6-4 邂逅
「...やあ。元気にしてたか?」
「......何が目的なの?」
「何だよ、学校の生徒を心配しちゃいけないってのか?」
「心配するにしては随分念入りじゃん。本当に心配なんだったら晩餐会の会場で声をかければいいでしょ?」
「そうもいかない理由があるんだよ。だってそうだろ?俺達川越高校の転生者たちには【強欲な殺戮】がある。」
不幸中の不幸、最悪の中の最悪、一縷の望みすらない展開。
となると彼は人間ではない...?
だとしたらなぜ人の姿を、前世の彼の姿をしているんだ?
「会長...あんたは一体何の種族なの?ずいぶん人の真似が上手みたいだけど。」
「人の真似?何だそれ。」
彼はふっと微笑む。
殺意のなさそうな、人懐っこい笑みが逆に不気味だった。
「言っただろ?こっちで俺は辺境貴族の一人息子に記憶を上書きされた。少なくとも人間だよ。」
「私たち人間はディレクターのチュートリアルを受けられない。ウサギみたいなスタートが弱い種族じゃないと【強欲な殺戮】の発動条件にも気付けない...誰からそのスキルのことを教えてもらったの?」
「自分だよ?」
「...!?」
今、なんて言った?
自分?自分で?
「自力で...スキルの発動方法に気づいたの...!?」
「そうだよ。転生のおかげで三歳くらいから意識は十七歳の俺だったからね。いろいろ試す時間もあった。しかしそうか、ランダムな種族...昆虫や鳥獣に転生すればアイツから説明を受けられるのか。」
彼はなるほどと言った表情で私とルカの話を聞いていた。
「...ねぇ、君たちのスキル、何だった?」
「...【強欲な殺戮】の事を知ってるんでしょ?それに自力でたどり着いた人が、効率的なスキルの増やし方を知らないはずがない...」
「それもそうか。スキルを持っている相手を殺す、これが条件なのだとしたら転生者を殺すことが一番強くなるために近道だし、なによりアイツが言っていた『最後の一人まで生き延びる』という情報がそのままデスゲームっていうジャンルに落とし込めるもんな。」
「そこまで分かってるんなら…!」
「じゃあ先に情報アドバンテージをあげよう。俺の転生時に貰ったスキルは【無限魔力】だ。メリットは文字通り魔力を無限に扱えること。デメリットは自分がスキルで覚えている魔法しか使えないし、威力もスキルに準ずること。容量無限の貯水タンクって感じさ。」
この説明で会長のこの余裕に納得がいった。
「…なるほどね…その無限の魔力を使って感知妨害系のスキルを張り巡らせてたわけだ。」
「ああ、やっぱり何か感知系のスキルを使ってたんだな。用心して置いて正解だった。でも残念。そのスキルを張ったのは俺じゃなくて俺の騎士団だ。」
「騎士団…ずいぶん優秀な人たちなんだね。もうほとんど効果なくなっちゃったから言うけど、使ってたスキルは私の【天啓眼】目で見た相手のスキルを確認できる王族のスキル…ユニークジャンルだよ。」
「そりゃそうさ。だってこっちもユニークジャンル、転生特典の【極致認識阻害】を使ってるんだから。」
「は…?」
「転生者が俺一人なんて言ってないだろ?そっちだって転生者同士でつるんでるんだし。こっちだって転生者同士で協力するのが一番生存率が上げられるからね。」
「転生者、同士……?」
訳が分からない。
「転生騎士団連れてきた団員二十数人が全員転生者だ。種族はバラバラだけどね。この世界は向こうの英語に近い発音がスキルとして定着してるから、転生をそのまま名乗っても違和感は無いって事。」
つまりあの使者の護衛が全員。
あの参列者の二割を占める人数が転生者ということか?
あの瞬間、感知スキルの使えないあの状況で私たちは二十人以上の転生者に見られていたのか?
「安心してくれ。多分俺以外のやつで君達が転生者だって事に気づいてるヤツは少ない。疑ってるヤツは何人かいるかもだけどな。」
つまり今私たちはこの男に守られているかもしれない、と。
先ほどバルコニーの窓を閉めたとき何かのスキルを使っているように見えたのも気のせいじゃ無かったって事だ。
「…何でそんなことするの?お仲間全員で一斉に襲い掛かれば、聖獣と王族のスキルが手に入るのに。」
「だから言ったろ。そんな気は無いって。今ここで君らに襲い掛かればそれは即帝国と王国の戦争を意味する。そんなリスク背負ってまでスキルを獲得するメリットはまだ無いからね。」
まだ、か。
「現時点、あくまでこの場ではフェアでいようぜって事だよ。俺だってスキルの詳細話すのは普通にリスクってのは分かってるんだぜ?な?」
まるでやり忘れていた宿題を写させてくれ、とでも頼むかのようにこちらの情報を聞き出そうとしてくる。
彼も警戒してないわけじゃない。
見逃しはしないその左腕。
袖の陰に隠れた腕に刻まれている押印式の簡易魔法陣。
使い捨てでしか出せないだろうが、予備動作無しでかなりの威力の魔法を放てるはずだ。
「………【動物言語理解】初めはそれだった。今はいくつかのスキルと統合進化して【思念共有】になってる。メリットは知能のある生き物となら言語関係なく話せること。デメリットはそれ以外の効果が全くないこと。」
「ウサギ!?」
「少なくとも今は会長に敵対する理由は無い。情報を渡す代わりにこの場を収めて貰えるなら、そっちの方が利点が大きいって。」
「…随分達観してるな。自分でそんな気は無いって言った手前だけど、ぶっちゃけ五分五分な話だと自分でも思ってるぜ?」
「こちとら転生した瞬間から油断したら即死の環境だったんでね。生存戦略を臨機応変に変えるのは慣れてるの。」
「へえ……使用制限は?」
会長の質問が始まる。
まるで生徒総会のようだ。
だったら、そっちもその気なんだよね?
「相手に本能以上の知能があれば制限は無い…貯蔵魔力の上限は?」
会長が一瞬目を見開いたがすぐにまた笑顔に戻るとなんてこと無いように返した。
「無いよ、マジモンの無限。聞こえる言語は何語?」
「相手の言葉や鳴き声の意味が分かるだけで実際に言葉を喋るわけじゃ無い。一撃の使用制限は?」
「持ってるスキル次第じゃ普段使いのロウソクから国家規模の爆弾レベルまで…まあそんな威力まだ持ってないけど。こっちに話すときの言語は?」
「相手によって変わる。今も別に私は日本語で話そうとはしてない、そっちが日本語を分かってるから日本語に聞こえてるだけ。進化してそれ?」
「最初からこれ。あとは………うん、もうこっちは十分かな。」
質疑応答は案外あっさりと終了した。
「もう良いの?森での便利な使い方とかも教えてあげようと思ったのに。命乞いってコツがいるんだよ?」
「それは実に興味深いけど、今の俺じゃもう必要無いかな。」
「あっそ。さっすが英雄様。」
「さてと、次は王女様かな?」
「………嫌ですわカワサキ様ったら、何を勘違いしていらっしゃるの?」
その言葉遣いは、彼女の前世のものでは無い。
言葉もわざとこちらの言語に戻している。
これは、彼女なりの、王女ルカ・ロムとしての挑戦状だった。




