第40話ドラゴンの背中
「バサッ、バサッ」
アユムがスズキの店を朝早くに出ようとすると、上空から風を巻きおこしながら降りてくる生物がいた。
その、生物の体長は五メートルはありマグマに熱されたように体は赤く。
全身の筋肉が均等に発達しているのか、氷竜とは違った力強さを感じる。
「スズキさん、これはどういう事ですか?」
目の前にいる、生物の背中に乗っているスズキを見つけたアユムは説明を求めて聞いた。
「やー、ムラサメの転移魔法が使えないなら僕の相棒を使えばいいんじゃないかなって思ってね」
「相棒……」
スズキさんの相棒ってドラゴンだったのか。
「僕の相棒は見ての通り火竜だからね」
「でも、いいのか? その間店は」
「大丈夫、その間はムラサメが店番してくれるからね」
「それに、僕の相棒ならそんなに時間はかからないよ」
たしかに、ドラゴンに乗っていけば転移魔法よりは時間がかかるだろうけど、普通に行くよりは大幅に時間短縮ができる。
「じゃあ、スズキさん死の森まで頼んでいいですか?」
「あぁ、もちろん!」
「てか、君の相棒はすでに乗ってるみたいだけどね」
「おー、凄い! この子の背中あったかい!」
いつのまにか、火竜の背中に乗っていたフェンは背中や翼などを興味深そうに触ったりして遊んでいた。
「あいつ、いつのまに」
「あの子の、身のこなしの良さはさすがだね」
「じゃあ、行こうか。人が集まってくる前に」
そういうと、慣れた動作で火竜の背中に乗った。
スズキの後を追うように、火竜の背中に飛び乗ると装着してある椅子に腰かけた。
「なんで、椅子なんてあるんですか?」
座れて、楽だからいいけど。
「この子は、基本物を運んだりするのが役割だからね」
「僕の仕事柄、目的の物を集めるために動き回らないといけないから。少しでも、楽ができるように椅子を着けたんだ」
「ドラゴンが運搬用にって、贅沢ですね」
「まぁね、僕も腕には結構自信があるからね」
戦闘でも鍛治でもってことか。
「じゃ、そろそろ行くよ? ラン」
スズキが、火竜の名前を呼んで背中を撫でると。あっという間に、上空に上昇していった。
「高っ、これは落ちたらendだな」
「大丈夫、落ちてもランが口でキャッチするから」
「体がボロボロになるわ!」
「それにしても。気持ちいいですね」
ドラゴンに乗るなんて初めてのことだからな、風が気持ちいい。
フェンの方を見ても気持ちいいのか、笑顔だ。
銀色の髪が風になびいて、というより吹き飛ばされそうだな。
「スズキさん、ちょっと風の勢い強くないですか?」
あの、フェンが飛ばされそうに……。
「大丈夫! いままで、落ちた人はいないから」
本当か?
「キャッ!」
悲鳴の方を見ると、フェンの体が浮いて後ろに吹き飛ばされていた。
「大丈夫じゃねー!!」
フェンの腕を掴もうとした、アユムの手は風を掴むことしか出来なかった。
「スズキさん、どうするんだよ!?」
焦るアユムに、落ち着いて深呼吸をするんだとスズキは言った。
少し、冷静になったアユムの耳に「きゃー! 楽しい!」と言う悲鳴というより歓声が聞こえてきた。
無言で声の方に行くと、火竜の尻尾がフェンのお腹に巻きついていた。
フェンはというと、風に流れを任せて楽しそうにしている。
「だから、言ったろ? 今まで落ち人はいないって」
ニヤニヤと、悪い笑みを浮かべるスズキに魔法を放とうと思ったが。
今はフェンが無事だった嬉しさの方が大きかったので、スズキに対して何かをすることはなかった。
その後も続いたハプニングを回避しながら、数時間の時間が経った。
徐々に、陸の方を見ると見慣れた森が広がっていた。
陸にいる時には見ることができなかった、死の森の全体を見て言葉が出なかった。
「広すぎるだろ、、終わりが見えない」
「ご主人様、あそこにライちゃんいるの?」
「あぁ、このどこかにな」
死の森でライのいる場所を探すために上空をひたすら飛んでもらっていると、火竜が何かに反応したかのように急降下を始めた。
「あれ? どうしたんだいラン?」
「おい、どうなってんだ」
「うーん、何かに引き寄せられてるみたいだね」
「とりあえず、振り落とされないように何かに掴まって!!」
そういうと、スズキは椅子にしがみついた。それを見たアユムも椅子にしがみつくとフェンを抱き寄せた。
「また、飛ばされる訳にはいかないからな」
アユムの腕の中にいる、フェンはこんな時なのに嬉しそうに目を細めていた。
「ドンッ!!」
風の抵抗を感じなくなったのと、地面に降りた時発生した衝撃を感じて周囲を見渡すと。
一人の可愛い魔物が、ミノタウロス、ウィッチ、スケルトンキング、ドラゴンと言った一体でも村や国を壊滅させる魔物に包囲されていた。
あれ、前見た光景に似てないか?
前は、毒竜だけだったけど今回はそれレベルが10体その配下が100体ってとこか。
「アユムくん、まさかあの子がドライアードとかだったりするのかな?」
「ははっ、そうです」
それを聞いたスズキの顔からは血の気が引いていった。
「アユム君、どうするの?」
「いや、助けますけど」
「だよね、わかった倒すんじゃなくてあの子を回収して速攻で逃げよう」
「ですね、スズキさんは戦闘向きではないですし」
そう言っているうちにも、ジリジリとライを囲む魔物達はその距離を縮めていた。
「じゃあ、やってきます。サポートお願いします」
そういうと、アユムはスズキ作の滅龍刀『氷柱』で周りの雑魚達を斬りつけていった。
斬り裂き、魔法を打ち込む。
その光景を見た、並みの冒険者はきっと鬼神や闘神の戦いの神から加護をもらっているのではないかと疑うだろう。
「あれ? これ、僕のサポートいるかな?」
さっきまで死人のような顔をしていた、スズキは目の前の一人の青年の強さに困惑していた。
「えっ、アユム君ってここまで強いのかい?」
ムラサメの話では、こんなに強いとは聞かされてないんだけど。
そうやって、スズキが考え事をしているうちにもアユムは熟練の侍のような動きでミノタウロスの腕を斬り落とし。
後ろからキレ味の良さそうな大剣でアユムの首を切り落とそうとする、スケルトンキングの攻撃を受け流し。
強化した足で骨を砕いた後に、闇魔法グラビティで粉々にしてしまった。
その背後から、ドラゴンがブレスを放とうとしていた。
それを見たスズキは
「アユム君後ろだ!!」
と叫ぶが、アユムは聴こえてないのか他の魔物の相手をしていた。
スズキがカバーに入ろうとする前に、放たれたブレスを見て終わったと思ったスズキの目の前に現れた大きな神々しい狼がブレスで迎え撃っていた。
「ナイスカバーだぞ、フェン」
褒められて気を良くした、フェンはブレスで押し切ると遠吠えをあげた。
「まさか、フェンちゃん?」
恐る恐る聞く、スズキに対してそうだと言わんばかりに胸を張る狼を見てスズキは唖然とした。
アユム君にフェンちゃん両方ともなんなの?
さっきまで感じていた親近感が吹っ飛んだよ……。
そこから、始まったのは一方的な蹂躙だった。




