9-6 感触
「ウサギ!!!今すぐそいつから離れて!!!!!!」
ルカは叫ぶと同時に風魔法を発動する。
私ごと巻き込むように、無理やり魔法を放つ。
魔法耐性の影響で今くらいの威力じゃ私にはダメージは無いが、ロックは腕や指の皮が切られて思わずたじろいだ。
その拍子に彼の手が私から離れた。
私は状況を理解できないままルカの足元まで跳躍して撤退する。
「ルカ!?どういうこと...?」
「危なかった...マジに危なかった...!!!」
「だからどういう...!」
「あいつは...冒険者ロックは転生者だ...!!【強欲な殺戮】を持ってる...!!」
「な...!?」
驚きを隠せず、思わずロックを見る。
魔法に驚いているのか、痛みが大きいのか、軽く出血している右手を押さえてこちらを見たまま動かない。
「あいつのスキルは...【記憶改変】」
ルカが続ける。
それは恐らく【天啓眼】で見たロックのスキルだ。
「スキルが発動した相手に『ロックが最も大切な存在だという記憶を埋め込む』そうでしょう?」
彼女の問いかけにロックはにやりと笑う。
その笑みは今までのような好青年の笑いではない。
無邪気でどす黒い、欲望に満ちた笑みだった。
「へぇ...?どういうからくりだ?俺のスキルを言い当てた...それに転生者......そうか、お前も川越の人間か。」
不敵な笑みを浮かべて、彼はケタケタと声を上げて笑う。
「ハッハッハッ!!初めてだぜ、同じ転生者に会えたのは!!やっぱり転生者は特別な能力を貰えるんだな!!でなきゃ俺の能力が見抜かれるわけがねえ!」
なるほど…
下手な洗脳より自我が残っている分よっぽどたちが悪いな…
自分の1番大切な存在になるってことは、それはつまり親兄弟や家族と同義の存在価値になるってことだ。
攻撃なんて出来るはずがない。
「ルカ、発動条件は?それが分かればスキルなりで対策が…」
「…今の私たちにスキルで対策はできないよ…触れ続けられないように気をつけるしかない…」
「どういうこと?」
冷や汗を垂らしながら、ルカはロックから視線を外さずに告げる。
「発動条件は『右手で30秒触れ続けること』多分、そのスキルが発動し切るまでは何の兆候もないんだろうね。だって今、現にウサギが右手で触られてたから……!!」
「…!!」
ぞっとした。
あと何秒だった…?
あと何秒で、私の価値基準が上書きされていた…?
ヘビ子や森の皆、ルカ達を差し置いて、この男のことを自分が一番大切だと思ってしまう寸前だった事実に、思わず心拍数が跳ね上がる。
「おいおいおい…全部分かっちまうのかよ。どういうスキルだ?お姫様。」
「言うわけないでしょ?転生者同士で。」
「そうかよ。つまりお前のスキルは俺みたいに生存力に直結する感じのスキルじゃないんだな。残念だな?俺みたいな便利なスキルだったら生き残るのも楽だったのに!」
話している間もロックは焦ったり、防御系のスキルを発動している素振りは見えない。
気づかれないようにルカの方を見ると、彼女の目が金色に輝いている。【天啓眼】を再び発動しているんだ。
「……ウサギ、改めてだけど絶対にアイツに近づかないでね。」
「分かってる。とは言っても、接近される手段が何かあるんじゃないの。」
「そこは大丈夫。あとで説明するから、今は私を信じて。」
「...?了解。」
何か妙な言い方だな。
「とりあえず、死にたくねえからこっちも対策させてもらうな。」
何か来るのか...?
距離を詰めてくる系のスキルか、それともこちらを拘束するものか?
相手が魔人族なら【獣の咆哮】がある程度有効なはず。
だがそのスキルはルカも巻き込んでしまう。
防御のスキルをかける間に先手を取られる...!
今出来るこちらの対応は、防御スキルを重ね掛けるのみ...!!!
「すぅ.........誰かっ!!!助けてくれっ!!!」
「...!?」
予想外の行動に頭が一瞬真っ白になる。
彼の取った対策、それは、大声で助けを求めること。
その声に応じるようにまたたく間に3人の冒険者たちが集まってきた。
「ロック!?どうしたそのケガ!!」
「聖獣に...!!」
「なんてこと...!!やっぱり魔獣は魔獣なのね!!」
武器を構え、魔法陣を展開する冒険者たち。
否定しようとしたが躊躇した。
今の彼らは恐らくロックのスキルで『一番大事な人が傷つけられた』という情報が優先的に入ってくる。
ここで言い訳してもこじれるだけだ...!!
「...ッ!ウサギ!!一旦撤退しよう!私に掴まって!!」
私は返事をするかわりに飛び上がりルカの腕に収まる。
一瞬ロックを見ると彼は冒険者たちの後ろでにやりと笑っていた。
「【宝玉の転移門】!!」




