第一話 最悪の敵役に転生しました
「アルディス様、朝でございます」
聞き慣れない声に、俺は布団へ顔を埋めた。
「あと五分……」
「昨日も同じことを仰っておりました」
「昨日?」
その一言で眠気が吹き飛ぶ。
ゆっくり目を開けると、見知らぬ天井が目に飛び込んできた。
木目の美しい天井。
豪華なシャンデリア。
ふかふかすぎるベッド。
……どこだ、ここ。
体を起こして、部屋を見回す。
広い…。
ホテルのスイートルームどころではない。
というより、映画で見る貴族の部屋そのものだった。
「アルディス様?」
目の前には執事服を着た男性が立っている。
四十代くらいだろうか。
背筋は真っ直ぐで、表情は穏やか。
だが、明らかに俺を主人として見ている。
夢……じゃないよな。
頬をつねる。
痛っ
夢じゃない。
「お加減でも悪いのでしょうか」
「いや、大丈夫……たぶん」
とりあえず状況を整理しよう。
昨日はゲームをクリアした。
そのあと変なメッセージが出て、光って。
……そこから記憶がない。
まさか、嫌な予感がした。
「鏡」
「はい?」
「鏡ある?」
執事に少し不思議そうな顔をされながら、大きな姿見へ案内してもらう。
金色の髪。
赤い瞳。
整った顔立ち。
見覚えしかない。
「……」
「アルディス様?」
「うそだろ」
思わず鏡へ顔を近づける。
右を向く。
左を向く。
頬を引っ張る。
ちゃんと伸びる。
……アルディスだ
ゲーム『エターナル・クロニクル』
主人公最大の敵。
侯爵家の跡取り。
将来、敵組織へ寝返り、勇者に討たれる男。
よりによって、こいつかぁ……。
勇者でもなく。
仲間でもなく。
悪役である。
「アルディス様」
「……はい」
「本日は少しご様子がおかしいですが、本日の予定をお伝えしてもよろしいでしょうか」
「あ、お願いします」
執事は一礼した。
「午前は剣術訓練」
「うん」
「午後は領地から届いた報告書の確認」
「……仕事あるんだ」
「もちろんでございます」
ゲームじゃそんな場面、一度も見なかった。
悪役にも仕事はあるらしい。
「そして午後には、婚約者のセシリア様がお見えになります」
「……」
俺の思考が止まる。
「今、誰って?」
「セシリア様でございます」
「今日?」
「毎月お越しくださっております」
毎月!?
ゲームじゃ数回しか出番なかったぞ。
いや、違う。
イベントを思い出せ。
セシリア…。
……あ。
展覧会のチケットを持ってくるんだ。
ゲームでは、アルディスは受け取るどころか、その場で破り捨てる。
そして泣きながら帰るセシリア。
あのイベントだ。
「最低だな」
思わず口から漏れた。
「ご自分で仰いますか」
「いや、俺じゃない」
「……?」
「何でもない」
頭を抱える。
転生初日で好感度マイナスイベントか。
しかも相手は、ゲーム内でも屈指の良い子だった。
「執事さん」
「クラウスでございます」
「クラウス」
ゲームでは名前なんて表示されなかったもんな。
「はい」
「俺、最近何か変わった?」
「変わった……ですか?」
「例えば、人に優しくなったとか。」
クラウスは真剣に考えてる。
「……」
「ございません」
「大分考えたな」
「ええ」
「そんなに?」
「はい」
少しショックだった。
「ですが」
「ん?」
「今日のアルディス様は、先ほど侍女へ『ありがとう』と仰いました」
「え?」
「着替えを手伝った侍女に」
そんなこと言ったか?
寝ぼけていたから覚えていない。
クラウスは少し目を細める。
「侍女が泣きそうになっておりました」
「えぇ……」
「感謝のお言葉をいただいたのは初めてだったそうです」
前のアルディス、どれだけなんだ。
俺は思わず額を押さえた。
「……よし」
「何か決意されましたか」
「俺、改心する」
クラウスはしばらく黙っていた。
やがて真面目な顔で口を開く。
「熱を測りましょうか」
「ひどくない?」
「かなり」
「そこまで信用ない?」
「大変失礼ながら」
「うん」
「ございません」
「だよなぁ……」
侯爵家の悪役アルディス。
その評価は、俺が思っていた以上に地に落ちているらしい。
まずは、そこから何とかしないとか。
そう決意した俺は、まだこの身体に残る”もう一つの厄介な問題”を知る由もなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです!
もし良ければ、ブックマーク、評価、感想など頂ければ幸いです。
これからもどうぞ宜しくお願いします。




