転生王女は異世界を満喫中(1)
「はぁ...はぁっ!」
見つかるな、誰にも!
今すぐに誰にも見つからない場所へ!
「ここなら...!」
庭木の間を駆け抜け、一番大きな木の天辺へ。
私が生まれるよりもずっと前からあるこの木。どこを握って登ればいいかなんてもう考えなくても分かる。
「お嬢様ー!どこへ行かれたのですかー!?」
遠くでそば付きとメイドたちが私を探す声が聞こえる。
周りからは実は丸見えではあるが、こんな所に7歳の幼女が登っているなんて思うまい!
「あははっ!作戦大成功!」
「...ルカ?何をやっているのだ?」
「...はえ?」
私のすぐ真横から声が聞こえる。
そんなはずない。
だってこの木は御城で一番背の高い木。この高さと同じものなんて城壁くらいしか...
「お、お父様...」
城壁の連絡通路の点検を付き人と確認しているお父様がいた。
「こ、こんな所で何をしているのだ...!?」
「あっ、えーっと、これはその...あっ...!!」
言い訳を考えているとつい足を滑らせてしまう。
子供の体とはいえ、さすがにこの高さから落ちれば無事では済まない。
だが、落ち着けば何の問題もないのだ!
なぜなら私は最強スキルを持ったチート転生者なのだから!!
「【宝玉の転移門】!!」
右手を自分の落下先に、左手は地面に向けてスキルを発動!
自分の今いる場所を任意の場所につなげるこのスキルが、私のチートスキル!
移動系なんて強くて当たり前、ゲームでだって終盤でしか手に入らないようなスキルを生まれた時から持ってる私。
つまり、最強ってわけよ!
「...あ。」
転移は確かに成功した。
けど落下の勢いでそのまま地面から出てきたもんだから、木の一番下の枝まで飛び上がり、思い切り頭をぶつけた。
物凄い痛い。
後頭部がふわふわする。
「ルカ様...もう脱走はおやめください...」
「...だってまた勉強でしょ?」
「勉強です。いいですか、ルカ様。あなたはこのロム王国をいずれ治める立場にあるのです...」
あー、始まった。
メイド長で私のそば付きのミルザは誰よりも真面目だ。
真面目だから、話すと長い。
ぼんやりと彼女の話を聞き流しながら、思い出す。
そういえば、前世の授業でもこんな感じで話の長い教師がいたなぁ。
7年前、私はこの世界に転生してきた。
でも意識がはっきりしたのは大体3歳になった頃ぐらいだ。
それまでのルカ・ロムとしての記憶があったおかげで、お父様やお母様、お城の人間の顔は分かっていたので、その記憶の続きに前世の私としての記憶が引っ付いた感じだ。
いわゆる異世界転生。
私だけじゃない。全世界のオタクが憧れる夢のシチュエーション。
前世の私になんて何の未練もない。
チートスキル持ち王女としての何不自由ない生活が私の今の人生。
最初は私の人格とこの身体のルカとしての人格が一致しないことも多かった。
でも今はいい具合にルカの人格に乗っかれている。
お転婆で問題児ですぐ調子に乗る、でも愛嬌はあって人を思いやれる優しい子。
そんなルカとしての私に、私も満足していた。
「―つまりこの国の...ルカ様、聞いていますか?」
「え?あー、うん。聞いてる聞いてる。」
「絶対に聞いてないやつでしょうそれ...」
「もうこのまま今日は青空教室しようよー!」
「あおぞら...?なんですかそれは。」
「狭い部屋の中じゃなくて、このお庭でお勉強しようってこと!そしたら少しは勉強する気になるかもな〜って。」
「...今回だけですよ。では、本日の内容に入る前にこの国の事を今一度おさらいしましょう。」
「はーい。」
もうこれは何度も聞いているので頭に入ってはいるのだが、いずれ役に立つことに違いはないので一応ちゃんと聞いておく。
私が住んでいるこの国は【ロム王国】と言うそれなりに大きな国だ。
東に広がる大森林の恵みを活かして交易国家として栄えている。
そんな国の王族で現時点での王位継承権序列一位が私、ルカ・ロム。
長く子宝に恵まれなかったお父様、カディア・ロムの一人娘。
歴代きっての賢王として各国から一目置かれているお父様だが、その真骨頂は外交にあるみたいだ。
お父様が王座に就いてからというもの、この国はある一国を除いて戦争やいさかいが起こっていない。
平和を愛する王の一人娘か...
何度聞いてもいい響きだぜ...
「では、次に【マルル大森林】について。」
「ねえ、どうして森林には近づいちゃいけないの?いっつもはぐらかして教えてくれないじゃん。」
「...その事ですが、昨晩陛下よりルカ様に森のことを教えてもよいのではないかといただきました。」
「え!?ホントに!?」
「当然私は反対しました。」
「なんでよ!?」
「森のことを聞いてあなたが興味を持たないはずが無いからです...」
「正直めっちゃ興味あります。」
「ですので約束してください。この話を聞いても、決して森へは行かないと!」
「は、はい...」
ミルザの声がいつもに増してマジだった...
「...マルル大森林は魔獣、つまり魔力を持った獣が闊歩する世界でも有数の危険地帯です。」
それは何となく分かっていた。
森への調査や採集に行く際は国としてであれば精鋭の部隊が、個人で行くとしても腕利きの冒険者ばかりらしい。
それにしても魔獣がいるのは本で見たから知っていたが、こんなに身近にいるものなのか。
「中でもこの森の特徴として【聖獣】と呼ばれる他の魔物とは一線引いた強さを持つ魔獣がいます。」
「聖獣...」
なんだか一気にファンタジーな感じになってきた!!
いや私が魔法を使えてる時点で十分ファンタジーではあるんだけど、聖獣だよ聖獣!【聖なる獣】!
これでワクワクしないは嘘だよ!
「その聖獣ってどんな生き物なの!?」
「...これから順を追ってお話します。ここ数年で無数の研究書物が出るほどに状況が変わりましたから。」
「いいね...そういうの大好き!」
「まじめに考えてください...聖獣は現在、4体いると考えられています。」
四聖獣!!!いいねいいねぇ!!!
これだけでご飯が食べれるよ!!!
「それぞれ、キャッスルタートル。」
最高!絶対攻撃が通らない鉄壁のカメだ!
「インフェルノドラゴン。」
ドラゴン!!ドラゴンキターーー!!!
「キュアラルフェニックス。」
フェニックス!!不死鳥!!ザ・聖獣!!
「そして、マルルウサギ...」
「...え?」
う、ウサギ?ドラゴン、不死鳥と来てウサギ?
「ウサギが聖獣なの?」
「聖獣としては一番最近に観測された個体です。かつてこの国と面している森林ではファントムタイガーが多く観測されていましたが、ある時を境にその観測が途絶え、かわりに目撃されるようになったのがこのマルルウサギです。」
ウサギが聖獣なのか…
たしかに前の世界ではウサギを祀ってる神社とかあった気はするけど、それでも他の魔獣と比べるとちょっと見劣りするなぁ。
「でもファントムタイガー?だっけ?そんな怖いやつじゃなくてウサギなら、森に入るのも幾分気が楽なんじゃ?」
「…ここからは魔法師団の観測と騎士団の証言を元にした情報、つまりはこの国の軍事に関わる部門です。」
「任せてよ!」
「はぁ…私はあなたが末恐ろしいです。まだ7歳だというのにどうしてこう物覚えが良くて無駄に頭が回るのですか…?」
もちろん前世で数多の文献や戦場を経験してきたからだ。
動かす肉体と視野がリアルになったって点はVRやARみたいなモンだし!
「…魔法師団と騎士団の意見はおおむね一致していました。曰く『ファントムタイガーの10倍安全で、100倍恐ろしい』」
「安全なのに恐ろしいの?」
どっちだよそれ。
「記録によればマルルウサギから我が国の部隊に攻撃してきたことはありません。」
「じゃあ安全じゃん。」
「ただ…」
ミルザが少し言葉を選んでいるように見える。
「…大丈夫だよ。多少訳わかんないこと言っても、私なら分かるから。」
「…では。」
再びミルザの言葉が続く。
「四年前。一度だけマルルウサギの討伐隊が編成、派遣されました。」
「…それ知ってる。街に下りたときに聞いたことある。」
「恐らくその国民の証言は正しいモノでしょう。それほどこの国にとって衝撃で、森林に対する国民の恐怖は跳ね上がりましたから。」
「…自分を討伐しに来た部隊を、1人も殺さずに戦意喪失させて、あろうことか交渉まで持ちかけてきたって。」
この国の戦力が意味を成さない、知性がある。
そんな魔獣がすぐ近隣の森に生息している。
国民の不安は当然だろう。
前世の記憶からしてもかなり気味が悪い。
自分を殺しに来たのにどうして迎え撃つ向こうは殺さなかったんだ。
「交渉に応じたのは師団長のルキウス、そして国王陛下…あなた様のお父上です。」
「お父様も討伐隊に参加してたんだね。」
「ロム王家に伝わるスキルは戦況を見極める上で必要不可欠。そう判断されて自ら討伐隊に。」
私にもそのスキルが宿っている。
【宝玉の転移門】これは多分転生の特典だろう。理由はあまりに使い勝手が良くて、ワープ系の魔法なのに魔力の消費量が少なすぎる。つまり強すぎるから。
そして王家に伝わるスキルとやらが【天啓眼】
このスキル、見ただけで相手のスキルを把握できてしまうぶっ壊れスキルだ。
その人の魔法や剣術の才もある程度見抜ける。
カードゲームで言えば常時相手の手札が見えているようなもの。未知の相手でもスキルが見えればそれなりにどんな攻撃をしてくるのかが分かる。
そしてこのスキルは、自分にも有効だった。
お父様は私をスキルの神に選ばれた子だと昔から言っていた。気になった私は【天啓眼】を自分に使用して自分のスキルを見た。
そこで見つけたのは【宝玉の転移門】の他に二つ。
【ステータス開示】と【強欲な殺戮】と言うスキル。
前者は自分のステータスが見れるスキルだろうとなんとなく察しはつく。
だが問題は後者。
【天啓眼】のスキルを使っても、分かった事はそのスキルの名前のみ。
【強欲な殺戮】
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「…」
何度やっても【ステータス開示】を使ってもこのスキルの詳細だけはそこだけ景色がぼやけるみたいに見ることが出来なかった。
まるで、テキストがエラーを起こしているみたいに。
「…そこで陛下が何を見たのかまでは存じ上げません。ただ一言、戻ってきた陛下はこうおっしゃられました。」
『ルカを守らねばいかん。』
「私を…?」
意味が分からなかった。
森の聖獣と話してどうして私の話が出てくるんだ…?
…というか。
「ん…?戻ってきた陛下はおっしゃられたって、ミルザそれだとその言葉を直接聞いたみたいじゃない?」
「ええ。私もその部隊にいましたから。」
あー、そうだった。
私は彼女の方を見て【天啓眼】を使用する。
おびただしい数の魔法スキル。そのほとんど全てがレベル5。
「そっか。ミルザ、魔法師団の副団長だったんだっけ。」
「その日以来、王命により私はあなた様のそば付きとなりましたから。」
魔法の扱いの稽古に関しては王国のどの魔法講師よりも彼女は優秀だった。
国王直属の魔法部隊として動き、魔法を教えることにかけても一級品。
整った顔と張りのある肌にそしてうらやましいほどに立派な二つの山脈。他のメイドの話によれば現役時代は非常にモテたらしく、私のそば付きになるに当たって男性関係が煩わしいとのことで芋っぽい瓶底眼鏡をかけるようになったそうだ。
「ねえ、その場所にいたんならさ、見たんでしょ聖獣。」
「…気になりますか?」
「もちろん。」
好奇心なんて安いものでは無い。
もちろんそれが無いと言えば嘘になるけど。
「…元副団長の身で、さらには王女様のそば付きの身でありながらこのようなことを言うのは非常に情けない話ではありますが…」
彼女の言葉は、今まで聞いたどのお説教の時よりも重く、暗く、そして恐怖に満ちていた。
「私が仮に冒険者だったとして、末代まで遊んで暮らせる報酬を貰ったとしても、私はもう二度と、あの魔獣と敵対したくはありません。」




