第十六話 現在の実力(後編)
的の準備ができるまで、少し休憩を挟む。
クラウスが冷たいお茶を差し出してきた。
一口飲む。
……さっぱりしていて美味い。
火照った体に染み渡る。
俺がお茶を飲んでいる間にクラウスは騎士たちへ指示を飛ばしている。
「的をご用意してください」
「はっ!」
騎士たちが訓練場の奥へ木製の的を並べていく。
距離は二十メートル、五十メートル、百メートル。
更に土壁を作り、防御力を確認するための標的まで準備された。
「準備が整いました」
「まずは基本属性から確認いたしましょう」
「分かった」
俺は深呼吸を一つ。
右手へ魔力を集める。
自然と頭へ魔法式が浮かんだ。
「──ファイアボール」
掌ほどの火球が現れる。
それを軽く振り抜く。
ドォン!
二十メートル先の的が燃え上がる。
「コントロールに問題はなし。狙い通りだな」
「思ってたより威力が高いな」
続けて五十メートル。
百メートル。
全て外さない。
騎士たちがざわつき始める。
「百メートルを外さない……」
「流石アルディス様……」
「命中精度は申し分ありませんね」
次は風。
「ウィンドカッター」
透明な刃が空気を裂き、的を真っ二つに切り裂く。
火よりも速い。
「風属性は速度に優れていますね」
続いて土。
「アースランス」
地面から岩槍が突き上がる。
的を貫き、そのまま後方の土壁まで砕いた。
土魔法は防御面でもも使えそうだな。
最後に水。
「ウォーターボール」
水球が放たれ、的へ命中すると同時に破裂する。
俺の得意属性が火と考えると威力はこんなもんだろう。だが、コントロールはしやすい。
一通り撃ち終えると、クラウスが口を開いた。
「どの属性も実戦で通用するレベルです」
「そうか」
少し安心した。
ゲーム知識だけではなく、この体の実力も十分通用しそうだ。
そうだ、たしかゲームでは属性魔法を組み合わせることが出来ていた。
この世界でも出来るんじゃ無いか?
「クラウス」
「はい」
「少し試したいことがある」
「お好きなように」
クラウスは興味深そうに頷くのを見て、俺は右手に火球を作り出し、続けてそれを風魔法で覆う。
二つの魔力をゆっくり混ぜる合わせる。
その瞬間。
ボフッと音がして霧散した。
「あー、やっぱり簡単にはいかないか」
「今、異なる属性を同時に使用となさりましたか?」
「ああ、そうだ。何かあるのか?」
騎士たちも不思議そうな顔をしている。
クラウスが説明してくれる。
「通常、異なる属性を同時に扱うことはいたしません。魔力の制御が非常に難しく、消費も大きくなります。そのため、一つの属性に絞るのが一般的です」
「例えば剣士なら、剣にその炎のみを纏わせるなどですね。魔法使いでも、同時に撃てる数や、大小の違いはありますが、一つの属性で攻撃をします」
クラウスの説明を聞いてなるほどと思ったが、さっき試した感じでは、複数同時魔法は可能な感じがした。
俺はもう一度試してみる。
もっとしっかりイメージするんだ。
火球を作る。
その後から風を流す。
魔力を混ぜるのではなく、周りを廻るように。
少しずつ。
少しずつ。
火球が、風に乗り混ざり始める。
消えない。
「……これは」
さらに風を強める。
火球は風に包まれ、高速で回転を始める。
その回転が徐々に炎を引き延ばし、
やがて小さな竜巻のような姿へ変わった。
「行け!」
放たれた炎の竜巻は一直線に的に向かっていく。
先ほどとは比べ物にならない速度。
ゴォォッ!!
木製の的を一瞬で焼き尽くす。
訓練場が静まり返る。
「……」
「……」
誰も声を出さない。
やがてクラウスが静かに口を開いた。
「見たことが……ございません」
「そうなのか?」
「ええ」
「そのような魔法は存じ上げません」
クラウスは珍しく驚いた表情を見せる。
イメージ通りに出来た。
風で火球を包み込み、回転と推進力を与えた。
ゲームでやっていた事だ。
まさか、この世界で再現できるとは思わなかった。
「面白いな」
この世界はまだ魔法の研究が進んでいないのか?
それとも、効率を考え誰も試そうとしなかっただけなのか。
思わず笑みがこぼれる。
まだまだ工夫できそうだ。
ゲームの知識は役に立たないことも増えてきたが、それでも、ゲームでやってきた知識と発想だけは、俺だけの武器になるのかもしれない。
クラウスが一礼する。
「アルディス様」
「本日の確認だけでも十分な成果でございます」
「ああ」
剣だけではない。魔法も十分扱える。
そして、まだ伸び代もある。
それが分かっただけでも収穫だった。
俺はもう一度、訓練場を見渡す。
(次は、もっと色々試してみるか。)
持ち帰った薬と夜会の報告が出来るまでに、時間はまだかかる様だし、その間に、本来ゲームで出会うはずだった人物についても調べてみるか。
仲間にできる者がいるかもしれない。




