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ウサギが異世界デスゲームをクリアする方法  作者: 山田野オロチ
宝玉の転生王女

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負けイベで本気になるタイプ

「い、いきなり何言い出すの…?強くなるってどういう…」

「ひとまず私とルカは殺し合わない、でも他の転生者がルカを狙わないって保証は無い。それにルカの持ってるスキルを転生者に奪われれば、目視しただけで転生者かどうかが分かってしまう可能性がある。」

「た、確かに…」


多分今は私の諸々のスキルが足りなくてウサギのスキルを見ることは出来ない。

でももしウサギと同じくらい強い人が私を殺して【天啓眼】を奪えば、見られただけで転生者とバレてしまう。


「ただ、これには逆のメリットもある。ルカが強くなってくれれば、相手の耐性を貫通して【強欲な殺戮】を見つける事が出来る。そのまま相手が気づかなければ必要の無い同郷同士の争いを避けることだって出来るよ。」


なるほど…つまりは私自身が爆弾でありソナー。

それをちゃんと選択肢にするためには強さが必要って事か。


「いいね、私修行編もきちんと飛ばさず読むタイプだからそういうの、大好き!」

「あ、修行編は無いよ。大体三十秒くらいで終わるから。」

「………え?」


…え?


「ん?私の【スキル複製】と【能力継承】のスキルである程度人間にも扱えるスキルを渡すんだよ。」

「え…?魔法で岩を打ち砕く特訓は?」

「な、無いよ…?」

「自分の中のもう一人の自分と和解する展開は…?」

「転生先の人格って事…?それもあなただし…」

「師匠が殺された後に師匠の教えに気づいて何気ない日常が特訓だったんだって涙ながらに師匠の技を放つ熱い展開は…?」

「そんな非効率的なことするわけ無い…っていうかその展開だと死ぬの私じゃん。」

「……修行編、無いの?」

「無い。」

「何十倍もの重力で特訓とか別の星で学ぶとか精神と時の………」

「それはさすがに有名だから私でも分かる。でも無い。」


どうしよう。

効率的なのはゲームとして、生き抜く手段としては滅茶苦茶良いことなんだろうけど…

オタクとしては、憧れが一つ消された感覚だ…寂しい……


「何でそんなに落ち込んでるの…?生き残る手段を手に入れるってだけじゃん…」

「非オタには分かんないよこの寂しさは…」

「何それ…オタクめんどくさ…」

「はぁ…まあいいや、仕方ないもん。で、具体的にはどうやるの?」

「ルカは両手でこの鬼火パサランを握るだけ。私が選別して渡すから。」

「そのふわふわ鬼火パサランって言うの?」


私は膝をついて彼女の魔力供給器官を握る。

確かに微弱だが魔力を帯びている感覚がある。


「握る必要はあるの?何かこういう継承ってスキルが光の粒子になってふわーってのが定番なんだけど。」

「それでも出来なくは無いけど、こっちの演算処理が大変なの。」

「あ、出来るんだ…さすが聖獣、すげーぜ……」

「それと…握るだけで別に揉み込む必要無いからね…?」

「…つい。痛かった?」

「痛くは無いけど、その……」

「………性感帯?」

「…オタクさいてー。始めるよ。」


彼女の鬼火パサランを伝って、掌から強大なエネルギーを感じる。

さっきの【強欲な殺戮】みたいに無理矢理脳がスキルを認識させてくる感じじゃ無い。

アナウンスも無い、肉体に変化も無い。

ただ、体の内側から魔力やエネルギー、色々なものが溢れてくる感覚だけが巡っている。


「……はい。一通り渡したよ。確認してみて。」


本当に数十秒で譲渡は終わった。

肉体に違和感は無いが、いつも使ってる【魔力感知】の精度が跳ね上がっているのでちゃんとスキルは譲渡されているのだろう。

念のためステータス開示で確認する。


…………

【魔法無効 レベル1】【治癒魔法 レベル1】【衝撃無効 レベル1】

【暗視 レベル1】

【感知耐性 レベル1】

【感知妨害 レベル1】【超音波 レベル1】

【嗅覚探知 レベル1】【血流操作 レベル1】【視覚強化 レベル1】 【聴覚強化 レベル1】

【毒物感知 レベル1】【水流感知 レベル1】【空間把握 レベル1】

【精神強化 レベル1】【斬撃耐性 レベル1】【刺突耐性 レベル1】

【状態異常耐性 レベル1】【跳躍強化 レベル1】【痛覚遮断 レベル1】

【魔力強化 レベル1】【魔法属性強化 レベル1】

【遊泳 レベル1】

…………


ウサギには劣るがそれでも7歳の人間が普通に生活していて持つには不可能な量のスキルを獲得していた。


「おー、こりゃたくさんだ…」

「出来るだけ生存力をあげるって方向のスキルを渡したよ。ただ、譲渡の特性上レベルは全部1でユニークジャンルのスキルは進化前になっちゃってるけどね。」

「十分だよ。配布コンテンツはレベリング前提なのは常識だから!」

「よくわかんないけど、分かったよ。」


複数のスキルを手に入れたことで今まで持っていたスキルも相互的に作用しているみたいだ。

多分この感じだと今までスキルとして直接使用していた【炎魔法】や【雷魔法】なんかの魔法も貰った【魔法属性強化】が作用してより使いやすくなってる感じだろう。

…ちょっと試してみる?


「こう…魔力を通して…」

「…ルカ?」

「…んでいつもの放出の感覚で……直前に【魔力強化】で…【魔法属性強化】もくぐらせれば……ほい!!」


魔方陣を省略し威力を落としてちょっと試すくらいのつもりだった。

いつもの癖で魔方陣前提の魔力を放出してしまったのだが、放たれた【水流魔法】は目の前の大木に私の背丈と変わらぬほどの大穴を開けていた。


「おお!すっげ!!」

「………嘘でしょ…?」

「だったら多分これも出来るんじゃ無い!?」


【風魔法】を魔法陣で展開、自身に付与。発生する鎌鼬は周囲にだけ【魔法無効】を展開することで対処。【魔力強化】+【魔法属性強化】+さっき自分で取った【飛行】で……


「おーっ!!!ちょっと浮いた……っていうよりは無限にゆっくり落下し続けてるって感じ?さすがにレベル1の【飛行】じゃ空は飛べんかぁ…」

「……」

「それじゃあ次は…!!」

「ルカ、ちょっとストップ。」

「ああ、ごめん…色んな事試したくなっちゃって…」

「それは、私もそういうとこあるから否定はしない。でもどうしてそんなことが出来るの?」

「そんなことって?」

「【魔法無効】の局所指定もそうだけど、基礎的な魔力や魔法の操作が7歳のレベルじゃ無いの。【風魔法】なんて普通子供なら方向を指定できれば十分でしょう?」

「あー、そういうことか…」


私は魔法を解除して地面に立った。


「この世界ってどんな生き物も生まれた時点で魔力の保有量って決まってるじゃん?」

「まあ、そうだね…私…というか私の種族は魔力を保有できない種族だったから鬼火パサランで直接魔力を放つ感じだけど。」

「魔獣にもそういうのあるんだね。人間だとその傾向が更に高いらしくてさ、貴族とか位の高い人だとどうしてもそういう人同士で結婚しちゃうから、地位が高い人ほど魔力保有量が高くなりがちなんだって。」

「魔力と魔法は特殊なことが無ければ基本才能だとは思ってるけど…」

「私、他の貴族とか偉い人より魔力の保有がしやすい体質みたいなんだよね…それをミルザ…私の魔法教育担当が教えてくれて、それに合わせた訓練を昔からしてくれてたんだ。」

「それって、どんな訓練…?」

「中身は普通に魔力の訓練だよ?魔力を解放するってよりは細かく魔力や魔法を操作する訓練が多かったかなー。意外かもだけど私って割りとがさつでさ。」

「訓練の内容は?」

「私のボケはスルーか……そうだなぁ…手の指10本からそれぞれ別の魔法を同時に展開する訓練とか、魔方陣使っていいから半日魔法を維持し続ける訓練とか、あー水が沸騰しないギリギリの温度の炎を出し続ける訓練、あれはきつかったなぁ…」


思い出したくも無い、あの訓練…

炎とも言えないぬるい温度の魔法を永久に出し続ける苦行…ちょっと油断したら水なんて一気に温度上がっちゃうに決まってんじゃんね。

二度とやりたくない。


「…ミルザって、あの人だよね?部隊にいた女性の…」

「そうそうその人!今回は私の護衛に来てくれたんだ。」

「そうだね。ルカの護衛も納得だよ。あの人の魔力反応が事前に無かったら、私は案内まで全部ヘビ子に任せるつもりだったから。でもそうか。だからか……」

「だから?」

「魔法の操作があまりに自然すぎるんだよ…生まれたときから魔素と魔力に関わってる魔獣でも、あんなに細かい魔力操作はできない。しかもそれを特に何も考えず…前世で言うとあれかな、お箸を日本人が使うのと海外の人が使うみたいな感じ。複雑な操作を日常レベルで行えるようになる事をその人は優先して教えたんだね。」

「ほえー…確かに攻撃系の魔法を教えて貰うようになったのは6歳になってからだったなー。何でだろ。」

「出来るからだよ。攻撃系の魔法って出すだけなら実はそんなに難しくないから…その魔法を教わるときもきっと細かく威力を調節しろって言われたんじゃ無い?」

「え、マジでそうだよ!雑草一本だけ燃やせる火力とか、葉巻の火だけ消せる水量とか地味なのばっかり!」

「なんだ、ちゃんと日常が修行になってたんじゃん。良かったね。」


…まさか…まさかミルザとの日々がちゃんと修行になってたなんて!!!

しかもその修行も異世界転生のテンプレみたいな気づかないうちに最強パターンじゃん!!!


「………くくく…まさか私の知らない間に私の魔力操作が聖獣に通用するレベルになってたなんて…!!これぞ異世界転生だ!!!」

「…まあ、今くらいなら私にも出来るんだけど。」

「なんでやる気を削ぐようなこと言うかなぁ!!?」

「でも本当に凄いよ。私のあげたスキルをすぐに自分の使えるものに組み込んだ。レベルが上がれば本当に私より強くなれるかも。」

「うっ…お世辞が余計に心に響く…」

「お世辞なんかじゃ無いよ。ルカにはその可能性がある……だからさ。」


ウサギはぴょんと跳ねて、倒れた木の幹の上に立つ。

目線が上がって、彼女と私の視線の位置が丁度同じくらいになった。


「今のルカがどこまで私に通用するのか、試してみない?」

「聖獣と戦うってこと!?いや無理無理!!私7歳のただの人間だよ!?」

「その7歳のただの人間の中に、私が知らない可能性があるんだよ。」


…何かちょっと楽しそうじゃない?

怖い怖い!!なんでわくわくしてんのこのウサギ!


「さっき殺さないって言ったばっかりじゃん!?」

「もちろん殺さないくらいに私も加減するって。あ、ルカは全力で来て良いよ。」

「その余裕も怖い!ストレッチ始めるのも怖い!!ウサギの体だから全然ストレッチになってないのは可愛いけど!!」


木の上で前足をぐーっと伸ばし短い尻尾をぴょこぴょこ動かして。

見た目は動物番組の癒しコーナー。

実力は怪物、発言は私と戦おう。

ギャップ萌えならぬギャップ恐だよ。ぎり恐怖が勝るよ。

でも…でも……!


「…ちゃんと理由をつけよう。意味も無く私らが戦ったら、ミルザや森の魔獣達、それこそ他の聖獣が戦争になっちゃう。」

「やる気になってくれてありがとう。じゃあ、これを『ルカ・ロム王女がマルルウサギの聖獣の試練を受けた』ってことにしよう。」

「……談合ってことね。それなら私が戻ったときに大量のスキルを持ってても違和感ないか。」

「談合って?」

「オンライン対戦ゲームのミームだよ。出来レースって意味みたいなもん。」

「なるほどね、まあそれに近いと言えば近いか…でも…」


ウサギからこれまでに無いほどの魔力があふれ出る。

この至近距離で、貰ったスキルが無ければ耐えられないほどの魔力を浴びせてくるなんて…

そんなの…わくわくするに決まってんじゃん…!!


「…【沈黙空間《サイレンス・フィールド》】を解いたら合図だよ。先手はそっちにあげる。」

「お優しい聖獣様だね…それじゃあ胸を借りようか。」


数秒の沈黙が両者を包み。

私たちの周りに音が戻る。


「【大・魔法大宴会《スーパーマジックパーティー》】!!!」


周囲を魔方陣で埋め尽くしそれぞれ別の魔法を発動させる。

一つ一つが直撃すれば最低限吹っ飛ぶくらいの威力にはしたはずだ。

それでもウサギは難なく避ける。攻撃をいなすことも消滅させることもせず、ただ回避だけで対応している。

だったら…!!!


「【宝玉の転移門】!」


移動先を私の正面につなげ、そこに向けて時間差で魔法を撃つ。

門を回避しても、門に飛び込んでもどちらか一撃は当たる!


「【爆雷魔法《トニトルス・エクスプロード》】」

「ぐっ…!!?」


ウサギの鬼火を中心に凄まじい轟音と爆発が周囲を吹き飛ばす。

水冷魔法を反射で展開してなければ黒焦げだったよ…!?

手加減してくれるんじゃ無かったの!?


「やっぱこれくらい防がれちゃうか…!」

「殺す気だったろ…原宿ウサギ…!」

「それくらい余裕でしょ?オタク王女様?」

「この野郎…!」


爆発で腕が火傷しているのに痛みをあまり感じない。

痛みが無いわけでは無いが命に直結しない痛みはフルオートで遮断してくれるのか…!

ありがたい…!!

お陰で余計なこと考えなくて済む…!!


「…治癒魔法なんて複雑な魔法…初めて使うけど…要は時間経過《リジェネ》じゃなくて速攻《ヒーリング》って事でしょ?だったら多分魔力の流れは…!!」

「…!!」


負傷箇所に魔力が集まる。

魔素一つ一つが回復に働きかけるって感じね…じゃあその魔素を活発化させる。


「…【血流操作】で魔素の流れが読みにくくなる出血を押さえて、その隙に魔力強化で回復を底上げ……これであってる?」

「…100点満点。」


ウサギの攻撃が続く。

彼女が地面を蹴る度に鈍い音が周囲に反響する。

四方八方を飛び回るその小さな体、目で追いかけるのはほぼ無理。

なら範囲を絞って【魔力感知】魔獣である以上、攻撃の瞬間まで魔力を隠すなんて事…


「残念ッ!!!」

「っつぅッ!!?」


ダメだ…これじゃ範囲内に入ってくるまで対応できない=防戦一方。

何とか防げたけど、これ絶対腕の骨折れてるでしょ…?

折れた骨にも作用してくれなきゃ困るんだけど…!


「あー、めんどい…!!いちいち流すって考えるから余計な手間なんだ…」

「…?」


そっちが聖獣としての経験を使ってくるんなら、こっちも与えられたもの最大限利用してやる…!!!

【治癒魔法】+【魔力強化】+【痛覚遮断】+【詠唱破棄】+【チェインマジックサークル】


「……化け物魔力め…!!」

「魔獣がよく言う…!!!」


常時全回復フルオート対応…これなら回復を無視して戦える!!


「【宝玉の転移門】」

「…!!?」


自分のすぐ前に【宝玉の転移門】を設置し、飛び込む。

跳躍の際に【跳躍強化】で脚力を強化。一回で筋繊維がはち切れたけどまだ回復が間に合う!

先ほどからウサギが移動する度に響かせるあの鈍い音。

確信した。あれは彼女が自信の脚の骨が砕ける速度で動き続けてるんだ。

普通脳は自分の肉体が壊れる動きをしないようにリミッターをかける。

ウサギはその認識さえバグらせて骨が砕ける速度で移動して、砕けた瞬間に再生してるんだ。

だったら私も真似して加速すれば良い!

私のレベルじゃ骨が砕けるほどの速度は出ないけど、普段の速度と変化をつければ、こうやって意表は突ける。


「…っ!!【フレイムボディ】!」


ウサギが体を燃やして拳を退けようとしている。


「オラァ!!!」


燃える彼女の体を意に介さず、火炎の中に手を突っ込む。

掴む腕ごと焼け爛れても焼けたそばから回復させる。


「…ちょっとくらい躊躇しなよ!?」

「ダメージトレードってヤツだよ……!!!」


ウサギの耳を掴み、逆の手に魔力を集中。

火炎の魔力と雷の魔力…それらを反発させて、擬似的に発動する


「見よう見まね…!なんちゃって【爆雷魔法《トニトルス・エクスプロード》】!!!」

「…!!面白い…!!!【獣の支配者(ビーストロード)】!!!」

「マジ!!?」


途端に掴んでいた腕が弾かれる。

咆哮の音圧だけで木々が軋み、動物的な本能が警鐘を鳴らす。


「ちょっとだけ本気……お願いだから、ちゃんとガードしてね…?」

「ちょいちょいちょい!!?」

「【帝王剛破衝撃《レクス・インプルスス》】」

「だーーーっ!!?【宝玉の転移門】最大出力!!!」


手加減って言葉忘れてるだろ!!?

慌てて前方と後方に【宝玉の転移門】をつなぐ。

その瞬間、私の後方が一瞬にして消し飛ばされる。

どうにかギリギリスキルの発動時間が間に合ったけど、後一秒でも発動が遅いか効果が切れるのが早かったら、私の体ごと吹き飛んでいた…

超圧縮した魔力と斬撃の混合技…?何にせよ7歳の人間に向けて撃つ技じゃ無いでしょ!


「本当に殺す気だったじゃん!!?」

「生きてるじゃん。」

「ギリギリね!!」


掴んだときに魔力を打ち込んでいたのも幸いした。

あれが無かったら、攻撃に私の魔力が付着してなかったからそもそも門で反らせなかった。


「手加減するんじゃ無かったの…?」

「あれやっぱ撤回。ある程度ちゃんと試練してもルカなら大丈夫そうだから。」


ウサギが先ほど解放したスキル【獣の支配者(ビーストロード)】

ただのユニークジャンルじゃ無いな…?

発動してからウサギの威圧感が半端じゃないくらいに増した…!


「でももう、そっちも魔力の限界でしょ?」

「…バレてたか。」


私はフルオートの回復を解除する。

さすが治癒魔法、消費魔力も桁違いだ…


「どのみちさっきの私たちの攻撃で森も王国の人たちも何かあったことには気づいてる。だから、次の一撃で終わりにしよう。」

「その一撃、私が防ぎきったら合格って事で良いんだよね…?」

「そうだよ。今から私のとっておきをルカが受けられる位の威力に調節して撃つ。もう転移門を通すためのあなたの魔力は私には残ってないでしょ?」

「それもバレてたのか…おっけー、どんな魔法を撃ち込んでくれるのかな、聖獣様?」

「…………今度こそ、絶対に防御してね。」


世界から音が消えた。

違う。音は鳴っている。

でも、私の意識が世界の音に向かないんだ。

目の前でウサギの放つスキルに、全部の神経が集中していた。


「【野兎の咆哮(レプス・ロアー)】」


派手な一撃じゃ無い。見た目だけならさっきの衝撃波の方が百倍やばい。

でもこれは、もっとやばい…!!!

感知魔法も通じない、魔力の引っかかりも無い、目に見えるビーム的なエネルギーも無い。

なのにすぐそこまで、絶望が迫ってきているッ!!!

何が効くのか見当がつかない以上、私の今持っているスキルを全部防御に転用するしか無い。

攻撃は前方から来る。可能な限りのスキルを前方に展開してそれから―――


「―――え?」


何かが、私の展開したスキルの先頭に触れた。

その瞬間。

私の体は森の外まで吹き飛ばされた。


「……………」


何が起きたのかを認識する暇も無かった。

ただ私の荒れた呼吸がボルシャー平原に小さく響いていた。


「………生きてる。」


最初に出てきた言葉はそれだった。

手足が動く。体がある。

一つ一つを確かめるように動かしていく。


「ナイス防御。」


視界の端でウサギが前足で顔をかいている。


「……ナイス防御、じゃねえよ馬鹿野郎…本気で死んだと思ったじゃん……」

「ちゃんと防御しなかったら多分死んでたよ。よく魔法防御だけにしなかったね。どちらかというとあの攻撃は魔法じゃ無くて………」

「その説明後じゃダメ…?もう一歩も動けないからちょっと休ませて。」

「休むのは良いけど、ちゃんと王女様として休んでね。」

「…へ?」

「あれ、もうすぐこっちに来るよ。」


ウサギの促す方を見ると部隊の皆がこちらに向かってきている。

先頭を走っているのは、ミルザだ。


「それじゃあ、ここからは一旦聖獣と王女様に戻らないとね。」

「おっけー……」


程なくして私の周りはたくさんの魔道士で囲まれ、ミルザが泣きながら治癒魔法を使っていた。

ウサギはと言うと、騎士団や魔道士に取り囲まれているのを気にも留めず、ミルザに抱かれた私の元へと歩み寄ってきた。


「…認めましょう、ロム王国第一王女ルカ・ロム。聖獣の試練を越えた証として我が力の一端を授けます。」


…何だか笑ってしまいそうだったがそういうわけにもいかない。

私は周りのざわめきを背に受けて、幼女相手にマジになった大人げない聖獣相手に膝をついて礼を返した。


「光栄です。今後とも、どうぞ我らにご加護を。」

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