4-3 ウサギの覚悟
「聖獣の、試練?」
「トラの不在は聖獣にとって大きな問題です。確かに彼らは群れとして聖獣。純粋な強さだけで見れば他の聖獣に劣ってはいましたが、それでもその統率と秩序を持って、西の王国のニンゲンへの確かな抑止力となっていました。」
「つまり、その不在を埋めるために、私が聖獣になる必要があるってこと?」
「その通りです。」
「ファントムタイガーの次の聖獣がウサギってずいぶん見劣りしない?元ニンゲン的には全く脅威じゃないっていうか...」
「強さとは見た目や種族ではありませんから。その為の試練です。」
周囲の空気が淀んだ。
草木がざわめき、周囲に少し感じられた命の気配も蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
被捕食者としての生存本能が今すぐにここから逃げ出せと、何かが来ると警鐘を鳴らしている。
「...ばあちゃん、コイツがあいつの代わりってマジかよ。」
背後から突如として声が聞こえる。
その声が聞こえるまで気配も音もまるで感じられなかった。
声が聞こえてからその場に現れたような違和感さえ感じるほどだ。
そこにいたのは、龍。
本やテレビでしか見たことのないような生き物。前世のどの生き物にも当てはまらない、全身を鱗で覆い、背中に一対の翼を持つ生き物。
強いて言うのならトカゲに似てなくもないが、トカゲは後ろの足で二足歩行などしないだろう。
「見るからにウサギじゃねえか。」
「はい。その方は紛れもないウサギですから。」
「ウサギが試練をねぇ...」
体温が高いのか、それとも発熱器官でもあるのか。彼の近くにいるだけで凄まじい熱気だ。
【全熱耐性】を持っていても熱を感じる。
「あなたは...?」
「あ?お前この森の生き物だろ?それマジで言ってんのか?」
「おやめなさい。後ほど話しますから、今は自己紹介を。彼女にも事情があるのです。」
「何の訳アリだよ...いや、キショいとは思ったけどよ。こいつ【念話】じゃねえ、普通に音として俺と会話しやがったし。」
「自己紹介を。」
「わぁったって!今やろうとしてたの!!...インフェルノドラゴン。【加速の支配者】だ。」
鼓動が早まる。
支配者のスキル持ち...と言うことは彼が私が出会う三体目の聖獣。
「で?あの鳥頭はどこだよ?ただでさえ遅えんだから昨日位から空飛んできてんのか?」
「相変わらず口の減らんやつだな。」
巨大な羽ばたきの音が聞こえる。
その翼の音や風で周囲に変化が起きる。
何もなかった地面から草花が生い茂り始めた。
まるでその風に、音に、歓喜するかのように。
「...これ見よがしにスキル垂れ流しでご登場してんじゃねえよウゼェな。」
「お前こそ、したり顔でこの者の背後を取っていたと思うが?」
「てめえコラどっから見てやがった...?」
「コイツがあいつの代わりってマジかよ、くらいからか?」
「相変わらず腐った性格してんな、長生きすると脳みそも腐るのかよ。」
その姿も見たことのない生き物。
しかし、視覚的になじみはあった。
前世の日本でも紙幣や色んなモチーフとして使われている生き物。
燃え盛る金色の翼に虹色の羽、不死鳥だ。
「...すまないな。私はキュアラルフェニックス、【不死の支配者】だ。」
「おいウサギ、笑っていいぞ!オーバーロードなのに死体じゃないんですかーって!」
「...彼の代わりに謝罪しよう。いきなり事を進められているにも関わらず、私より先にこの脳足りんに出会わせてしまった。」
「よしちょっと空来いや、喧嘩だテメェ。」
軽口を叩き合う男子生徒のようだが、辺りに充満するエネルギーが桁違いだ。
このウサギの体の中身が私じゃ無かったら、魔力と圧に気を失ってしまうかもしれない。
私は自分を奮い立たせて、改めてキャッスルタートルに訪ねる。
「聖獣の試練について、聞かせて。」
その一言で二匹の空気も変わった。
ただ一匹、その場で最初から口調も空気も変わらないキャッスルタートルが口を開く。
「...聖獣の試練とは魔獣が聖獣へと至るための儀式。」
「聖獣になるのに特定のスキルや実力は関係ねえんだよ。」
「我らが皆支配者スキルを持っているのも偶然に過ぎぬ。強力なスキルであることに違いはないが、このスキルが聖獣の証というわけではないのだ。」
「...儀式の内容を教えて。」
「内容は至って簡単だぜ?」
インフェルノドラゴンが大きく翼を開く。
その翼には翼膜のような物はなく、体表と同じ黒色の鱗がびっしりと生え揃っていた。
「俺達全員を認めさせりゃいい。」
「...本来であればタートルが認めれば良いのだが、コイツが言って聞かなくてな...」
「弱ぇ奴ならその場で殺す。ファントムタイガーは骨のある奴だったが、オメェはどうなんだ?」
「私...?」
「あんたのその目、迷ってますってのが滲み出てんだよ。迷う奴は弱ぇ、弱ぇ奴は何にも守れねえ。森も、自分自身だってな。」
口調は相変わらず軽い。
元の世界の運動部のやつみたいだ。
それでもその一言一言に、言葉以上の意味が宿っているように聞こえる。
「オメェの事情は後でタートルから聞く。だがそれとこれは別だ。守りてぇなら、生きてぇなら、覚悟がいるんだよこの森は。」
「...分かった。受けるよ、その試練。」
迷ってます、か。
確かにそう見えても仕方ないのかも。
トラの意思とか言ってタートルに会いに来てたのに、結局は寿命をどうにかする事を聞こうとして、そして最終的に転生の事を言い当てられて焦って。
ぶれぶれだ。
変なとこばっか前世に似やがって...
上等だ。
まずはここにいる聖獣全員認めさせてやる。
私がどう生きるかの証明を私自身が示してやる。
ウサギの覚悟を見せつけてやる。




