第十話 変わり者の情報屋
朝食を終え、書斎でのんびり本を読んでいると、扉が軽く叩かれた。
「アルディス様、お手紙が届いております」
クラウスから封筒を受け取る。
差出人は――ギル。
返事が来たのか。
封を切ると、紙には短く書かれていた。
『例の件、話がついた。
今日の昼、いつもの店で待つ。 ギル』
思わず口元が緩む。
早いな。
「クラウス」
「はい」
「ちょっと出掛けてくる」
「ギル様ですか」
「よく分かったな」
「最近、お出掛けの理由は大体その方ですので」
否定はできない。
いつもの古書店へ入る。
「いらっしゃ……君か」
「待たせたか?」
「いや、丁度良い時間だよ」
ギルが紅茶に砂糖を入れているところだった。
……しかし前も思ったが、砂糖入れすぎじゃないだろうか。
スプーンで何杯目だ?
紅茶より砂糖の方が多そうなんだが。
いつか本気で糖尿病が心配になる。
「それで?」
「紹介状の件」
「話がまとまった?」
「半分だけ」
「半分?」
「俺の師匠に頼んだんだけど」
「師匠が、依頼人に直接会いたいらしい。もちろんまだ君の事は話してないけど、どうする?」
「会おう」
ギルに案内された先は、王都の外れ。
古びた雑貨屋だった。
「ここ?」
「そう」
「普通の店に見えるけど」
「あたりまえだよ、普通じゃないと情報は集められない」
ギルは扉を開ける。
「じいちゃん、連れてきた」
「ギルと……貴族?」
しばらくして、白髪混じりの老人が姿を現した。
老人は俺を見るなり眉をひそめる。
「貴族なんざ帰れ」
「おいおい」
「話くらい聞いてよ」
「嫌だ」
即答だった。
なかなか癖が強い。
「じいちゃん」
「直接会いたい言ったじゃん」
「だから会ってやった」
老人は腕を組み、俺をじろじろ眺める。
「で?」
「紹介状をお願いしたい」
「断る」
早い。
まだ三秒も話してない。
「理由を聞いても?」
「貴族だから」
分かりやすいな。
「貴族にまともな奴は少ない。昔、散々利用もされた。あいつらは信用できん」
なるほど。
そういうことか。
「じゃあ俺のことも、信用しなくていい」
「……あ?」
老人が片眉を上げる。
「紹介状だけ欲しいなら、他を当たるが…ギルが世話になった人なんだろ?だったら、会えただけでも良かったよ」
ギルが目を丸くする。
老人も黙った。
……あれ。
何か変なこと言ったか?
「くくっ…変な侯爵だな」
「最近よく言われる」
「自覚はあるか」
「最近できた」
「その性格、貴族にしちゃ珍しいな」
老人は豪快に笑い出した。
「はっはっは!いい!少なくとも、どこぞの連中よりは信用できそうだ!久しぶりに面白い奴が来たな!」
急に機嫌が良くなったな。
切り替えが早い。
「座れ」
「茶くらい出してやる」
「ありがとうございます」
老人がお茶を入れに行ったところで、ギルが小声で話しかけてくる。
「すごい」
「何が?」
「初対面で笑わせた人、初めて見た」
そんなに頑固だったのか。
しばらく世間話をしていると、老人がふと真面目な顔になった。
「紹介状は書いてやる」
「本当ですか」
「ただし、一枚だけだ」
「十分です」
「それと」
老人は指を一本立てる。
「中で何を見ても驚くな」
「……?」
「余計な正義感も出すな」
どういう意味だ?
「その夜会は、表も裏もある」
「どっちを見るかは、お前次第だ」
ゲームには無かった言葉。
でも、何となく嫌な予感がした。
「三日後だ。失くすなよ」
老人は一枚の紙を机へ置く。
黒い封蝋が押された紹介状。
俺は静かに受け取った。
ようやく、ゲームには存在しなかった場所への切符を手に入れた。
日が傾き始めた帰り道。歩きながらギルと話す。
「どうだった?」
「面白い人だった」
「でしょ?」
「でも、しっかりと見極められてる感じがした」
「それも正解」
二人は顔を見合わせて笑った。
気付けば、ギルとは普通に冗談を言い合えるようになっていた。
出会ったばかりの頃は、ただの情報屋だったのに。
人の縁って、不思議なものだ。
普通なら交わることのない縁。
でも、この世界がゲームとは違う未来へ進もうとしているなら、こんな出会いも悪くない。
「そう言えばじいちゃんに気に入られた人は、結構珍しい」
「そんなに珍しいのか?」
「普通は五分で追い返されてる」
「俺、運が良かったのかな」
「いや…たぶん、変ってたから」
「褒めてる?」
「半分くらい」
…複雑な気分になった。




