第十三話 仮面の夜会
夜会当日。
鏡の前で黒い仮面を付ける。
……思った以上に怪しさがある。
衣装も黒。仮面も黒。装飾は金がベースに所々に赤が入っている。
悪役っぽくない?
「似合っております」
クラウスが静かに頷く。
褒められてもあまり嬉しくないんだか…
「何かあったらすぐ撤退する」
「かしこまりました」
紹介状を懐へしまい、馬車へ乗り込んだ。
夜会の会場は、王都郊外にある古い屋敷だった。
入口では全員が仮面を着けている。
なるほど、素性を隠すためか。
紹介状を渡すと、門番は無言で頷く。
「ようこそ」
屋敷へ足を踏み入れると、
音楽が流れ、
豪華な料理が並び、
貴族らしき男女が談笑している。
……普通だな。仮面以外。
少なくとも今は。
ゲームではこんなイベントは無かったはず。
あたりを軽く見回しながら歩いていると、
「初めてのご参加ですか?」
男が声を掛けてきた。
目元に黒い三日月が入った白い仮面。
年齢も分からない。
「ええ、知人に誘われまして」
適当に合わせる。
「そうですか、でしたら、今宵はゆっくりお楽しみください。良き出会いがあるかもしれませんよ」
そのまま去っていった。
……本当に普通の夜会なのか?
数人と会話をしつつも、あたりの様子もみていると、
ふと違和感に気付く。
時折り、白い仮面の男に声をかけられた後、奥の扉へ入っていく人がいるのが分かった。
しかも戻ってくる様子がない。
……あそこか。
扉の前には護衛が二人。
どうにか入れないだろうか…
その時だった。
一人の男が近付いてきた。
「失礼」
先ほどの三日月マークの白い仮面の男だ。
「お楽しみ頂けていますか?」
「ええ」
会話をしながらチラリと奥の扉に目をやる。
「…あちらの奥が気になりますか?」
「あちらはには、私が入る資格のある方のみを、案内しております。…どうやら貴方はその資格があるようですのでご案内いたします」
「どうぞこちらへ…」
…資格?
よくわからないが、これで中を確認出来る。
別室は空気が違った。
入り口近く机の上には小瓶が並ぶ。
濃い紫色をしている。いかにも怪しい感じだな。
そばに薬師らしき男が説明をしてくる。
「こちらでは最近開発された新たな魔法薬をお試し頂けます。気に入って頂けましたら、纏まった数の注文をお伺いします」
「薬の効果は、気分の高揚を促し、一定の幸福感を味える。さらに魔力も飛躍的に向上させます」
「生命の危険はございません」
……絶対ヤバいやつ。
攻略本とかに、飲んじゃダメって書いてあるやつだな。
夜会の招待客が一人、
薬を飲む。
数秒後。
全身に赤い魔力が走る。
「おお……!なんだか気分が!それに体が軽い」
「はは!あはは!!これは良い!」
「お気に召して頂けた様で、ではあちらでご契約致しましょう」
……。
確かに効いてはいるようだが…。
アレは…正常じゃない。
ゲームにも出てこなかった。
「如何ですか?ご興味ありますか?」
横から声がした。
振り向く。
三日月マークの、白い仮面の男。
他とは雰囲気が違う。
「そうですね、新しい力には興味があります。しかし、ここで飲むのは避けたほうが良さそうですね」
男は満足そうに笑った。
「ふむ。状況判断が早く周りをよく見てますね。やはりあなたは賢いようだ」
「私はノワールと申します。貴方のお名前をお伺いしても?」
……絶対偽名だよな。
なら、こっちも本名は名乗らない方がいい。
偽名、偽名……。
敵を欺き、最後には裏切る。
そういう意味を込めるなら――。
「……トライール」
男は満足そうに頷き、声を抑えて話し出した。
「トライール様、今の王国に満足していますか?」
……来た。
勧誘だ。
「どういう意味です?」
「貴族は腐っている」
「王も無能」
「この国はいずれ滅びます」
どこかで聞いたような話だ。
「だから我々は変える」
「力ある者だけの世界を」
やっぱり敵組織だ。
「興味は?」
「そうだな、私も王国には思うところがある……。面白い話だ。是非詳しく聞きたい」
「では貴方を歓迎しましょう!」
「あなたには仲間になる資格がある様です。次の集まりにも是非来ていただきたい」
男の雰囲気が嬉しいそうになったのがわかる。
上手く男の気に入る答えを返せたようだな。
「こちらは、次回の招待状です」
「ありがたく」
「期待しています」
予想以上の収穫だ。
ここで断る理由はないな。
招待状を受け取れば、満足そうに頷いた男は、会場へ戻っていった。
夜会を後にする。
馬車へ乗り込むと、大きく息を吐いた。
疲れた……
でも収穫は大きかったな。
ゲームイベントだったら最初のミッション成功だな。
ゲームには存在しなかった事件が、少しずつ姿を現し始めている。
……さて。
ここからが本番だ。
先は長そうだ。
…しかし夜会って疲れるんだな。




