第八話 情報屋との出会い
ゲームの知識だけじゃ足りないな…。
未来は知っていても、今この瞬間に何が起きているかは分からない。
しかも、ゲームとは少しずつ違う出来事が増えている。
やっぱり情報が欲しいな。
「アルディス様、何かお考えですか」
「王都で噂話って、どこに集まると思う?」
「酒場、市場……あとは情報屋でしょうか」
「情報屋?」
「表には出ない仕事ですが、王都には何人かおります」
「へぇ」
「もちろん、信用できる者ばかりではありません」
「面白そうだ、よし!ちょっと街まで行ってくる」
王都の裏通りは、表通りの賑わいとは違い、人通りも少ない。
クラウスに教えてもらった場所には、一軒の古びた古書店があった。店内は、絵本から専門書まで様々な本が並べられ、棚に入らない分は積み上げられていた。
「本屋?」
店内へ入ると、古い本が所狭しと並んでいる。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から、一人の青年が顔を上げた。
二十代前半だろうか。
ぼさぼさの黒髪に、どこか眠たそうな目だ。
「珍しいね、貴族様が来るなんて」
「本が好きなんだ」
「へぇ、それで?欲しい本でも?」
確かに、本屋としても中々本好きには魅力的だな。
「いや」
「情報が欲しい」
その一言で、店の空気が少し変わった。
青年がジロリと見てくる。
「……誰に聞いたの?」
「ウチの執事の紹介だ」
「なるほど」
「信頼できると聞いたんで」
「買い被りだよ」
青年は苦笑しながら椅子へ腰掛けた。
「で、どんな情報?」
「最近の王都で変わったことはないか?」
「漠然としてるね」
「小さなことでもいい」
「そうだねぇ〜、最近なら……旅人が増えた」
「旅人?」
「それも、妙に金払いのいい連中。あと、貴族街をうろつく見慣れない顔も増えたね」
ゲームじゃ聞かなかった情報だな…。
「面白い情報だ」
「面白い?」
不思議そうな顔をしてるな。
普通の貴族なら治安の悪化を気にするところだからな。
「もっと詳しく聞きたいんだが。」
その言葉に青年が少し笑う。
「変わった人だね、あんた」
「最近、よく言われる」
「名前は?」
「アルディス」
青年は一瞬だけ目を丸くした。まぁ、評判を知ってれば驚くだろうな。
「……あのアルディス侯爵?」
「そんなに有名?」
「悪い意味でね」
「やっぱりか」
苦笑すると、青年もつられて笑った。
「俺はギル。この店の店主兼、情報屋だ」
「よろしく」
「こちらこそ……と言いたいところだけど」
ギルは指を一本立てる。ただでってことはないだろうしな。
「情報は無料じゃない」
「やっぱり?」
「商売だからね今回は、初回サービスってことで、銀貨6枚か何か本を買ってくれたらいいよ」
「じゃあ、本を買うよ」
近くの棚から一冊の本を手に取る。
『王都名物・絶品菓子百選』
「……それにする?」
「婚約者が喜びそうだから」
ギルが黙った。やっぱり婚約者にこの贈り物は無いのか?
「あははっ!」
「情報屋の店で最初に買う本がそれ?」
「ダメか?」
「いや、面白い」
笑われながら本を包んでもらった。
「今日はその本代でいいよ」
「助かる」
「その代わり、また来なよ。変わった貴族様に、ちょっと興味が湧いた」
「ああ。また来る」
古書店を後にした俺の手には、一冊の本。
そして、これから先長く付き合うことになる、新しい縁が生まれていた。




