第九話 情報の照らし合わせ
「アルディス様、ご依頼の件がまとまりました」
書斎へ入ってきたクラウスが、数枚の報告書を机へ並べる。
仕事が早いな。
まだ数日しか経っていないのに、ここまで集めてくるとは。
「ありがとう」
一枚ずつ目を通していく。
王都近郊で盗賊が増加。
市場での窃盗事件。
行商人を狙った襲撃。
ここまではゲーム通り。
予想通りと言えば予想通りだ。
問題は、その先だった。
「最近、招待制の集まりが各地で開かれております」
「集まり?」
「夜会や商談会という名目ですが、主催者は不明です」
「参加者は?」
「貴族や豪商が中心ですが、共通点はございません」
ふーん……。
ゲームでは聞いたことがない。
「内容は分かる?」
「ほとんど情報はありません」
クラウスは一枚の紙を差し出す。
「参加された方も、口を揃えて『普通の集まりだった』としか話されません」
普通の集まりなら、そんなに隠す必要あるか?
むしろ怪しさしかない。
「他には?」
「高価な魔石の取引量が、この一か月で増加しております」
魔石まで。
ゲームなら、この時期に大量の魔石が必要になるイベントは無かったはずだ。
やっぱりズレてるな、しかも少しずつ。
「ありがとう、助かった」
「まだ調査は続けますか?」
「うん。小さなことでも気になったら教えて」
「かしこまりました」
その日の午後。
俺は古書店を訪れていた。
「いらっしゃい……また来た」
「最近、その挨拶ばっかりだな」
「事実だからね」
ギルは笑いながら紅茶を淹れる。
「今日は何?」
「情報。最近、怪しい集まりがあるって聞いた」
その一言で、ギルの笑顔が少しだけ消えた。
「誰から?」
「クラウス」
「ああ……なら知っててもおかしくないか」
ギルは少し考え込んでる。
「…あるよ。表向きは夜会とか商談会。でも、本当の目的は誰も知らない」
「参加した人は?」
「みんな口が堅い」
「いや、堅いっていうより……話したがらない」
「脅されてる?」
「そこまでは分からない」
なるほど。
クラウスの情報とも一致する。
「それと」
「最近、その集まりへ出入りしてる連中を見かける」
「どんな奴?」
「商人っぽい格好だけど、荷物を持ってない」
「冒険者みたいな連中もいる」
「でも誰もギルドには登録してない」
それは怪しい。
怪しすぎる。
ゲームに無かった情報ばかりだ。
「その集まり……入れないのか?」
ギルは苦笑した。ちょっと無茶な質問だったかな。
「簡単に言うね」
「無理?」
「招待制だから」
「招待状が無いと?」
「門前払い」
やっぱりか。まぁ、予測はしてたけど。別方向から、探すしか無いか?
「……でも。絶対無理ってわけじゃない」
「ん?」
「紹介状を用意できる人なら、一人だけ心当たりがある」
お、心当たりがあるのか。
「本当か?」
「昔世話になった人だ」
「今でも情報屋をやってる」
「その人なら、紹介状を用意できるかもしれない」
思わず口元が緩む。
ようやく手掛かりが見つかった。
「紹介してくれ」
「待った」
ギルは人差し指を立てる。
「簡単じゃない」
「紹介状は金で買える物じゃない」
「俺が頼めば借りを作ることになる」
借り。
情報屋の借りって、何だか重そうだ。
「無理な要求とかされるんだったら、他のほうほを探すが。俺の方としても、ギルは大事だからな」
「……」
「少し考えさせて」
「分かった」
「返事は数日後」
「期待しないで待ってて」
「期待して待つよ」
「そういうところだよ」
ギルが苦笑しながら頭を掻いた。
「あ、それと今日のおすすめだよ。」
ギルが棚から出してきた本を見せてきた。
表紙を見る。
『王都の名店案内』
「また食べ物か」
「この前買っていった本、役に立った?」
「ああ、婚約者から喜ばれたよ」
「君も変わってるけど、婚約者も変わってるね。これは続編だよ。」
「商売上手だな」
「褒め言葉として受け取っとく」
結局、その本も買うことにした。
屋敷へ戻る馬車の中。
怪しい集まり。
招待状。
紹介状。
ゲームには無かった話ばかりだ。
でも、だからこそ気になる。
ゲームが変わり始めているなら、その中心には何かあるはずだ。紹介状が手に入れば、その答えに一歩近付けるかもしれない。
まぁ、焦っても仕方ない。まずはギルの返事を待とう。
……それにしても。
情報を集めに行くたび、本を買うことになる気がする。次は何を勧められるんだろうか。
そんなことを考えながら、馬車は夕暮れの王都を静かに走っていた。




