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ウサギが異世界デスゲームをクリアする方法  作者: 山田野オロチ
聖獣マルルウサギ奉迎記念大晩餐会

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5-3 人と魔獣の境界線

「だぁぁぁぁ...しんっどかったぁぁぁ...!!」


私は小さな手足をだらんと伸ばしてルカのベッドのうえに横たわる。

世間の目も無くなり、念のため弱めの結界も部屋に張った。

今ここにいるのは互いに前世のことを知っているルカだけだ。

それにしても、なんという心地のいい布団だろうか。

前世でもこんなにふかふかな布団は経験したことがない。

毎日これで寝てるの?羨ましい...


「お疲れ様。はい、お茶。緑茶に近い味のやつ仕入れといたよ。」

「助かる...ねえ、なんでルカは疲れてないの?やっぱ王族だからああいうのに慣れてるって感じ?」

「だねー。伊達に8年王族やってないよ。」

「私は何年あっても獣慣れは出来なかったのに、すごいなぁ...さすがオタク。」

「事前知識はバッチリだからね。」

「異世界転生の?」

「それもう定番。最近の流行りは悪役令嬢だよ。」

「それだとルカも悪役にならない?」


差し出されたお茶に口をつけ、部屋を見渡す。

おとぎ話のプリンセスのような部屋だ。

広さもそうだが、家具の装飾一つ一つが非常に丁寧。

絢爛豪華なのに決して騒がしくない、むしろ何処か落ち着いているような部屋だった。


「さてさて。つもる話も山々だけど、改めておさらいしとこうか!」


彼女はベッドの上に自分の背丈よりも大きな地図を広げる。

私は寝転がったままそれを横目で見て、目を閉じた。


「...もう少しお姫様気分でいさせて。」

「女の子は誰だってお姫様だよ。ほら起きて。」


そういう事じゃない。

野生じゃ味わえないこの感覚にもう少しだけでも浸っていたいんだ...

ああ止めて。抱えて膝に置かないで。


「今回のウサギの歓迎会...正式名称を聖獣マルルウサギ奉迎記念大晩餐会何だけど...」

「手紙でも思ってたけど、随分と仰々しい名前になったよね...」

「それだけこの国にとって影響の大きい事案だったからね。もちろんロム王国だけじゃない。周辺諸国や集落にとっても大きな意味を持つんだよ。」


ルカが地図に指を置く。

そこはロム王国から見てマルル大森林の向こう側。

帝国と呼ばれる国だ。


「特にファディオス帝国からして見れば、長年陸路への領土拡大を阻んできたマルル大森林。そこを治める聖獣の一角と長いこと小競り合いをしてきた国が手を組んだって状況なんだから絶対に見過ごせない。今回も招待は送ってるみたいだけど、表向きと本当の目的は違うだろうね。ウサギがどれだけ強いのか、聖獣に認められた王女の様子見、あわよくば自分たちも聖獣と懇意になりたい...他にも...何?」

「いや、急に真面目になるじゃんって...」

「あんたも真面目にならなきゃいけないの!今回の聖獣マルルウサギ奉迎記念...ウサギ歓迎会はロム王国の今後を左右するんだから!」


仰々しくは無くなったけど、一気に幼稚園みたいになったなウサギ歓迎会...


「最近では『英雄』なんて呼ばれる魔道士も帝国に現れて...正直私は警戒してる。」

「英雄、か。確かに転生者の可能性は高いね。もらったスキルによってはそんな風に呼ばれてもおかしくない。」

「そうだよね。似たような呼び名だと、ロスフェルマ王国の『剣豪元帥』がいる。でもこっちは文献で見る限りじゃ三十年以上前からの通り名だから、転生者って線は薄そうかな。」

「普通にこの世界で生まれて育った、普通に強い人って感じか。」

「普通に強い、なんてもんじゃないよ。ロスフェルマは長年ゼレクロム連合国と戦争が続いてるじゃない?」


…ごめん。そんな「当たり前だけど」みたいなノリで話されても困る。

こちとら八年も森の中で生活してたんだ。人間のトレンドや情勢なんて分からない...


「えっと、ごめん。私人間社会の情勢ほとんど知らないや。」

「あ、そっか。」

「っていうか逆にルカは良くそんなに情勢に詳しいよね?」

「一応外面は第一王女だからねぇ。最低限周辺諸国の情勢と要人、さらに国家間の関係値くらいは頭に入ってるよ。」


前世では同じ日本人のはずなのに、転生先の生まれの違いでここまで教養と知識に差が出るのか...

彼女は地図上でロム王国の少し北を指差す。


「ロム王国の北の先にロスフェルマ王国っていう世界最大級の国土を持つ国があるの。そこは北東のゼレクロム連合国と領土と資源を巡って対立してるんだ。」

「長年ってどれくらい?」

「少なくとも私達がこっちに転生する前から。これだけ長く続けば実質前線もなあなあで戦争してるところはあると思う。でも北方は山脈より南と違って資源に限りがあるから、お互いに引っ込みがつかなくなってるんじゃないかな。」

「で、今回はロスフェルマの使者が来るから、ゼレクロムは呼べないと。」

「一応義理として声は掛けたみたいなんだけどね。向こうから断っちゃったみたい。」


それは、ロスフェルマだけじゃない。

今回の会に列席する周辺諸国からしてもかなり印象が悪いだろう。

戦争の長期化が国家の頭脳までも疲弊させてるんじゃないだろうか。


「...で、そのロスフェルマの剣豪が強いってことだよね?」

「そう。剣豪元帥レヴィ・アラモス。元帥でありながら王国の首席外交官も務めてるみたい。まあ、彼女ほど強い外交官なら護衛の人員も省けるってことだと思うし、何より外交という場で自国の強大さを暗に誇示できる。理にかなった人選だよね。」

「彼女...ってことは女性?女性が元帥なんだ。」

「王国始まって以来初の女性元帥なんだって。でも歴代で一番強くて、歴代で一番人を殺さないって噂。」

「つまり、どういうこと?」

「これ以上は会って話さないと分かんないなぁ。優しい人、ってことで一旦仮定しとこうよ。」


さすがに会ったことのない人の性格までは分からないか。


「明確に警戒しなきゃいけない国はその2つかなぁ。あとは基本的にうちの友好国だし...強いて言うなら...ここと、あとはここかな。」


ルカが次に示すのはロム王国の北東、マルル大森林の北西に位置する場所と森林北方の山脈の先にある...

これは、国?なのか?


「...ごめん。人間の字読めない...何国?」

「...そっちもか...リウス聖国とラキオン大樹。聖国は国だけどラキオン大樹はエルフの主要集落って感じ。」

「おー...エルフはさすがに私でも知ってるよ。ファンタジーの定番種族だね。」

「多分その知識まんまの認識で大丈夫だよ。長命で魔法技術に特化してる。」

「イメージ通りだ。なんでなんだろうね。」

「んー、元々魔力のキャパが大きい種族っていうのと長命だから魔力や魔法に関する知識の積み重ねが人間よりも大きいんじゃないかな。人間が世代を超えて行う百年の研究も、エルフなら一世代で一人が出来ちゃうから。」

「なるほどねぇ。もう一個のリウス聖国は?」

「神人類の加護を受けてる...らしい国。」

「...それだけ?」

「謎は多いけど、お父様のお父様の代からの友好国ではあるから安心して!」


こうしてみると当たり前だがマルル大森林の外にも世界は広がっているんだと実感する。

ヘビ子に外の世界を経験させる、なんて偉そうなこと言ってたけど、私だって森の外は経験したことがない。

ルカやロム王国が、私たち森の生き物の価値観を広げてくれるかも知れない。

ウサギ歓迎会まで聞けることは可能な限り聞いておこう。

あくまで私は招かれた側だが、それはそれとして聖獣として諸国にちゃんとした姿は見せておきたい。


「...ルカ。今からのつけ焼き刃で、ウサギの身体でも実践可能な晩餐会でのマナーを全部教えて!」

「ど、どうしたの?招待されたのはウサギだし、誰も魔獣にマナーがどうのなんて言わないと思うけど...」

「だったらその印象をまず払拭しなきゃ。魔獣だってちゃんとできる、人間と分かり合える種族もいるってことを伝えないと。」


ルカは目を丸くしていたが、すぐにふっと笑うと立ち上がった。


「了解。それじゃあ明日までに私の知ってる社交の場でのマナーを教えるね。ウサギの身体でも出来るようなってところがネックだけど、知ってさえいれば相手の行動の意味も理解できるから!」

「よろしく、先生。」

「それじゃあまずはお辞儀の角度から。お辞儀は相手の自分との身分の違いで使い分けるのが先ず基本ね。」

「...私の身分って何?」

「.........聖獣?は役職じゃないか...ウサギ、だと種族名だし...」

「正確に言うと、私ってどの立場なの?」

「......まずそこから考えよっか。」


そこから夜通しでルカのマナー講座は続いた。

結局人間式のマナーはこの体じゃほとんど実践は難しいということが分かり始めた時には、もう夜明けが近かった。

ウサギ歓迎会当日の朝が来る。


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