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黄泉送りタクシー、鹿沼の出勤簿④ 【全4話完結】〜きさらぎ駅へようこそ〜  作者: 鬼喜怪快


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きさらぎ駅へようこそ③




 東雲翠は、

 都市伝説として有名な

 きさらぎ駅を目の当たりにし、

 興奮していた。



「大スクープよ!

 この場所を写真に収めてからなら、

 後悔なくあの世に逝ける。

 確かに、あの運転手の言った通り、

 誰に評価されるわけでもない。

 出版社に持ち込めるわけでもない。

 でも……

 これでわたし自身が満足して逝けるのよ」



 深夜の駅構内を東雲は歩いた。


 不思議と人の気配はない。



「これ……。

 どこで切符買って、ホームに入れるの?

 せっかくだから電車も撮っておきたい。

 もちろん内装もね」



 切符売り場はない。


 あるのは無人の改札のみ。



「キセルって言うの?

 無賃乗車になっちゃうけど……。

 見つかったら謝ればいいっか。

 だって駅員さん1人もいないんだもん。

 これって電鉄会社が悪いもんね」



 東雲は都合よく、

 自分にそう言い聞かせ、

 改札を潜ってホームへと

 小走りに駆けて行った。



 ——————



 その頃、

 ロータリーでは——



「まったく、

 どこに行ったのでしょうね。

 さすがに駅構内には

 入っていないでしょう……」



 鹿沼は辺りを見渡す。


 

「どんなに鈍感な人間でも、

 この駅の異質さには気づくでしょう。

 それとこの……」



 ——誰もいないはずの空間から感じる視線。



「これで駅に入って行くなど

 愚の骨頂ですからねぇ」



「!」



 電車の音がする。


 このきさらぎ駅に到着するようだ。


 駅の外から、

 不気味なホームが見える。

 2番ホームに到着するようだ。



「2番ホームですか……

 縁起が良くないですねぇ。

 黒切符の2番、

 地獄への2番ホームですから……」



 鹿沼の目に、

 遠くの電車が1本映った。



「電車自体は、同じもののようですね……」


「!」



 2番ホームに、

 東雲の姿が見えた。



「おやおやおやおや!」



 鹿沼がフェンス近くまで駆け寄る。



「東雲様!

 すぐに引き返してください!

 絶対に電車に乗ってはいけません!」



 鹿沼の声に気づいた東雲は、

 大きく手を振った。



「次の駅で降りるからさ!

 待っといてよ!

 内装の写真も撮りたいの!」


「いけません!

 あの世の電車は好きに乗って降りられる

 代物ではありません。

 内装など放っておいて帰ってきてください!」


「何よ……。

 あの運転手偉そうに……」



 ——電車がホームに到着。


 

 鹿沼の必死の忠告に

 不満を持ったものの、

 彼女自身もうっすらと感じていた

 この駅の異様さ。


 この時ばかりは、

 ロマンを追うカメラマンも、

 鹿沼の忠告を聞くことにした。



「うるさいわね!

 あなたの言うことを聞くわけじゃないけど!

 無賃乗車になりそうだから戻ってやるわよ!」



 そう言うと、東雲は踵を返した。



「!」



 彼女の真後ろに、

 先ほどまではいなかった駅員が立っていた。



「えっ?

 いつの間に?」


「……」



 その駅員は、

 無表情で獣のような目をしながら

 彼女を見下ろしていた。



「ごめんなさい……。

 お金払ってないので、

 一旦改札まで戻りますぅ」



 東雲は駅員に警戒しながら、

 ホームから改札に戻ろうとした。



「!」



 今までいなかった。

 いや、見えなかった人の群れが、

 東雲を電車に押し込んだ。



「ちょっと!

 やだ!

 嘘でしょ!

 わたし乗らない!

 出ますから、わたし降りますからぁ!」



 フェンス越しに一部始終を見ていた鹿沼。



「東雲様!」



 電車に乗り込んだ東雲が、

 窓ガラスから鹿沼を見ている。


 必死の形相で何かを叫んでいるのがわかった。



「助けて!

 鹿沼さん!

 何とかしてよぉ!」



 窓ガラスを必死で叩いている姿が見えた。



「どういうことでしょう?

 先ほどまでホームには東雲様しかいなかった。

 それなのに突然駅員が現れて、

 電車が到着したと同時に、

 あれだけの乗客が姿を見せた?」



 電車がきさらぎ駅から出発する。



「まずいですねぇ。

 次、どこの駅に停車するのかも

 わかりませんよ」



 鹿沼は意を決して、

 構内に入った。


 改札口に駅員の姿が見えた。



「すみません!

 今、ここから乗られたお客様で、

 正規の切符を発行されないまま乗られた方が

 いらっしゃいます。

 次の停車駅で降りてもらいますので、

 停車駅を教えていただけませんか!?」



 その駅員は、首を斜めに傾けながら

 表情を一切変えず、

 鹿沼を見つめていた。



「あのっ!

 わたしの話、聞いてますか!?」


「……」



 駅員から反応がない。



 その表情と視線からは、

 まったく意思を感じられなかった。



 ——ピピピピッ ピピピピッ



 スマホが鳴り出した。


 第4支部の春畑からだった。


 鹿沼は、

 構内から出て再びロータリーに戻りながら

 電話に出た。


 

「もしもし!

 鹿沼ドライバー!

 ご無事ですか!?

 とりあえず、すぐにその場を離れてください!」


「!?」


「先ほどお送りいただいた写真ですが、

 あれは何を撮影されたのですか!?」


「駅ですよ。

 ロータリーから駅の建物と、

 ホームを撮っただけ——」


「送られてきた写真は、

 廃墟の建物から無表情の人々が

 一斉にこちらを見ている写真でした!」


「!」


「第2支部からの情報です。

 ロータリーを出て、

 2つ目の信号を右に曲がって、

 そのまままっすぐ進むと山が見えます。

 その山道を真っ直ぐに進まないとダメみたいです」


「山道をまっすぐ?」


「見える木々はすべて幻。

 ひたすら闇の中を走れば、

 夜霧のトンネルに入れます」


「そうですか。

 素敵な情報をありがとうございます」


「とにかく、

 お客様とすぐに移動してください!」


「それがですね……」


「!?」


「はぐれてしまったのですよ……」


「ならすぐに探さないと!」


「きさらぎ駅から

 電車にお乗りになりました……。

 次の停車駅までお迎えに行こうと

 思うのですが、

 第2支部の方に次の停車駅を聞いていただけませんか?」


「それ……

 いまさら間に合いますか?」


「……さぁ、どうでしょう。

 ただ、なにもしないわけにはいかないでしょ?

 会社的にも……」


「……すぐ。

 確認を取ります」



 きさらぎ駅から1人、電車に乗った東雲。


 仕事柄、

 乗客を放ってはおけない鹿沼は、

 再びタクシーに乗って走り出した。



 

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