60. 仮初の悪役貴族
俺はとりあえず近くにいた参加者の一人に話かけてみる。見た感じは中年の男性、服の生地や装飾がそれなりに良いので、何処かの伯爵家の者だろう。
「こんばんは」
「やあ、貴方も参加者ですかな?初めてお見かけしますね」
「ええ、招待して頂いたので」
「私は3回目の参加です」
「では、私の先輩ですね。こちらの事はまだ詳しくないので良ければ教えて頂けませんか?」
「ええ、良いですとも!」
「今日集まった方は何度も参加されている方が多いのですか?」
「いや、毎回参加する方もいれば、貴方のように初めての方もいらっしゃいますよ。ほら、あちらの蝶の仮面を付けている方や、あちらに座ってる黒い仮面の方は前の時も見かけましたね」
言われた方を見れば、窓際で話をしているタイトなロングドレスを着た蝶の仮面の女性と、ソファーには黒い仮面の男性がワイン片手に数人と話しているのが確認できた。
「先ほどノアールさんに信用を得れば、特別な場所へ招待すると言われたのですが、ご存知ですか?」
男は少し考えて、話し出す。
「多分、ここでの様子を見てるんじゃないですかね?それと、毎回余興があるのですが、それが関係している様ですよ」
「そうですか、ちなみに貴方は特別な場所へ行ったことはあるのですか?」
「いえ、私はまだですね」
「お話をありがとうございます。」
俺は、ワイングラスを支給の男から受け取り、窓際の蝶の仮面の女性の方へ歩いていく。
女性は俺が近づいて来たことに気づくと、口元に笑みを浮かべた。
「こんばんは」
「こんばんは、お話しても?」
「ええ、どうぞ。貴方は参加は初めて?」
「ええ、今日が初めての参加なんです。貴女は前にも?」
「ええ、そうよ」
「では色々教えて下さいませんか」
「うふ、何を聞きたいのかしら」
「そうですね、先ほどから何を見ているのか、とか?」
「暇だったから周りを眺めていただけよ」
「そうですか、私はてっきり参加者がどう動いて、何を話しているのかを主催者側として観察しているのだと思いましたよ」
「……」
「違いましたか?」
「……貴方、以外と鋭いのね。どうして私が主催者側だと思ったの?」
「目線の動かし方と立ち位置ですかね。部屋を見ていると言うより、参加者を見ている。しかもあのソファーの黒い仮面の男性の事は見ていない……見る必要が無いから視線を其方にはやっていない。あの男性も主催者側でしょう?」
「貴方、中々良いわね」
「お褒めに預かり光栄です」
「私達に気づく人は中々いないわ。貴方ならこちらに誘っても良さそうね、私はファラーシャよ」
そう言って、女性が人差し指を俺の胸に上からなぞる様に滑らせる。
綺麗な女性がすると、様になるな……仮面で殆ど顔見えないが、口元が妖艶だ。
俺は動じてないフリをして、女性の手を取るとその甲に軽く口を寄せる。
「俺はトライールです。お眼鏡に少しはかなった様ですね」
「今のところは……貴方のこと推薦しておくわ」
そう言って、女性が離れていったので、俺は適当に周りを観察したり、話しかけながら暫く過ごしていると、部屋の前半にノアールが出てきた。
「皆さん!本日の余興を行います!こちらにご注目下さい」
ノアールがそう言って手を叩くと、部屋の外から布が被せてある大きめの何かが、運ばれて来た。
「今日お見えになった方限定で、オークションを行います」
ノアールの一声で、参加者がざわめき始める。
俺は後方からじっと様子を伺う。
「では、今宵の商品をご覧下さい」
ノアールが合図をすると布が取り払われた。
「!な……!」
俺は一瞬声を出しそうになったが、周りの歓声にかき消された。
「おお!」
「これは凄い!」
布が取り払われたそこには、一人の少女がいた。
いや、ただの少女ではない。
紫色の魔石が胸に埋め込まれ、赤い魔力が目に見えるくらいに少女を包んでいる。
少女の目は虚ろで何も写してない、ただ時折うめき声を洩らしている……
「なんて事を……」
俺は手を握りしめて、必死に耐える……
今ここで飛び出せばこの少女は救える、だが他にもいたら?
「こちらの少女、元々の魔力が高い上に増幅機能や肉体も丈夫になっています。その為、様々な事が可能になっています。更に制御の為の首輪を付けているので決して主人には反抗出来ません。それでは、オークションを始めます!」
ノアールの声と共に、参加者が金額を言い合う。
どうする……このままだと誰かの手に渡ってしまう、それならあたかも、冷酷な顔で物として欲しいと思わせて買うしかない。
「金貨100枚からです!」
「金貨150!」
「私は金貨200よ!」
「ワシは金貨300じゃ!」
俺は一気に方をつけに出た。
「金貨500」
「「!」」
「金貨500がでました!他にはいらっしゃいませんか!?」
「……」
「いないようですね、その少女は私が貰うとしましょう」
「では、こちらの少女トライール様のものとなります。トライール様はお手続きの為、別室へ案内致します」
俺は、ノアールと一緒に別室へ向かった。
「やはりトライール様が落札されましたね」
「とても興味深く、面白そうだと思いましてね」
「そう言って頂けるとこちらとしても用意した甲斐がありました。トライール様はどうやら先ほどファラーシャの事にも気づかれたとか、推薦したいと報告を受けています」
「ああ、さっきの女性かですか……」
「私も貴方なら我々の仲間に相応しいかと、後日また改めて連絡致します」
「わかりました」
「商品は裏口へ回しておりますのでお受け取り下さい」
俺は裏口へ周り、少女を受け取ると馬車へ乗り込んだ。
このまま屋敷へ帰るより、ノアのところへ連れていったほうが良さそうだな……
俺はクラウスが用意した御者にノアの所へ行くように指示を出し、馬車を急がせた。
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