72. 救出
時間は遡る。
馬車に残ったフリをしたシモンは、先ほど案内の男が言った建物とは反対方向へ向かうと、手頃な建物に侵入した。
「ここは、備蓄倉庫かな?まっなんでも良いか〜、後はこれに火をつけてっと、おっし!上手くいけよ〜」
爆薬に火をつけて素早く建物を出る。
ドンッ!!
大きな爆発の後、建物に火の手が上がり、わらわらと人が集まってくる。
シモンは騒ぎに紛れて、馬車へ戻った。
「後はよろしく頼むっすよ!」
アルディス達の後を付けて、ここまでやって来ていたアグニ達は、アルディスと案内の男のやり取りをコッソリ見ていた。後は、侵入の隙を建物の近くで窺っていた。
シモンが倉庫を爆発させたのがわかった。
見張りの兵士が数名、爆発があった建物に移動するのを見届ける。
「行くぞ!」
爆発に人手を取られ、こちらの守りは手薄になっている隙に一気に侵入する。
「!なんだ貴様ら!」
「侵入者だ!」
「うるせー!」
「呼ばせるかよ!」
素早く残りの見張を倒していく。
「頭!いました!」
「ミリー!」
「あ!」
「助けにたぞ!」
「みんな急いで脱出するぞ!」
怯える子供達だったが、ミリーがアグニに飛びついたのを見て、助けだと分かったのだろう。子供達は素直にアグニ達に従って、次々に外へ出でいく。
「これで全部か!?」
「他には誰もいません!」
「わかった!ずらかるぞ!」
アグニ達が外へ出ようとしたところに、新たに駆けつ方くる足音がする。
「おい、このまま帰れると思うのか?」
アグニが振り向くと、そこにはニヤリと笑うアルディスが立っていた。
「俺の物を横取りされてはたまらないな」
「奪い返せるもんならやってみな!」
アルディスが剣を抜きアグニに襲いかかる。
アグニはそれを自身が持つ剣で受け止めた。
何度か剣を打ち合っているうちに、こんな場面なのに段々と楽しくなってくる。
「頭!」
タルクが煙幕を投げると同時に、アグニは素早く離れ裏口へ向かった。
アグニ達は子供達を連れ隠していた馬車と馬に乗り、一気に駆け出した。
一度だけ視線を建物へ向けると、ニヤリと笑ったアグニは馬車と共に去って行った。
―――
アグニ達が丁度侵入した頃。
「そろそろ良いだろう……おい誰かいるか!」
俺が呼び鈴を鳴らすと、男が入って来た。
「お呼びでしょうか」
「外の騒ぎは落ち着いたのか?」
「はい、ほとんど落ち着きました」
「じゃあ、そろそろ商品を見に行っても問題ないな」
「かしこまりました。ご案内いたします」
俺は男に連れられて、子供達が捕まっている建物の前へやって来た。
すると、入り口が中から開き、中を見張っていたらしい兵士がふらつきながら出て来た。
「おい!どうした!」
「うっ……ぞ、賊です!やられました!」
「なんだと!どういう事だ!」
「中にまだ!!」
「!」
兵士の話を聞いた男が、顔を青ざめさせて急いで中に入って行ったので、俺達も後を追う。
賊が去った後、空っぽの鉄格子の部屋の前で、男は呆然となっていた。
「これはどう言う事なんだ?」
俺が声をかけると、男の身体はビクリとした後、恐る恐るこちらを振り向く。
俺は心底失望したと言う顔をして、できるだけ冷酷な顔を作って見せる。
「ノアールの紹介で、遥々ここまで商品を買いに来たというのに……残念だ、非常に残念だよ」
目を細めて、見る俺に男は怯えたように返事をする。
「ヒッ!こ……これは、不可抗力と言いますか、その」
「もういい、後はノアールと話を付けさせてもらう」
「あっ……も、申し訳ございません」
「もうここには用はない。俺は帰らせてもらう」
「では、見送りを……」
「結構だ」
俺はそう言うと、建物を出るために歩き出した。
途中にあった細い縦長の窓から外を見ると、エマの言っていた事がわかった。
「塔が見えた……か」
確かに、この細い窓からチラリと見えただけでは。そう見えたんだだろうな。
アルディスが去った後の窓からは、こちらに向かって切り立った細い崖があるのが見えた。
馬車へ乗り込み、出発をさせる。
離れたところでやっと一息ついた。
「ふぅ、上手く行ったようだな」
「いゃ〜成功したすっね!」
「この後は国境付近で、クラウスが手配した者に子供達を託す手筈になってるはずだ」
俺達はこの後、急いで帰らずにわざと隣国で時間を潰して帰ることになっている。急いで帰って怪しまれるのを避けるためだ。
何かあれば、連絡が来るだろう……
今日泊まる宿に着くと、どっと疲れが出てくる。
「流石に演技し続けるのも疲れるな」
「よくあんな演技できるっすね、役者になれるんじゃないっすか」
「サインもらう」
「ならないから」
「しかも、アルディス様ったら頭と斬り合い始めるから焦ったっすよ!しかも二人ともちょっと本気になりかけてたでしょう!?」
「ついな……少しでも俺と繋がってると思われないようにな。帰ったらアグニと手合わせしてみるのも面白そうだな。後は、子供達が無事に着くことと、敵がどう動くかだな……」
―――
ノアールの元へ使いがやって来た。
「ノアール様、至急のご報告が来ています」
「どうしました」
「例の実験用の子供達が賊に寄って攫われました」
「!それで?」
「居合わせた、トライール様が応戦されましたが、煙幕を使い逃げられたそうです」
「トライール様が……そう言えば今日は彼を招いていたのでしたね……それで彼はどうしました?」
「気分を害されたそうですが……報告によれば、こちらの国に泊まられて、翌日帰られたようです」
「そうですか……彼には前回から迷惑をかけているようですね。後でお詫びの品を送りましょうか……それとも別の方法を……」
そこまで口に出した後、ノアールは報告の男を下がらせた。
「……」
部屋には思案に耽るノアールが残った……
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