1-2 チュートリアル
「ですからぁ~、その虫を殺してくださいぃ~。」
…いや、私虫はちょっと苦手っていうか。
「何言ってるんですかぁ~。あなたもうウサギなんですよぉ~?そんなこと言ってたら普通に生活するのだって怪しいですよぉ~?」
だ、大体、なんで急に虫なんか殺さなきゃいけないの…?
「ですからぁ~、チュートリアルなんですってぇ~。もうほとんど死んでるんですからさっさと止め差してくださいよぉ~。」
足下に転がっている蝶はまだ弱々しく羽を動かしている。
完全には死んでいないが、もう飛ぶ事は出来なさそうだった。
私は出来るだけ顔を反らしながら、短い爪の先でその蝶の頭を潰した。
ぷち。という嫌な音が爪を伝ってくる。
【意思介入を含む絶命を確認 強欲な殺戮発動 スキルを移行】
…!?
何も聞こえてはいない。
でも確かに頭の中に文字が浮かぶ。
絶命を確認…それにスキルがどうとかって…
【移行対象 ブラウンバタフライ】
【識別名 無し】
【獲得スキル 飛行】
【獲得スキル 鱗粉】
【獲得スキル 花粉集め】
次々と脳内に流れてくる情報。
それらに慌てているとディレクターがご機嫌に体を左右にゆらしていた。
「はぁ~い。無事スキルの獲得に成功しましたねぇ~。成熟個体だったんですかねぇ~、飛行を獲得できるなんてラッキーでしたねぇ~。」
いや、全然、全く、これっぽっちも理解できなかったんですけど!?
「質問は最後にまとめて受け付けますねぇ~。では続いて、頭の中で【ステータス開示】と念じてくださいぃ~。」
次から次に説明が進んでいく。
何でこの人…人なのか?これの説明でなんで全部理解した感じになってたんだよ生徒会長は…
ってか何だよ、ステータス開示って。
【ステータス開示】
また何か来た!?
今度は何さ!?
頭の中で念じるってこんなラフに思い浮かべるだけで良いの…?
【強欲な殺戮】
【ステータス開示】
【動物言語理解】
【飛行 レベル1】
【鱗粉 レベル1】
【花粉集め レベル1】
先ほどまでとは違って情報が流れてくると言うよりは、本や文字を黙読しているような感覚で情報が入ってくる。
「見えてますかぁ~?それが今、あなたのステータス、持っているスキル達ですぅ~。」
スキル…ってかステータスって攻撃力、とか魔法力みたいなやつが数字になってるヤツじゃ無いんだ。
「そういった数字を表のデータにするのはリソースが足りなくてぇ~。結構スキルのシステム組むの大変なんですよぉ~?」
じゃあ良くある魔力とかそういうのは存在しない感じ?
「実際に数値としては存在しますよぉ~。魔力から筋力、走力、耐久力、睡眠力…」
…睡眠力って何…?
「数値が高ければより質の高い睡眠をとれますぅ~。」
短い睡眠でも平気な人とかのあれか。
「そんな感じですぅ~。数字として表に出すのが難しいってだけで、この世界には全てのモノに数値がありますよぉ~。」
なるほど。
で、そんな人手不足の中でもこのスキルだけはデータとして表示出来るようになったと。
「ワンオペでしたぁ~。そんな私の自信作【ステータス開示】とスキル【強欲な殺戮】について、スキルそのものも含めて説明しますねぇ~。」
・スキルとは―
ちょっと待った!!!
「ほえぇ~?」
またあの脳内直筆箇条書き説明…?
「その方が楽じゃ無いですかぁ~?」
いや、楽…ではあるんだろうけど…!
ちょっと気味が悪いというか…
「ウサギの体で人間の思考力って時点で十分気味が悪いと思いますけどぉ~。」
それはあんたがウサギに転生させたからだろ!?
「ん~、分かりましたぁ~。では私の言葉で説明しますねぇ~。」
そうしてくれると助かるよ…
意外と話は聞いてくれるんだ…
「かくいう私も久しぶりに知能のある種族とお話しできて楽しいんですよぉ~。このゲームを考案するのに〇△□●▲■年掛かりましたからぁ~。」
…ご、ごめん何だって?
「あ、ごめんなさいぃ~。この言語多分、人間の知能次元だと処理できない言語ですぅ~。え~っとぉ~、太陽がまだ形を持ってなかったときからぐらいですかねぇ~。」
…一気に訳わかんないスケールになりそうだから、説明をお願いします。
「はぁ~い。ではまず始めに、スキルについて説明しますねぇ~。」
そこはなんとなく分かってるかも。
多分今もこうして脳裏にずっと見えてる、飛行、とか花粉集め、とかのやつでしょ?
「その通りですぅ~。この世界で唯一、数値を言語化させたモノ。それがスキルですぅ~。」
数値を言語化…ってことは例えば、岩を歯で砕けるようになったら【屈強な歯】みたいなスキルが手に入るって事?
「ん~、惜しいところではありますが厳密には違いますぅ~。まず【屈強な歯】の元となる生物的構造が無い生き物がどれだけトレーニングしても【屈強な歯】は手に入りません~。【屈強な歯】がある生物が鍛え上げることで手に入るのは【屈強な歯】のレベル上昇ですぅ~。」
そもそもの鍛えた数字を入れる場所が無いと鍛えても全くの無駄って事?
「おぉ~!良いですねその説明ぃ~。次の人への説明はそれにしますぅ~。」
…っていうか【屈強な歯】って本当にあるスキルなんだ…
「ありますよぉ~。レベルを上げると歯が折れなくなりますぅ~。」
いらな…くも、無いのか…?
また絶妙なラインだね…
ん?
でも、私今【飛行】のスキル持ってるよね?
この世界ってウサギが空飛べるの?
「残念ながら、この世界でもウサギは飛べません~。ウサギとしての記憶の中に大空を飛んでる映像は無かったですよねぇ~。でも、そこがミソですぅ~。それはあなたが種族として、生き物として手に入れたスキルでは無く【強欲な殺戮】経由で手に入れたスキルだから手に入っているんですぅ~。」
じ、じゃあ、私今空飛べるの…?
「飛べませんよぉ~。」
何でじゃい!!
じゃあこのスキルって何なんだよ!!!
「あくまで今は飛べませんってだけですぅ~。ここで重要なのはレベル。スキルと一緒に何か数字がありませんかぁ~?」
数字…このレベルってやつ?
確かにレベル1ってあるけど。
「今のあなたは飛行をするための器があるってだけの状態ですぅ~。そこから経験を重ねて、スキルのレベルが上がっていくと飛べるようになりますよぉ~。今はせいぜい落下速度を気持ち落とすくらいですかねぇ~。そのうちレベルが上がれば滑空、離陸、頑張れば空中で留まる事だって出来るようになりますよぉ~。」
なるほど。
でもさ、生物的構造がないとスキルは手に入らないんでしょ?
「【強欲な殺戮】で手に入れたスキルはレベル1のスキルとなって保有できますぅ~。そして、一度保有したスキルは最初から保有していたのと同じように体に刻み込まれますぅ~。つまり、スキルを種族や能力の制限を超えて獲得できる、それが【強欲な殺戮】ですぅ~。」
えーっと、つまり、それはもう全く別の生き物になるのでは?
「はいぃ~。まあウサギのままではありますがぁ~、毒を手に入れれば毒を放出できるウサギに、水中呼吸を手に入れれば毒を放出出来て水中で呼吸ができるウサギに、跳躍を手に入れれば毒を放出出来て水中で呼吸ができて高く跳躍できるウサギになれますぅ~。」
それはウサギの姿をしたカエルでは…?
でも良く分かった。つまりはその【強欲な殺戮】ってスキルを使えば、生き残る確率が上がるって事だね。
「ご理解早くて助かりますぅ~。そこで手に入れたスキルを確認するためのもう一つのスキルが【ステータス開示】になりますぅ~。今所持しているスキルを確認する際にお使いくださいぃ~。」
暗記しろとかじゃなくて助かった。
暗記科目はちょっと苦手だったから…
えーと、じゃあ今の私のスキルは…
【強欲な殺戮】
【ステータス開示】
これは今説明があったスキル達だね。
【飛行 レベル1】
夢のあるスキル。
【鱗粉 レベル1】
私、ウサギ。
【花粉集め レベル1】
私、ウサギ、パート2
今の私はどうやら『ちょっとゆっくり落ちられる粉っぽいウサギ』
相変わらず雑魚じゃねえか!!!
「二つの基礎スキルとは別に転生者の皆さんには【ユニークジャンル】っていうレベルの概念がない強力なスキルを一人一種類付与してますよぉ~。」
な、なるほど!
それがこの最後の【動物言語理解】か!
これはどういうスキルなの?
「スキルの詳細もステータス開示で見られますよぉ~。知りたいスキルにちょこっと意識を向けてくださいぃ~。」
知りたいスキルに、ちょこっと意識を…
【動物言語理解】
所有生物と異なる生物の言語が理解できる。ただし、コミュニケーションを取れる種族以外の言語は本能的なものしか聞き取れない。
つまり?
「肉食動物とか知能のある生き物と会話ができますよぉ~。」
命乞いしろってか!?
「ちょっと粉っぽくてあんまりおいしくないウサギなんで食べないでもらっていいですか?」
ってことか!?
これはもういよいよ強いスキルをどんどん手に入れないと生存することすら危ういぞ…
ねえ、このスキルを手に入れる条件って何なの?
さっきの蝶からはどうやってスキルをもらったの?
「スキルを手に入れる条件はぁ~、そのスキルを持った生物を殺すことですぅ~。」




