第34話一難去ってまた一難
「終わったのか……」
そう言って、後ろを振り返ると、先程までの神々しい姿から普段の見慣れた愛らしい小さな狼の姿に戻っていたフェンが、尻尾を振ってこちらを見ていた。
「分かったよ、ありがとうな。フェン、助かった」
その、撫でろといわんばかりの態度を見て、魔力を使いきり精神的、肉体的に疲れていたアユムは顔をほころばせながら、フェンの頭を優しく撫でてやる。
「グルル」
そう言って、気持ち良さそうに目を細めるフェンを見つめながら、最後まで協力してくれることはなかったが時折こちらを気にしていたムラサメに声をかけた。
「倒したぞ」
その一言を聞いて、閉じていた瞼を開けてこちらを見つめてきたムラサメは
「よくやったね、お弟子くん」
と、短い労いの言葉をなげかけた。
「それだけか?」
頑張ったんだけどな、アイツのことだからもっと、オーバーに褒めてくると思ったんだが。
「もっと、褒めてほしかったのかな?」
そんな、アユムの胸の内を見透かしているのか意地悪な先輩を思わせるような笑顔を見せながらからかい始める。
「別に……」
興味の無い素振りを見せるも、その後しばらくはムラサメの思惑にはまったのとフェンを助けてもらったという。
恩を感じて、反撃することが出来ないアユムを楽しそうにからかうムラサメの笑い声が響いた。
◆
「いやーー、お弟子くんそんな、恥ずかしがらなくていいんだよ?」
そう言いながら、アユムとフェンの倒した氷竜の素材で使える部分を当たり前のようにアイテムボックスを使いドンドンと入れ始めた。
「だから、恥ずかしがってもないし! 別に褒めてほしかったんでもないからな!」
「ご主人様、顔赤いよ? 大丈夫?」
心配した、フェンがアユムの顔に両手を添えて首をかしげると。
「プッ、フフ……」
その横で、そんな二人の光景が可笑しいとでも言うように口を手で隠し肩を震わすムラサメが突如刀を抜いた。
「どうした!」
さっきまで、笑っていた人物とは思えない何かに警戒しているような顔をしたムラサメに何があったか聞こうとすると。
『何者だ、我が領土に侵入するだけではなく私の同族を殺すとは。生きて帰る気は無いようだな』
いつのまにか、アユムの背後に先程とは違う竜がたたずんでいた。
なんだ、人語を喋る竜……ってことは、あのダンジョンで見た黒い龍と同じか!!
やばい、龍がいるなんて聞いてないぞ!
龍のスキルを奪おうにも、魔力がゼロの状態じゃスキルは使えない。
発動するには、最低限の魔力が必要なのに!
それに、スキルを使う一瞬の隙を見逃してくれるとは思えない。
ここは、アイツに頼るしか。
「お弟子くん、フェンちゃんを連れて離れて」
「転移魔法を詠唱するための、魔力を溜める間私はこの子の相手をしなくちゃ。だから、危ないから下がってて」
今の俺にできることは、アイツの邪魔をしないことだけだ。だからせめて、邪魔にならないようにこの場から離れないと。
だけど、ここまでとはな。
目の前で起こっている、一匹の龍と一人の侍の人外の戦いを見ながらため息まじりにつぶやいた。
あの、龍の種族は銀氷龍。
名前の通り、体は銀色の輝きを放ち、さっきまで戦っていた氷竜とサイズはあまり変わらないが、明らかに氷竜の欠点であった耐久力と長所であった機動力が強化されている。
その、証拠に繰り出す攻撃が壁に当たるとそのまま、壁を壊してしまう。
氷竜は耐久力がないからなのか、体を傷つけないように壁にぶつかる前に止まっていたが。
目の前で、暴れている銀色の龍は傷ついた様子も見られずすぐさま次の攻撃にうつっていた。
「スキルは、氷関連ばかりだな」
魔力がなくても、スキルを見る鑑定能力は使えるので銀氷竜のスキルを見ると。
やはり、氷魔法という見たことのない魔法や固有スキルのブレスなど想像した通りのスキルで埋め尽くされていた。
それも、全てのスキルのレベルがありえないほど高く魔力さえあれば今すぐ奪いたいスキルばかりだった。
そんなことを、考えていると。
「お弟子くん! 魔力が溜まったから、行くよ!」
ムラサメは転移魔法を放つために、アユムとフェンのところまで急ごうとするとその行く手を阻むように銀氷龍が回り込んだ。
その様子は、同胞を殺した侵入者を逃がさないと言っていると感じることが出来た。
ムラサメは、邪魔されることを予測していたのか慌てる様子も見せずそのままアユムとムラサメを結ぶ直線上にいる龍に向かっていく。
『愚かな!』
そんな、ムラサメの動きを止めようと。マグマをも凍りつかせるのではと思わせる冷気のブレスでムラサメを凍りつかせようとする。
「ムラサメ!」
咄嗟に、出た言葉に自分でも驚きながらムラサメの方向を見ると。
突如聞こえた、自分の名前を呼ぶ声の主がアユムだと確信したムラサメはニヤリと口角を上げて、スピードをあげ。
そして、視界から消えた。
正確に言うと、早すぎて見失ったのだ。
その、状況を説明するならその言葉しかないだろう。
一瞬で、移動したムラサメがいた所が例のブレスによって凍りついたと思ったら龍の首から血しぶきが上がった。
ムラサメは、冷気のブレスを放って止まっている龍のところまで移動すると首のところまで跳躍し首を斜めに斬り裂いた。
それも、右側から斜めに斬り裂いたのではなく左側からも斜めに斬り裂いた。
斬り裂かれた傷に気づいた龍は、その痛みに耐えて逃がすまいとムラサメの方へ振り向くがその時には遅く。
ムラサメはすでに、フェンを抱えて待っていたアユムのところにたどり着いていて。
【転移魔法】
を唱え、その場から本日二度目の魔法を使いその場から離れた。
その場には、同胞を殺され自慢の体をいともたやすく傷つけられた気高き龍の怒りの咆哮だけがこだました。




