第十七話 隠し仲間
薬の鑑定も、夜会についての調査も続いている。
だが数日が経っても、大きな進展はなかった。
「……待つだけというのも性に合わないな」
執務室で一人呟く。
夜会は攻略知識には存在しなかった。
だからこそ、今は動けるうちに動いておきたい。
そういえば……。
ふと、ゲームの記憶が蘇る。
ゲームでは仲間になるキャラクターがいる。その中には、普通にプレイしていては仲間にならない”隠し仲間”も存在する。
「確か……王都西地区の外れだったな。会って仲間に出来るかもしれない」
研究ばかりしている変わり者の魔術師。
特殊な条件を満たすことで仲間になるキャラクターだった。
俺は椅子から立ち上がった。
「クラウス」
「お呼びでしょうか、アルディス様」
「少し出掛ける」
「どちらへ?」
「王都西地区だ」
クラウスは一瞬だけ首を傾げた。
まあ、普通なら貴族が用がある場所ではないからな。
「あまり聞き慣れない場所ですが……何か御用でしょうか」
「前世の知識だ」
「承知いたしました。すぐ馬車を用意いたします」
それだけで察したのか、クラウスは静かに頷き馬車の手配に行った。
王都西地区。
中心街から少し離れた場所は、人通りも少なく静かだ。
攻略知識の記憶を頼りに路地を進む。
「……確か、この辺だったはず」
角を曲がると、小さな石造りの建物が見えた。
壁には煤が付き、煙突からは白い煙が上がっている。
「あそこか」
一歩踏み出した瞬間だった。
ドォォォン!!
爆発音。
建物の窓から黒煙が噴き出した。
「またか!」
「今日は派手だったな!」
近所の人たちは慣れた様子で笑っている。
俺だけが立ち尽くした。
「……」
「アルディス様?」
「いや……。ははっ、これはゲーム通りだな」
ゲームでも、この研究所は爆発が絶えなかった。
イベントを見るたびに煙が上がっていたのを思い出す。
扉を開け、中へ入ると…。
散乱した本やノート。
魔道具。
割れたフラスコ。
飲みかけのお茶。
何日前の物か分からないパン。
足の踏み場もほとんどない。
しかも机の上の怪しい薬品から煙が出ている。さっき爆発したのはアレだろう。…周りも焦げている。
「……酷いな」
クラウスも珍しく言葉を失っていた。
部屋の奥では、一人の男性が床へ寝転んでいる。
白衣のようなローブ。
白髪混じりの銀髪。
眠たそうな紫色の瞳。
「……誰だ」
ぼそり。
「邪魔したか?」
「……帰れ」
…ぼそぼそした声。聞き取りづらい。
「随分な挨拶だな」
「……はぁ」
ため息をついた後は、もうコチラを見ていない。
ゲーム通りの性格だな。
相変わらず研究以外に興味がないらしい。
「ノア、だったな」
その名前を口にした瞬間だった。
眠そうだった目がゆっくり開く。
「……なんで名前を知ってる?」
「少しな」
「……そうか」
興味を失ったように視線を逸らす。
…あれ?
俺は首を傾げた。
ゲームでは、ここから依頼が始まるはずだった。
ちょっと珍しい魔物の素材を集める依頼。
それを達成して仲間になる。
「そういえば、珍しい魔物の素材が要ると──」
「ああ…」
ノアは欠伸をしながら答える。
「……もう終わった」
「……え?」
「昨日採ってきてもらった」
「終わった?」
「ああ」
「…………」
一足遅かったか?全部では無いが、やっぱり攻略知識が役に立たなくなっている。
いきなり予定が崩れてしまったが…。
どうする?
「ノア」
「……忙しい」
即答か…。
しかしこれならどうだ!
ノアは魔法研究者だ、この世界では珍しい混合魔法を見せてみる事にした。
俺は右手へ魔力を集めた。
ファイアボール。
続いて風属性。
二つを重ね、ゆっくり制御する。
炎が回転し始め、小さな炎の竜巻へ変わる。
「こんな感じの魔法に興味ないか?」
「…………」
沈黙。
そして。
「……もう一度」
「ん?」
「もう一度だ!!」
さっきまでとは別人のような声だった。
ズイッ!!
顔が目の前まで近付いてくる。
「近い近い!」
「今どうやった!?風で支えてる!?いや違う、回転!?属性干渉!?なんで崩壊しない!?魔力循環は!?理論は!?式は!?もう一度見せてみろ!!」
「キャラ変わった!?」
「早く!もう一度だ!」
目が輝いている。
さっきまで眠そうだった人物とは思えない。
俺は思わずクラウスを見る。
クラウスは平然としていた。
「興味を持った対象には毎回ああなるようですね」
「そうみたいだな」
横で、ノアが早く!早く!と急かせてくる。
「もう一回!」
「分かった分かった!」
再び魔法を放つ。
ノアは食い入るように見つめ、ぶつぶつと理論を呟き始めた。
その間――。
気づけば、クラウスは静かに、床へ散らばった本を拾い上げ、本棚へ戻し、割れたフラスコを片付け、机を拭き、紙束を綺麗に積み直していく。
俺もノアも、その時は全く気付かなかった。
気付けば夕方。
「疲れたから、今日はこのくらいで終わろう」
「……え」
「また来るから」
「……本当か?」
「ああ、数日後になるが」
「しょうがない、わかった」
ようやく笑顔を見せた。
研究所以外では見せないような、子どものような笑顔だった。…よっぽど興味あったんだな。
帰ろうとして辺りをみると、部屋が綺麗になっている。
「……あれ?いつの間に?」
「部屋が広い…」
ノアも周囲を見回して首を傾げた。
クラウスが一礼する。
「少々気になりましたので」
「確かに少々ってレベルじゃなかったけど」
「執事として、アルディス様を汚部屋で過ごさせる事は出来ません」
「本来であれば、お二人がお話しされている間ではなく、到着前に終えておきたかったのですが」
「いやいや、一応他所の家だから!いくら汚いからって到着前は駄目だろ」
ノアは静かに呟く。
「……執事」
「はい」
「欲しいな」
「やらん」
「というか、勝手に掃除は良いんだな」
こうして俺は、少し変わった魔術師・ノアと知り合う事ができた。
ゲームとは違う形ではあったし、まだ仲間になるのかは分からないが、興味を持ってもらえた様で良かった。
アルディス達が帰った後。
ノアは一人、机に向かい猛烈な勢いで研究を始めた。
「アルディス、融合属性。…面白い」




