1-1 チュートリアル
次に目を覚ましたとき、私の目の前にあるのは地面と草花だった。
やたらと地面からの距離が近い。起き上がろうと手足に力を入れるが、目一杯力を込めても視界が持ち上がることがない。
まずい、体が言うことを聞いていないのか?
だが、前に進もうと思えばぎこちなくだが体が動く。
まだあまり深い思考は出来ないが、私の最後の記憶をたどるにここはディレクターに転生させられた先の異世界で間違いないだろう。
そう、最後の記憶を辿って…
辿って…
辿った…
辿ったよ。確かに。
辿った結果、何でか知らないけど、私の記憶にあるのは地面に転がる木の実をかじったり、洞穴の中を母親と一緒に潜ったり、そんな記憶。
そんなおよそ人としてあり得ない記憶が女子高生であった私の記憶の後ろ側にコピペで貼り付けられたかのようにひっついている。
女子高生の記憶からシームレスに、記憶の中の私は「ウサギ」になっていた。
「…っすぅー……」
小さな頭で天を仰ぐ。
何かの間違いかも知れないからね。一旦、ディレクターが提示したルールを思い出す。
・転生先ではランダムな種族の幼体に転生する
・ある程度の成長を遂げたタイミングでこちらの記憶を転生先の肉体に追加で上書きする
この2つが確かなら、私は今『人以外の種族のウサギに転生し、ある程度の成長を遂げて記憶が元の世界の私に上書きされた』状態なのだろう。
それを私の中で決定づけるように、十七年女子高生として生きた記憶の後に、約半年ほどのウサギとしてのセカンドライフの記憶が鮮明に思い出せる。
どの記憶も大概が木の実をかじるか、雑草をかじるか、肉食の獣から隠れるかの記憶しか無いけど…
…あまりにも被捕食者。
…終わったじゃん!
これ、生き残る以前に人間に寿命で勝てないじゃん!!
そういうゲームバランスは調整しとけよディレクター!!!
「はぁ~い。調整に来ましたよぉ~。」
うわぁあああ!!?
「何ですかぁ~?化け物でも見たような顔して…あ、表情筋無い種族でしたねぇ~。」
いや、普通に化け物みたいな見た目してるだろ、急に現れないでよ…ディレクターだっけ?
「はぁ~い。皆のディレクターさんですよぉ~。」
いや、声以外全然可愛くない…っていうか今私ウサギだよね?
人間みたいにしゃべれる声帯も無いのにどうやってアンタと会話してんの?
「進行の私が皆さんと意思疎通とれないのはまずいですからねぇ~。頭の中のあなたの人格に直接話しかけてるんですよぉ~。」
ああ、もうそれくらいじゃ驚かない…というか驚けない…
実際に今こうして異世界転生してるって事は、他の人たちも転生してるんだよね?
「そうなんですよぉ~。デバッグもテクリハも完璧だったのに、やっぱり本番の悪魔っているものなんですねぇ~。」
や、やっぱり!?
じゃあ私がこんな種族なのも何かのミスで…!
「あ、それは仕様ですぅ~。厳正なる審査と抽選の結果、あなたはこの世界で【ネザーランドウサギ】と呼ばれる愛玩動物ですぅ~。」
……左様ですか。
ネザーランドウサギね…森にいるって事はつまりただの野ウサギって事ね!!!
「と言うわけで野ウサギさんにチュートリアルを行いますねぇ~。」
…ずいぶん手厚いサポートだね?
500人全員にこのサポートとは恐れ入るよ。
「いいえ~。チュートリアルを行うのは特定の種族だけですよぉ~。」
特定の種族?
それに私が選ばれたって事?
それって私からしたらめっちゃラッキーだけど、他の人からしたらかなり不公平じゃ無い?
「…大丈夫ですよぉ~。それに至っては完全に私の落ち度なのでぇ~。」
落ち度…?
「あなたを含む転生した523人のうち、既に48人が死亡しましたぁ~。」
…嘘でしょ?
「本当ですぅ~。全員がこの世界に転生して約半年、あなたのような弱小種族に転生した人、微生物や昆虫などと言った極端に短い寿命の種族に転生した人、人間の様な種族に転生しても戦火や外的要因によって死んだ人。要因は様々ありますが、多かったのは弱すぎる種族に転生したことで、すぐに死んでしまうことでしたぁ~。」
半年でほとんど二クラス分が死んだって…
誰が死んだとかは教えて貰えないの?
「それはゲームの進行に関係ないのでぇ~。私が今から行うチュートリアルは、一定以下の生存率の生物に行う、少しでも生存確率を上げることでゲームのバランスを整える、アップデートの様なものですぅ~。」
アップデート…
まあ、受け取れる情報は持っておくに越したことは無いだろうから。
「はぁい、では早速………」
ディレクターはそう言うと、彼女の横をひらりとかすめて飛んでいた蝶を手のような形をした砂嵐の一部ではたき落とした。
「はい、それ殺してくださいぃ~。」
………え?




