3-2 雨と長と気高き友と
体が動かなかった。
恐怖や感情によるものではない。
獣としての本能に直接下される司令。
「そこで見ていろ、手を出すな」という命令。
圧倒的な支配の前に、私と向こうの取り巻きの2体は動くことができなかった。
「お...長...!!」
「どう...か、若...を...!!」
「お前たちは戻れたか。どうやら、支配を上書きさえ出来れば解放できるのだな。」
「クソが...!やっぱ中継だと洗脳の精度が落ちるのかよ...!!」
しかし、息子の洗脳は解けてはいなかった。
「...さすがは転生者。優秀なスキルなのだな。今のは俺の全力だった。それを持っても解除できないとなれば、もう息子は取り戻せぬのだろう。」
ゆっくりと、体を引きずるようにしてトラは息子の元へ歩み寄る。
先程よりも、彼の動きが鈍かった。
「クソッ!!!」
苦し紛れに放たれた火球はトラに届く前に掻き消された。
何かを当てられて消えたというよりも、これもまた「消えろ」と命じられた事で消えたように見えた。
「これ以上...息子を汚してくれるな...」
「チッ!!【獣の咆哮】!!!」
ただの遠吠えではない、おそらくスキルによって何かしらの効果の付与された遠吠え。
全身が一瞬恐怖に包まれたが、それはすぐにかき消される。
「...【獣の咆哮】」
トラが全く同じスキルを発動したのだろう。
彼の遠吠えが周囲に響く。
たったそれだけで、場は再びトラのものとなった。
「...あーあ、ダメか。いいペットだったのになぁ。」
その言葉を最後に、トラは息子の喉元へ牙を深く突き刺した。
数秒の後、力なく息子の身体が地面に横たわる。
「...父、上......ごめ、ん、なさ.........」
「...」
その言葉を決して聞き逃さないように。
彼は黙って、息子を見つめていた。
その鼓動が止まる瞬間まで。
やがて洗脳が解けた取り巻きの二匹が気を失う。限界まで肉体を酷使されていたのだろう。
だが、限界なのはトラも同じだった。
「トラッ...!!!」
糸が切れたように、王の体が地響きと共に倒れた。




