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ウサギが異世界デスゲームをクリアする方法  作者: 山田野オロチ
獣の支配者

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3-1 雨と長と気高き友と

「雨...?」


暗くてわかりにくいが、確かに少し湿った空気を感じる。


「...雨は全てを洗い流す。血の匂いも、そして殺意の気配も。」


ぽつりと、空から雫が落ちてくる。

それほど強い雨ではない。視界が覆われるレベルでもない。

だが、トラは、その場に立ち上がった。


「俺の血も雨で流れたであろう...だが、遅かったか。」


トラは素早く跳躍すると、私を覆うようにして伏せた。

瞬間、トラの向こうでバリケードが音を立てて崩される。

雨が土煙を流すとそこには、トラよりも一回り小さな、トラと同じ模様の魔獣が3匹。


「オイオイ...なーんか前会った時より元気になっちゃってんじゃん?」


軽薄な声がスキルを通じて脳に直接届いてくる。

その見た目は、紛れもなくトラに瓜二つ。

大きな体に少し短いが藤色のたてがみ。トラよりも幾分若い個体。

だが、話し方が故かトラほどの威厳は感じられない。

それでも、すぐにその個体がトラの息子だとわかった。


「...群れはどうした。」

「殺したよ。当たり前のこと聞くんじゃねぇ。」

「......お前の母や、番もいただろう。」

「知らねえよ。邪魔されたから殺す、はいおしまい。」


息子が吠えるとたてがみから青白い火球が飛び出し、トラに向かって飛んでくる。

それを爪と尾ではたき落として、トラは再び息子に向き直った。


「...雑な魔法だ。俺からの教えも忘れたか。」

「チッ!かったりぃ猫だなぁ...」


違和感を感じた。

けれども正確ではない。

トラは息子とその取り巻きの放つ火球を消し続けている。

決定打には至っていないが、反撃に転じる余裕がない。

妙に統率の取れた動き。

だが、どうにも獣の戦い方に見えない。

遠距離からの攻撃だけで、トラを殺そうとしていない。

むしろ、これは...

私はトラの邪魔にならないところから息子に向かって目一杯叫んだ。


「おいコラッ!!!トラのバカ息子!!!」

「...あぁ?」


魔獣の瞳孔が開いた目がこちらに向く。

寒気のするような殺気。

恐怖する被捕食者の体に鞭打って続ける。


「あんた何やってんの!?お父さん殺してどうするつもりなの!?」

「こりゃあ面白え!!ウサギが喋っていやがる!!」


まだだ。もっと、もっと喋れ。


「ウサギだって喋るわ!!生きてるんだぞ!!!」

「邪魔すんじゃねえよ餌の分際で。こいつを殺したらじっくり食ってやるからよ!!」


喋れ。頭を回せ。喋らせろ。


「良いの?!放ったらかすと、私があんたを倒しちゃうかもよ!?」

「うるせえなぁ!?モブは引っ込んでろ!!」

「はい、ダウト。」


確定だ。


「あんた、転生者でしょ?」

「...何だよその転生者ってのは。お前のほうこそハッタリで俺を騙そうってんだろ?」

「おかしいなぁ。何で【ダウト】がハッタリとかウソって知ってるの?この世界、少なくとも魔獣のあいだでトランプなんて無いはずだよね?」

「ウサギよ、どういうことだ...?」


攻撃の合間、トラは傷を庇いながら私のそばへやってくる。

両者の間合いは開いたまま、私のスキルで会話が続く。


「ファントムタイガー、この姿を見て猫って呼ぶのは猫科の概念を知ってる奴だけだよ。それは多分、私の世界にしかない言葉だ。それに獣がトランプやるわけないよね。トラ、ダウトってトランプのゲーム知ってる?」

「い、いや...何かしらの遊戯だということはウサギの話し方で推測できるが...」

「そりゃそうだよね。だってこれ...ニンゲンの遊びだもん。」


私が言い終わるよりも前に息子から火球が飛ばされた。

その火球をトラが振り払い、私との間に割って入る。


「...どけやクソ猫ォ!!!」

「トラ、一応確認だけど、あんたの言ってたこの世界に強大な存在が来た日、その日よりも前に息子さんは生まれてたよね?」

「あ、ああ...」


であれば彼の息子は転生者ではない。


「彼は多分、私と同じ転生者に操られてるか、意識を奪われてる。」

「そ、それはつまり...」

「息子さんは本心で仲間を殺したりなんかしてない。トラのことも、転生者が息子さんの体を使って襲わせてるだけだよ。」

「...チッ。妙に頭のいいヤツじゃねえか。」


トラが分からないということは、聞こえているこの声は息子自身の声音なのだろう。

それでも分かってしまえば、この軽薄さは自分の同年代だということが何となく分かる。


「その通り。こいつは俺がペットとして操ってる。たまたまコイツにスキルが効いて儲けたぜ。」

「自分から出てこいよ引きこもり。ゲーム気分で生き物の命を扱うな。トラの息子を解放して。」

「それは簡単だぜ?俺のスキルは万能じゃねえみたいだからなぁ。」


そいつはわざとトラの息子の首、生き物としての急所を見せつけるようにして不快に笑った。


「殺されると解除されちまうんだよ。ゾンビの兵隊は生み出せないらしいぜ!!」

「...クズ野郎...!!」


こんなやつと同じ場所にいたのがたまらなく不快だ。

でも、こいつの言っていることが本当なら、もう息子は...


「...トラ。」

「......ありがとう、ウサギ。」


その声色は落ち着いている。

それでも、震えていた。


「俺の息子は、聖獣としての誇りを無くしたわけでは無かったのだな...?」

「うん。きっと。」

「それが分かっただけで...十分だ。」


空気が揺らいだ。

雨音と共に森がざわめく。

その場に絡みついていた息子を操っている転生者の不快な殺気。

それが子どもの遊びに感じてしまうほどの、本物の殺気と、圧倒的な覇気。

その中心にいるのは、トラだった。


「下がっていてくれ、ウサギ。転生者はお前の関係者なのかもしれないが、これは俺と群れの...聖獣ファントムタイガーとしての誇りを取り戻す戦いなのだ。」

「駄目だよトラ!その傷じゃ3体を相手にするなんて...!!」


私は彼の横に立とうとして、それを尻尾で止められた。


「優しいのだな。だから、だからこそ。」


4つの足が力強く地面を掴む。


「友として最後にその優しさに...少しでも返させてくれ。」


雨が止んだ。

いや、止んでなどいない。

ただ雨の存在が限りなく消えた。

その場の空気が、環境が、世界が。

一匹の獣の王によって支配された。


「...【獣の支配者(ビーストロード)】」

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