の場所でそれが広がっちゃえば、今後ウサギの活動が大きく制限されちゃう…」
「…私が魔獣って事は事実ではあるから、そこは特には気にしてないけど…?」
「ウサギは危害を加えてないし、それにウサギの悪評が広がったらこの国の問題でもあるの。」
「…とは言え、まさかあんな転生者がいるなんて…」
「そのことなんだけど………ウサギ、念のため【沈黙空間】を展開して。私とウサギがギリギリ入るくらいの範囲で良いから。」
彼のスキルが他の人に作用すると分かった手前、通行人も少し怖いというのは分かる。
私は【沈黙空間】を私とルカが入る小規模で発動した。
「…ロックは転生者、これは間違いない。【天啓眼】でしっかり【強欲な殺戮】【ステータス開示】が見えたから。でもあいつはこのデスゲームのことを分かっていない…というか多分、知らない。」
「どういうこと?」
「あいつには【強欲な殺戮】【ステータス開示】そして【記憶改変】以外のスキルが無かった。」
ルカは彼のスキルを思い出すように話し続ける。
「考えてもみてよ。【記憶改変】だよ?自分に対して必ず無防備にさせるスキルでこんなほとんど洗脳みたいなスキル。【強欲な殺戮】との相性は最高に良いはずでしょ?」
確かに…
完全な操り人形にするわけでは無いとは言えロックへの警戒心が限りなくなくなると言っても過言では無い。
それに恐らく私にも触れてきているのを見るに、魔獣に対しても有効なのだろう。
それか、そもそも魔獣に有効かどうかを私で試していたか。
「自分が危険になったらすぐ仲間を呼ぶスタイルだし、冒険者とは言いつつ後衛での指揮系しかやったこと無いんじゃ無いのかな…」
「確かに…意思を持って殺せば魔獣相手でもスキルは獲得できるから…」
「それにあいつは転生者は特別な能力を持ってるって事しか知らなかった。それは多分、魔人族として転生したからだと思う。私やカワサキみたいにチュートリアルを受けられる種族じゃ無かった。でも私みたいに周りから【強欲な殺戮】のことを教えて貰えてないし、カワサキみたいに何かしらのきっかけで自分から気づくことも無かった。チュートリアルを受けなかった転生者の本来のスタートラインなんだよ。」
確かにロックは自分のスキルを『生存に直結する便利なスキル』と言っていた。
組み合わせ次第であらゆる戦略の中枢に出来るスキルに対するような評価じゃ無い。
「それでも、ここがデスゲームだって事を言ってたのは…」
「多分前世で最後に私たちが聞いた、ディレクターの言葉だけは覚えているから。」
最後の一人になるまで生き残る。
それを覚えていたからこその彼の戦い方か…
でもその戦い方だと【強欲な殺戮】との相性は悪い。
だから今ロックは何もスキルを持っていなかったのか。
「……ここであいつを放っておくとデスゲーム的にもかなりの脅威になる。」
「うん………」
私たちは言葉に詰まる。
ロックを放置するわけにはいかない。
国の外で私のことを吹聴して回られたら、今後のこの国の外交にも関わる。
デスゲームとしても、もし彼が【強欲な殺戮】のシステムに気づけば、彼は私の知る限り最も簡単に他者からスキルを奪うことができる転生者だ。
強さや技術と言った指標であれば私やカワサキの方が強いのかも知れない。
でも【記憶改変】はそういった強さとは別軸の強さだ。
拘束もリスクが大きい。監視が触れられればアウト。
じゃあどうするか。
決断しなければいけなかった。
「……この世界にいる以上、いつかは絶対に起きるとは思ってたことだ。」
「………本当にやるしか無いのかな…?」
「これはそういうシステムなんだよ…でなきゃ、危ないのは私たちだ…」
「でも、ウサギ………」
「ロックを、殺そう。」




