第七話 未来を変えるために
自室の机に地図を広げていた。
ペンを手に取り、丸を付けていく。
「……よし」
王都。
北の砦。
迷いの森。
港町。
ゲームで重要だった場所だ。
「アルディス様」
クラウスがさり気なくお茶を出してくれる。
「何をなさっているのでしょう」
「人生設計」
「随分と壮大でございますね」
「割と本気」
クラウスが地図を覗き込む。
「どちらへお出掛けになるのですか」
「まだ決めてない」
本当は違う。
考えているのは、ゲーム本編が始まるまでの残り時間だ。
勇者レインが旅立つまで、およそ一年。
ゲームではその間に、敵組織『黒き天秤』が水面下で動き始める。
本来はアルディスも、その組織へ協力することになる。
「……ならないけど」
「何か仰いましたか」
「独り言」
まずは敵をゲームの記憶をたよりに思い返してみる。
たしか…
組織名は『黒き天秤』で、邪神教だ。
各地で事件を起こし、裏から国を揺るがしていたんだっけ。
幹部は五人で、顔も名前も分かっているんだが…。
問題は、どこから接触してくるかなんだよな。
ゲームでは、アルディス自身の視点は描かれてなかった…。だから勧誘される場面がはっきりとない。
「クラウス」
「はい」
「最近、王都で変わった事件とかない?」
「事件、ですか」
「……。盗賊団の活動が活発になっております」
「他には?」
「商人の荷が消える事件が数件」
「ふむ」
「それから」
クラウスは一枚の書類を差し出した。
「各貴族家へ、このような注意喚起が届いております」
『不審者への警戒を強められたし』
「…ゲームには無かったな」
「何か仰いましたか」
「いや」
やはり少しずつ違うようだ。
ゲームには存在しなかった出来事が増え始めている。
「クラウス」
「はい」
「侯爵家の情報網って使える?」
「もちろんでございます」
「じゃあ頼みたいことがある」
「何なりと」
「最近起きた事件を、全部集めてほしい」
「全部、ですか」
「小さなことでもいい」
「盗難でも」
「喧嘩でも」
「迷子でも」
クラウスは少し驚いた顔をする。
「ずいぶん細かくお調べになるのですね」
「違和感を探したいんだ」
「違和感?」
「……勘かな」
ゲームの知識は武器になるが、ゲーム通りじゃなくなれば意味がない。
だからこそ、今の世界を知る必要がある。
「かしこまりました」
クラウスは一礼した。
「三日ほどお時間をいただければ」
「ありがとう」
クラウスが部屋を出ていく。
一人になった部屋で、俺は窓の外を眺めた。
敵が動く前に、こっちから動く。
アルディスの未来も、セシリアの未来も、みんなを助けたい。出来るかな…。
王都の喫茶店。
一人の青年が手帳を閉じ、小さく息を吐く。
「やっぱり変わってるな」
アルディス。
セシリア。
勇者レイン。
ゲームにはなかった変化が、少しずつ増えている。
「……自分以外にもいる、か」
「大きなイベントで最初にあるのは舞踏会か…まだ時間がる。それまで、どうなるのかな」
青年はコーヒーを飲み干し、静かに店を後にした。




