第十五話 現在の実力(前編)
薬の解析も、クラウスによる夜会の調査も進められているが、今のところ目立った報告はない。
敵の正体は依然として不明か。
数日で尻尾を掴めるほど甘い相手ではないだろう。
今のうちにやっておく事は無いだろうか…
ああそうだ、調査結果を待っている間に、今の俺の実力がどの位なのか知っておきたいな。
クラウスに相談してみるか。
俺はクラウスを呼び出した。
「失礼いたします」
「クラウスにちょっと相談事だ」
「今の俺の実力を確認したい。場所と道具を用意してもらいたい」
「畏まりました、それでは模擬戦という形にいたしましょうか?」
「ああ、そうだな模擬戦だと分かりやすいな、クラウスにも確認してしてもらいたい」
椅子から立ち上がり、窓の外へ視線を向ける。
青空の下には屋敷の訓練場が見える。
「前世の記憶はある。戦い方もある程度分かる。」
「だか、この体が今どれほど動くのか、きちんと確かめたことがない」
ゲームではアルディスは強キャラクターだった。
だが、それはあくまでゲームの話だ。
実際の俺が、どこまで戦えるのかは別問題である。
「なるほど」
「ご自身の実力を確認するために必要、ということですね。」
「そういうことだ」
これから先、ゲームにはなかった出来事が増えるかもしれない。
その時に頼れるのは、前世の知識だけではない。
この体の力も把握して使いこなせる必要がある。
「承知いたしました」
「それでは訓練場をご用意いたします」
屋敷の訓練場
普段は騎士たちが鍛錬に励む場所だが、今日は訓練を一時中断してもらっている。
「アルディス様だ」
「模擬戦をされるらしい」
集まった騎士たちが小声で話している。
俺は壁に立て掛けられていた木剣を一本手に取った。
重さを確かめるように軽く振る。
空気を切る音が耳に心地いい。
「……悪くない」
「お相手はわたくしが勤めさせて頂きます」
すると向かい側でクラウスも木剣を手にした。
執事服のままなのが少し気になる。
「その格好でいいのか?」
「問題ございません。執事の常識でございます」
…絶対違う。
…戦う執事。クラウスだけな気がする。
それに本職は暗器使いだったよな。
なんか如何にも、悪役貴族の執事って感じだな。
筆頭執事を任されるくらいだ、実力はかなりのものだろう。
「アルディス様」
クラウスが木剣を構える。
その姿勢には一切の隙がなかった。
「本日は実力を測ることが目的ですので、まずはアルディスから打ち込んでみて下さい」
「ああ、分かった」
こちらも木剣を構える。
不思議な感覚だった。
構えた瞬間、まるで何千、何万と剣を振ってきた記憶が体中に蘇る。
悠斗としての知識ではない。
アルディスが積み重ねてきた経験。
この体が覚えている戦い方だ。
「では──」
クラウスが静かに息を吐く。
「始めます」
その声と同時に、地面を蹴った。
速い。
思った以上に体が軽い。
一瞬で間合いを詰めると、木剣を斜めに振り下ろす。
ガンッ!
乾いた音が訓練場へ響いた。
「っ!」
初撃は受け止められた。
いや、それだけじゃない。
俺の剣筋を読んでいたかのように、最小限の動きで受け流している。
二撃、三撃。
木剣が激しくぶつかり合い、その度に乾いた音が訓練場へ響く。
「流石ですね、アルディス様」
クラウスが穏やかに笑う。
「以前より動きが良くなっております」
「以前?」
「はい」
木剣を弾き返され、一度距離を取る。
「以前のアルディス様は、ご自身の力を信じて正面から押し切る戦い方を好まれていました」
俺は思わず眉を上げる。
「今は違うと?」
「ええ」
「今のアルディス様は、相手の動きをよくご覧になっております」
なるほど…。
それは俺がゲームを何度もプレイした経験や前世で得た知識。
相手を観察し、癖を読む。
そういう戦い方が、無意識に出ているらしい。
「次は私も反撃致しますので、そのつもりでお願いします」
「分かった。では少し本気でいこうか」
そう呟くと同時に、俺は再び地面を蹴った。
今度は先ほどよりも速く。
打ち合う度に段々と、周りの音が遠ざかり、気分が高揚してくる。
動きが単調にならない様に攻撃する。
クラウスからも容赦なく反則的な攻撃が飛んでくる。
中々動きが読みづらい。
…。
暫く打ち合い、お互い距離を取り、構えを解いた。
「アルディス様、剣の方は大丈夫の様ですね」
「そうだな、問題なく動ける様だ」
剣の感覚は掴めた。
なら、次は…魔法だな。




