172.宝飾品
「エディター?ですか?」
マラッカが訊いた。
「ええ。昨日皆さんが休みの間に少し頑張って簡単なエディターを作ったんですよ。」
アイルさんがオレ達が休み明けに出仕した時に、コンピューターのエディターの話をした。
やけに嬉しそうな表情をしている。
アイルさんはこの歳で休みも仕事しているんだな。
まあ、王国標準だとそれが普通のことか。
オレ達が休日というものに慣れ過ぎたって事だろう。
「今日の午後は、皆さんでこのエディターの動作確認をしてもらえませんか?」
「エディターって何です?」
「コンピューターの画面にテキストファイルの内容を表示して、カーソルを移動させてファイル内容修正するためのアプリケーションです。詳細は午後に説明しますね。」
テキストファイル?
カーソル?
アプリケーション?
やはり単純に質問しただけだと、返ってくる回答の意味が不明だ。
「では、今日は固体内部でのブロッホ波束の話をします。
先週講義した様に、金属の電子は電子はフェルミ面上に局在していて、それは球状の形をしていますが、結晶格子によるブラッグ面との関係で……」
疑問を置いてきぼりにして講義の話が始まってしまった。
オレ達は、毎夜、固体物理の勉強をしている。度々プログラムの勉強も強いられているのだが、これまでの仮配属の中では最も勉強をしている。
ただ、色々質問を繰り返した所為で、講義のために渡されている資料の1/3程度しか進んでいない。
アイルさんはこれまで3週間で資料全てを講義していたと言っていたんだが……この量の講義資料を3週間でって……そんな短期間で理解出来た文官が居たとしたら信じ難いことだ。
やはりジーナが言っていた通り、難解で理解不能なため評価が低いというのは正しんじゃないかな……。
午後になった。
「それではエディターの使い方について説明しますね。」
オレ達はアイルさんから説明資料を渡された。
文書は綺麗にそろった文字が並んでいた。
「今、渡した資料はエディターを使って入力したテキストファイルをプリントしたものです。」
アイルさんが見せてくれたディスプレイには、渡された資料と同じ文書が表示されていた。
「へぇ。コンピューターで文書が書けるんですか?」
マラッカが興味あり気に訊いた。
「そうですね。コンピューターの使用方法としては、文書を書くということもあります。インクで書くのと違って、書き間違いを直ぐに修正できるのがメリットですね。」
「手で書かれた文書より読み易いですね。」
モンさんは感心している。
「オレ、キーボードを打つのが……書いた方が早いんじゃないかな。」
ハムは憂鬱そうに呟いていた。
「私、もう慣れた。」
珍しくイルデさんが声を出して胸を張っている。
「オレもキーボードにある文字の場所は大体分かったかな。」
アンゲルも自慢気に言う。
オレとハムとモンさんとマラッカは互いに顔を見合わせた。
入力したい文字が、あの沢山のキーボードのスイッチのどこにあるのかを探すのは大変に違いない。
アイルさんは凄い勢いでキーボードを叩いていたけれど、あんな風に文字をコンピューターに入れるようになれるんだろうか?
エディターの使い方を読みながら実際に何かの文書をコンピューターに入れてみる。使い方に記載されている手順と実際の動作が違っていないかを確認するのが今日の作業らしい。
何か文書を入れると言われても思い付かない。
使い方の説明資料をそのままコンピューターに入力してみる。
「えーと、入力するときには「i」を押して……おっ、カーソルの形が変わったな。これが入力モードってやつか。それで……あっ入れ間違えた。その場合は、「ESC」を押してノーマルモードに戻してカーソルを移動させるのか……「j」でカーソルが下に移動して、「k」でカーソルが上に、「h」「l」で左右に移動させる……おっ、カーソルが移動するな。それで……文字を消すのは「x」で……一行消すのは「d」か……こんなもの憶えらえるのか?」
「大丈夫ですよ。慣れればキーボードを見ないでも考えた通りに指が動くようになります。」
突然背後からアイルさんに声を掛けられた。
どうやら、作業をしながら声を出していたみたいだ。
メンバーは新たに文書を書くのではなく、渡された使い方の説明資料や講義資料をコンピューターに入れていた。
あれほど自信満々だったアンゲルは、文字の場所を探すのに苦労していた。イルデさんはつっかえながらも軽快にキーを叩いていた。
やっぱり慣れないとダメみたいだな。
その日の午後は、エディターの使い方を学びながら操作方法に記載している内容通りに動作するかの確認をしていった。
概ね、記載されている様に動作した。奇しな動作をしたのは、マラッカが見付けた、「0」キーを押した場合に行頭にカーソルが移動しないで文書の先頭に移動するというものだけだった。
アイルさんはその発見に感謝した。そして大量のプログラムを睨んで必要な場所の修正をした。
修正されたプログラムは、即刻オレ達のコンピューターに移設した。オレ達は動作試験を続けた。
その間も、アイルさんはコンピューターに向ってキーボードを叩き続けていた。
何をしているのかを訊いたところ、アセンブラというものを作っているのだそうだ。先週までオレ達が紙に書いてd14進数に変換して、モニター経由でコンピューターに入れていた作業を自動的にするものだ。
自動的とは言っても、プログラムを自動で作るのではなく、マラッカがやっていたニーモニックの並びからd14進数に変換するところを自動で行なう。それでもニーモニックの並びさえ書ければ、あとはコンピューターがやってくれるのは楽になりそうだ。
「これまで作った膨大なプログラムをファイルの形に出来ますからね。OSに機能を付加するのも、修正するのも楽になる筈です。行く行くはスキームをコンパイラにすることも出来ますしね。」
「コンパイラ?ですか?」
「ええ。今のスキームはインタプリタなんです。これをコンパイラにすると直接コードを作ってくれるので動作速度を上げることが出来るんですよ。」
何の話をしたのかは分からないが、今アイルさんが話したのがコンパイラの説明とは思えない。
コンパイラについて何度も何度も訊いていくことで、それが段々と分かってきた。
要するに、スキームで書いたプログラムを自動でアセンブラに書き直してくれて、それをd14進数の列(これをコードと言うらしい)にするものらしい。
インタプリタというのは、書かれてある文字列のプログラムを順に読み取り、それを評価して実行する。その読取と評価が不要になる為にプログラムを実行する速度が飛躍的に速くなるんだそうだ。
その日は操作に慣れるという事を主眼に文書の入力を行なっていった。
時々自分の入力した作品をプリンターに送って出来具合を見せ合っていた。
確かに文字を入れるのに苦労するが、出来上がった書面は綺麗で見易い。
明日からは、メンバーで分担してこれまで作成したOSのプログラムを入力して欲しいと言われた。
翌日。
午後から、大量のニーモニックの列をコンピューターに入力する作業を行なった。
何クアト枚(=何百枚)もある紙をメンバーで分けて、分担してコンピューターに入力していく。
今、アイルさんが作っているアセンブラが出来上がったら、今後はOSのプログラムの変更や修正はエディターとアセンブラを使って実施する事になる。その準備の為の作業だと言われた。
そんな作業をしている最中、ジーナがやって来た。
特に用事があってオレのところに来た訳では無いらしい。
先日の知的財産の件は、王宮に問合せをしているところだと言った。
プログラムの説明をするのは簡単では無いので、先に絵画や音楽、物語、戯曲といったものの扱いをどうするかの議論を始めたらしい。
プログラムをどうするのかを考えるのはその後と言っている。
どうやらオレが手伝うのは、まだ大分先らしい。
今日は機械研究室で取り組んでいた地面を掘る道具が完成したので、その考案税申請書の最終確認をするためにするために、ジーナはメーテスに来た。
そして、その序でにここに寄ったらしい。
「あれは、使える様になったのか?」
「ええ、そうね。なんとか動く様になってから、何度も改良して、今では普通に地面を掘っているわよ。
あの道具があれば、魔法使いが居なくても地面に穴が掘れるわ。
魔法が使えない人のデイル人分(=12人分)ぐらいの作業が出来るじゃないかしら。
あの道具が完成したって、もう噂になっているらしくって、考案税申請書が纏まるのを待っている工房もあるわね。
既に何件も問い合わせが来てるもの。」
「へぇ、そうなのか。ただ、あれって気化して燃える液体が必要なんだよな?」
「そうなのよね。
だからマリム以外で使えるようになるのは、未だ未だ先でしょう。
兄さんが興味を持っていたみたいだけど、モーリ領で使えるのは、ずっと先になるでしょうね。
蒸留した酒を使うことも出来るらしいけど、それも蒸留する道具が必要になるし。」
「あっ、ジーナさん。調度良かった。今ニケを呼んでくるので、少し待っていてもらえませんか?」
オレとジーナが話をしているのに気付いたアイルさんが声を掛けてきた。
「あっアイルさん。お邪魔してます。
ニケさんと二人で私に用事があるんですか?」
「ええ。まあ、それはニケが来てからのお楽しみで。
リカルドさん。ニケに来て欲しいって伝えてもらえますか。ニケにはジーナさんとミケルさんが揃って居るからって伝えてくださいね。」
えっ、オレもなのか?
一体何だ。
アイルさんはリカルドさんに声を掛けた。リカルドさんは入口で警備している騎士に声を掛けて戻ってきた。
リカルドさんは、アイルさんの元を離れるってことは無いんだな。
それから少し経って、パタパタと音がした。
どうやら、ニケさんは小走りしている様だ。
ニケさんとメリッサさんが部屋に入ってきた。メリッサさんは幅広の箱を持っていた。
「本当だ。ジーナさんとミケルさんが居る。」
ニケさんは部屋に入ってくるなり声を上げた。
「ニケさん。私達に何か用事ですか?」
ジーナが、その声に応えた。
「つい、この前作ったんだけど、何時渡そうかと思ってたのよ。」
メリッサさんが、オレが作業をしている机の上に箱を置いて、蓋を開けた。
中にはティアラやネックレス、ブローチが入っていた。
「わぁ。綺麗。これって?」
「リリスさんに聞いたわよ。ジーナさんは結婚式でウェディングドレスを着てくれるんですって?」
ニケさんは、ジーナの質問に応えずに別な話をした。
「えっ、ええ。リリスさんから強く勧められたんです。」
「ふふふ。多分、第一号よ。一番最初が良く知っているジーナさんってのは嬉しいわ。」
「すると、これは結婚式で使う宝飾品ですか?」
どうやら箱の中に入っている宝飾品が結婚式関連のものだと思って訊いてみた。
「そうよ。実はリリスさんから衣装の話を聞いて作ったのよ。アイルが随分と頑張ってくれたわ。」
「本来なら、宝石だけ渡して、二人が気に入る様に加工してもらうんだろうけれど、加工職人に頼むよりボクが作った方が早いからね。」
「リリスさんからウェディングドレスに合わせるティアラやネックレスはジーナさんに貸す予定だって聞いたのよね。だったら私達がプレゼントすれば良いんじゃないかと思ったのよ。」
ジーナは、ただ目を輝かして箱の中を見ていた。
オレも中にある宝飾品を見てみる。
豪勢な装飾がしてあるティアラとネックレス、ブローチ。他にも何点かの宝飾品が並んでいた。
圧巻なのは、ティアラとネックレスだ。先日ボーナ商店でジーナが身に付けていたものと比べられない程に光輝いていた。
使われているのはダイヤモンドかな?それと、濃い赤色の宝石と、青緑色の宝石もある。
どの宝石も大粒で沢山あしらわれている。
特にダイヤモンドが凄い。これまで見たことのあるものと比べて輝き方が全く違っている。
「プレジェントですあ?」
ジーナが口が回らなくなったのか変な声を上げた。
「あっ。すみません。プレゼントして下さるんですか?」
「ええ。そうよ。折角結婚式で着飾るのに、それに使う宝飾品が借り物なんて詰らないでしょ?」
「いえ……でも、こんな高価なもの……。」
確かにとんでも無く高価なものだろう。こんな宝飾品を見たことは無い。こんなものを貰ったりしても良いんだろうか?
これを購入するとなると……一体どのぐらいするんだ?
「いいのよ。ちょっと手間が掛っただけでどうせ只みたいなものだし。ジーナさんにはお世話になっているからね。この前聞いたちょっとトンデモない考案税の金額からしたらこんなものじゃ足りないわよ。」
「身に付けるものでしょう?大きさが分からなかったから、二人が居るときに渡そうと思ってたんですよ。ちょっと身に付けてもらえませんか?大きさを変更しますから。」
それから、アイルさんは箱の中に入っていた宝飾品を取り出して、説明してくれた。
「これがティアラ、そしてこっちがネックレスです。これらはウェディングドレスと合わせてあります。ちょと派手なので普段使い出来ないと思って、簡素なネックレスとバングルを何種類か作ってみました。
それと、これがミケルさんのネックレスです。ミケルさんは結婚式の時はモーニングなんですよね?普段使いの為にフィブラも作ってみました。
それじゃあジーナさん付けてみてもらえますか?」
豪華なティアラとネックレスを箱から取り出して机の上に置いた。
箱の中から外に出したことで、さらに輝いて見える。
周りに居たメンバーもオレ達の傍に集ってきていた。
「凄く輝いているわね。」
「そうですね……見たことも無い豪華さです。」
「…………。」
マラッカとモンさん、イルデさんの女性メンバー三人が目を見開いていた。
「えーと。これを身に付けるんですか?」
「ええ。頭の大きさが合っているか、首回りの大きさがどうかを確認します。」
「そう……ですか。」
ジーナはそっとティアラを持ち上げて自分の頭に付けた。少し指先が震えているみたいだ。
オレはティアラの位置を調整してやった。
「少し大きかったみたいですね。ちょっとそのままでいてください。」
アイルさんがそう言うとティアラが少しだけ縮んだ。
「どうです?」
「ええ、大きさは調度良いかも知れないです。どう?ミケル。」
ジーナはゆっくりと左右前後に首を傾げてみた。ズレたりはしないみたいだ。
「ああ、調度良い大きさじゃないかな。」
「じゃあ、次はネックレスですね。」
オレはジーナに帯の様な金属に沢山の宝石が付いているネックレスを首に付けてあげた。
「こっちも少し大きかったみたいですね。じゃあ、そのままにしていてください。」
アイルさんがそう言うとネックレスが少し縮んだ。
「どう?ミケル。」
「ああ、綺麗だ。」
「えっ?」
「いや、大きさは調度良いんじゃないか……。」
いけない。変な事を言ってしまった。
ジーナの顔が真っ赤になっていった。
「おいおい、オレ達も見てるんだぞ。」
アンゲルがオレに声を掛けてきた。
まいったな。また暫く素見されるかも知れない。
「そして、これがバングルです。手を通してみてもらえますか?」
アイルさんはそう言って、箱の中から輪の形をしている宝飾品を幾つも取り出した。
ダイヤモンドがちりばめられているバングル、赤い宝石が鏤められているバングル、青緑色のもの、濃い青色のものと4種類が2つずつあった。
ジーナはバングルを手に通してみた。
「少し大きいかも知れないです。」
「やっぱり大きかったですか。そのままにしていてくださいね。」
また魔法でバングルが少し縮んだ。
「どうです?手から外せますか?」
「あれ?外れません。」
「少し小さくしすぎましたね。」
それから、バングルの大きさを調整していった。ジーナはバングルを着けたり外したり、手を握ったり広げたりしていた。
調度良い大きさになったところで、アイルさんが今度は宝石が付いた宝飾品を二つ箱から取り出した。
「こちらはミケルさんのものです。こちらの紐が付いているものはモーニングやタキシードを着ている時に首から下げてください。こっちはフィブラです。こちらは普段使いができると思います。
これは大きさの調整は要らないでしょう。」
一つは紺色の太い紐に黄色の親指2本分ぐらいの大きな宝石が付いていた。紐の長さが調節できるようになっている。
フィブラには大きさは同じで、明い緑色の宝石があった。
どちらも何だか不思議な輝きをしている。
「これは?」
二つの宝石とも光の当り具合で不思議な色に見えていた。見たことの無い宝石だったので訊いてみた。
「これはどちらもクリソベリル・キャッツアイ。ちょっと作るのが難しいんだけど、何とかこの大きさのものが作れたのよ。折角だから色の違うものを作ってみたの。」
今度はニケさんが応えてくれた。
「キャッツアイ?」
「猫の目みたいでしょ。猫目石とも言うわね。宝石の中に複雑な脈理があって不思議な輝きになるの。アイルに婚約の記念品で作ったものと同じ系統の宝石ね。」
「アイルさんのと同じ系統の宝石?」
驚いてしまった。二人の婚約式の時にアイルさんが身に付けていた宝石と同じものは国王陛下に献上されたと聞いている。そんな大層なものを貰っても……。
「アイルのは光によって色が変わるから、ちょっとだけ違うんだけどね。」
少しだけ安心したのだが……それでも大層なものじゃないか……。
「そんなものを貰ったら困ります。」
「いいのよ。ジーナさんと結婚するんでしょ。気にする事は無いわ。それに魔法のお陰で元手は無いからね。」
「しかし……。」
かなり恐縮してしまった。
「ニケが良いと言っているんですから良いんですよ。ジーナさんのお相手の宝飾品が貧弱だと形になりませんからね。」
「そう……ですか……。」
押し切られてしまった。
「これも凄いな。見たことの無い宝石だ。ミケルやったじゃないか。」
「そうですね。不思議な輝き方をしてますね。」
アンゲルとハムがオレに声を掛けてきた。
これで間違い無く、素見され続けるな。
「それで、これは結婚指輪です。指の太さが分からなかったので、ジーナさんとミケルさんの其々の左手の薬指に嵌めてみてもらえますか?」
最後にアイルさんは小振りの銀色をした輪の形をしたものを箱から二つ取り出した。
結婚指輪?それって何だ?
「何ですか?その結婚指輪って?」
「あれ?」「へ?」
アイルさんとニケさんが顔を見合わせている。
「えーと。結婚指輪って無いんですか?」
ニケさんが訊いてきた。
今度はオレとジーナが顔を見合わせた。
「ええ。聞いたことが無いです。」
ジーナが応えた。
「えっ、結婚って契約ですよね。その証しとしての指輪の交換なんですけど。無いんですか?」
契約って?何の契約だ?あっ、そうか婚約と混同しているのだろうか?
「婚約なら両家の契約ですけど、結婚って契約じゃないですよ。
それに婚約の契約も高位の貴族家なら契約の形を取りますけど……男爵位同士の家だと口約束だけで、そんな手続きも無いです。」
「えっ、それなら結婚式って何ですか?新郎と新婦が契約をする式じゃないんですか?」
「ガイア様に誓いを立てるんです。大地に子孫を残していきますという誓いですね。
強いて契約って言うなら、ガイア様との契約ですか?
それと婚約という契約を履行したっていう報告というか……。」
「そうね。そんな感じだわね。式自体はお広めの意味が強いかも。」
ジーナがオレの言葉に続けて言った。
「何か勢いで作っちゃったって事?」
「そうだな。父さん達に聞いておけば良かったな。」
「ダムラック司教も悪いわよ。相談した時にそんな事言ってなかったじゃない。」
「指輪は必要ですとか言ってたんだけど、あれはどういう事だったんだろう?」
「また、神の国のって話にしているんじゃないの?」
「その可能性はあるな。」
「大体、あの司教は私達の話を否定しないのが悪いのよ。私達はここの風習を知らないから訊いているのに。」
「それで、どうする?この結婚指輪。」
「でも、式の質問をした時にあの司教、使うって言ってたわよね。」
「そうだな。指輪の交換をするって言っていた。」
「あれって、ジーナさん達の結婚式の話だったよね。」
「そうだろ。あっ、先にオレ達の世界でどうだったのかを頻りに聞いていたけど。」
「それで、それに合わせようとしているのかしら?」
「そうかも知れない……。どうしようか?」
「折角作ったんだから、どうするか別にして二人に渡したら良いんじゃない?」
「そうだな。折角だし、結婚式でどうするかは別にして渡しておけば良いか。」
アイルさんとニケさんは二人で話をしていた。
良くは分からないが、話の流れでは、ダムラック司教様に結婚式の事を二人は相談したみたいだ。
その上で結婚式で指輪を使うと聞いていたらしい。
結婚式に指輪を使うなんて話はこれまで聞いたことも見たこともない。
しかし……司教様を「あの司教」呼ばわりしているのは……大丈夫なのかな……。
「ジーナさん、ミケルさん。結婚式はともかく二人にお揃いの指輪を作ったのでお渡しします。」
どうやら話は付いたみたいだ。オレ達にこれまでの宝飾品に加えて揃いの指輪をくれるらしい。
指輪を見ると細い輪に沢山の細かな草花の文様が刻まれていて、花の場所に小さな宝石が嵌め込まれてある。
指輪の裏側には、オレとジーナの名前と結婚式の日付が刻まれてあった。
この指輪もそうだが、ティアラもネックレスも皆銀色をしている。
「これって銀製ですか?」
「いいえ。プラチナ製よ。」
ニケさんが応えてくれた。
「プラチナ?」
「銀だと表面が黒くなっていくじゃない。金だと柔らか過ぎて削れちゃうしね。だから金より硬くて変化しないプラチナにしたのよ。」
プラチナというのはエレメントの名前だったな。確か周期表で金の側にあった筈だ。
実際に見たことは無かったが、化学の教科書で触媒に使うと書かれてあったと思った。
とても安定な金属という説明もあったな。
それから、オレとジーナはアイルさんから渡された銀色の指輪を左手の薬指にて嵌めてみた。これも少し太かった。。
その後、アイルさんが魔法で指輪の太さを調整してくれた。
「ジーナさん。あの司教がこの結婚指輪を結婚式で使うって言っていたから、式の進め方を一度確認しておいた方が良いかも。」
「ニケさん。ダムラック司教様の事をそんな風に言うのは……。」
ジーナがニケさんを宥〈なだ〉める様に言った。
「良いのよ。あの食いしん坊のことは呼び捨てでも。」
「えっ?食いしん坊?司教様がですか? 」
「そうよ。領主館にスパイを忍ばせている食いしん坊なのよ。」
「スパイ?それって何……」
「ニケ。ジーナさんが困っているじゃないか。司教様の事はそのぐらいにしておきなよ。」
「そうね。でも、二人が思い描いている結婚式とは違う式になるかも知れないわ。」
「それって、ニケさんたちの記憶にあるという神の国の結婚式ですか?」
「神の国って……それは誤解だと思うけど……でもあの司教は私達の記憶にある結婚式の事を聞いていたのは確かね。」
「そう……なんですね。一度確認しておきます。」
「それで、この宝飾品はリリスさんのところに預けて置きますね。結婚式の着付けはリリスさんがしてくれるのでしょう?」
「ええ。ドレスを着るのは一人では難しいので。」
「でも、楽しみだわ。」
「ニケさんも結婚式に来てくださるんですか?」
「ええ。その心算よ。」
それから、結婚式の話、衣装の話、今回の宝飾品の話をしていった。グループのメンバーも話に加わった。
気付けば就業時間も終りになり、その日は殆ど作業をすること無く、終わった。
ちなみにアイルはVimmerなので、エディターはVi準拠です。




